技術×スピード×品質。日本と中国のハイブリッドでつくる未来

2018/11/30

100年後のスタンダード、“未来の壁”popIn Aladdin

部屋の白い壁に映し出される映像。──あるときはコックピットの映像が流れ、子供達はまるでパイロットになった気分で世界中を疑似旅行。
またあるときは、紅葉が美しい渓谷の映像と流れる水の音を聞きながら、コーヒーを片手にホッと一息。夜になれば世界の絵本を映して、家族みんなでコミュニケーションを取る。
これが、“未来の壁”popIn Aladdinだ。
従来のプロジェクターとは違い、家の天井にある引掛シーリングに取り付けるだけで設置完了。部屋の照明と高性能プロジェクター・高音質スピーカーがドッキングしており、リモコン操作もしくは音声操作で、簡単に見たいコンテンツを選べる。
Aladdinから映し出せるのは、美しい風景や壁時計、ヒーリングライト、フォトメモリー、世界の絵本などのオリジナルコンテンツのほか、YouTubeやAbemaTV、NETFLIXなどの動画サービスなど多岐にわたる。
この製品を生み出すきっかけとなったのは、popIn株式会社代表・程 涛氏が個人で始めた「子供の世界観を広げる」ためのモノづくりだった。

子どもの世界観を広げる、自然な情報接触

「私には5歳・3歳・1歳の子どもがいて、家の中で簡単に子どもの感性を育て、世界観を広げてあげるにはどうしたらいいかを考えていました。そのとき目に留まったのが壁に貼ってあった『あいうえお』の学習ポスターです。これは見たいときに見られる情報の自然な接触方法だと思い、紙のポスターに代わるものを作ろうと考えました。」(程氏)
程氏は紙のポスターに代わるものとしてプロジェクターが近いと考え、市販のプロジェクターを使って試行錯誤した。しかし、実現したい世界観は作れなかったという。
「気軽にコンテンツを切り替えられないし、そもそもプロジェクターの置き場所が問題でした。そこで、置き場所として邪魔にならないのは天井だと考え、既存のプロジェクターと照明を組み合わせ、教育コンテンツを投影できるプロダクトを自作しました。」(程氏)
程氏が自作したプロダクト。市販のプロジェクターで制作。
作ったプロダクトは、程氏が自宅で使う完全にプライベートなものだった。しかし、子どもの世界観を広げられるようなコンテンツを、スマホなどのパーソナライズされたデバイスではなく、大画面で一緒に見たいニーズは世界共通のはずだと程氏は考えた。
そこで、popInと経営統合した親会社である中国の検索エンジン最大手・バイドゥに、バイドゥが持つ高度な音声認識システムや、バイドゥのDuerOSと組み合わせて製品化しないかと提案。
こうして、自宅で使っていたプロダクトは2018年1月、未来の壁をコンセプトに、子どもだけでなく大人も楽しめる良質な製品として開発することが決まった。

6拠点7チーム、複数企業のグローバル連携で開発

ここから中国と日本のハイブリッドによって、驚異的なスピードで開発が進む。
「中国のハイスピードな開発と日本の高クオリティなモノづくりを掛け合わせ、中国は北京、深圳、上海、成都、日本は東京と長野という6拠点7チームがタッグを組み、ソフトウェアやハードウェア、シーリングライト、音声認識機能などを作りました。
popIn自体は当時20名程度の組織。単独では難しいので複数企業とグローバル連携した結果、ゼロからの開発でも8カ月後の9月には市場に出すことができました。」(程氏)
グローバル連携でプロダクトを開発。
IoT市場の成長スピードは速いため、販売を2019年まで待てなかった程氏。
バイドゥが持つR&Dセンターや協力工場と連携して高度かつスピーディーな開発を進めつつ、クオリティを担保するために日本の高品質なモノづくりを手がける企業と連携。安全面は日本の大手企業が最初から参加して厳しくチェックしていたという。
さらに、この8カ月でプロダクトの開発だけでなく、量販店などの販売ルートや物流、コールセンターなど必要な機能もすべて連携させ基盤を確立させた。
こうしてできあがったpopIn Aladdinは、非常に高い技術力で作られていることが触った瞬間にわかるプロダクトだ。
コンテンツの立ち上がりも切り替えも驚くほどサクサクで、リモコンでの音声認識も反応が素早い。さらに、映像などの情報は面白いほど壁に溶け込むため、いかにも投影しているという感じはしない。
日本の家電量販店での販売を皮切りにAmazonや楽天市場でも販売を開始しており、今後は、popIn Aladdinがよりニーズに合った映像や情報を映し出せるよう、コンテンツの拡充とリアルとの連携だけでなく、世界展開も視野に入れて進めていくという。

はじまりは、東京大学の研究室

ところで、popInとはどういう会社なのか。創業は2008年、程氏が東京大学情報理工学研究科での発明をビジネス化するため、東大発ベンチャーとして誕生した企業だ。
自然言語研究に基づいて、メディアの記事やコンテンツを読解・分析して価値を可視化し、良質な情報・広告だけを「おすすめ記事」としてレコメンドするDiscovery事業を展開。
特許技術の「READ機能」により、ユーザーの意欲を解析して読まれる記事をレコメンドでき、サイト外への離脱確率を低下させる。複数のアルゴリズムによって「熟読のループ」を作り出している。
サービスをリリース以降、ニュースメディアをはじめ多くのメディアからの引き合いがあり、当時わずか5名の会社ながらpopInは急成長を始める。そして、創業から7年が経った2015年、バイドゥからM&Aの話が舞い込んだ。
バイドゥと経営統合した当時
「いくつかの企業からお声がけいただいたのですが、バイドゥを選んだ理由は3つあります。1つは海外展開できること。なかでも中国は必ず進出したいと考えていました。2つ目はAIの高い技術力を持っていること。そして3つ目は経営権を持って独立したベンチャー企業として動けることです。このすべての条件が合致したのがバイドゥでした。」(程氏)

次の挑戦はDiscoveryとAladdinの融合

popInはバイドゥと経営統合後、翌年には海外進出を果たし、台湾と韓国に支社を設立。
さらに、バイドゥのAI技術を用いてDiscoveryのリニューアルも実現させた。2017年にバイドゥからpopInの取締役副社長として出向し、Discovery事業を統括する高橋大介氏はこう語る。
「バイドゥのAI技術によってレコメンドは高度になり、画像識別によって安全・安心なコンテンツのみを配信できるようになりました。
そもそもAI技術を使うとサーバーなどの資金面が課題になりますが、経営統合によってバイドゥの潤沢なヒトモノカネを使えるので、popInにとって大きな追い風になっていると思います。
現在、国内は約700メディア、海外を含めると1000を超えるメディアがDiscoveryを導入しています。」(高橋氏)
これからpopInが注力したいのは、DiscoveryとAladdinの融合だ。より人が幸せになれる良質な広告、生活に浸透する広告を、生活シーンや利用デバイスにふさわしいタイミングで配信することで、唯一無二の存在になろうとしている。
「例えば、旅行したくなるような広告映像がAladdinから流れて、翌朝の通勤中にスマホから、その旅行に必要な旅費や日数、おすすめスポットなどが書かれた記事広告をレコメンドされたら現実味が増しますよね。
他にも、飛行機の操縦席から世界を見られるようなコンテンツで、飛んでいる飛行機の色が赤や青だったら、子どもはその色の飛行機に乗りたいと言うでしょう。新幹線や豪華列車が走る映像に目を奪われている子どもがいて、そこにチケットを購入できるリンクがあれば購入するかもしれない。
Aladdinなら、家庭内に自然と入り込み、子どもの世界観を広げられる良い広告配信ができると思っています。」(高橋氏)
DiscoveryとAladdinの融合に加えて、IoT製品の開発・販売基盤を得たpopInは、これから新たな製品開発にも取り組んでいく。
これらの実現のために必要なのは、約30名の組織にジョインする新しい仲間。最後に、求める人材について高橋氏に語っていただいた。

30名規模の今だからこそ、できることは無限

高橋 popInとバイドゥの技術力やグローバルでの協力体制、広告やメディア、IoT、AIなどのアセットを組み合わせて、世の中に新しいプロダクトを生み出したい人に来てもらいたいです。
次々と新たな価値を創出したいので、事業をデザインできる人が理想ですね。
それから、中国や韓国、台湾、アメリカにpopInやバイドゥの支社があるので、アグレッシブに世界に行って挑戦したい人。海外出張の機会は年に何回もありますし、現地のエンジニアとプロジェクトを立ち上げ、目的を成し遂げるまで戻ってこない人もいます。
とはいえ、そんなに甘い話ではないのでコテンパンにやられて帰国することは多々ありますが(笑)、それでもまた挑戦しようと闘志を燃やせる人は面白い環境だと思いますよ。
まだ30人の会社だから個々の裁量は非常に大きいですし、今このタイミングだからこそ、できることやチャンスは多くあります。中国と日本のハイブリッド開発によるグローバルビジネスや、自分の可能性に挑戦したい人は、ぜひ話を聞きに来てください。一緒に未来を作りましょう。
(取材・文:田村朋美、写真:岡村大輔、イラスト:星野美緒)