独自の市場性を持つ名古屋。そこに眠るイノベーションの種とは?

2018/11/28
変化の時代を迎えた金融業界。地域にしっかりと根差してきた地方金融機関のあり方も大きく変わろうとしている。そんな中、金融スキルを持った地域のビジネスパーソンが集まるワークショップをアクサ生命保険とNewsPicksが共催。3回目となるイベントが名古屋大学OICXで開催された。ここでは第1部のトークセッションの様子をリポートする。
 東京、大阪イベントに続いて、パネリストは地銀出身で現在ベンチャーキャピタリストとして活躍している五嶋一人氏(株式会社iSGSインベストメントワークス代表取締役 代表パートナー)
 さらに、名古屋を中心にメディア事業とデジタルマーケティングを手掛ける株式会社IDENTITYの碇和生氏と、人工知能を活用して配送業務の効率化を行う「物流×人工知能」の名古屋大学発テックベンチャー、株式会社オプティマインドの松下健氏を迎えた。
 モデレートはNewsPicks Brand Design Creative Directorの呉琢磨が務めた。
 名古屋ベンチャーの注目のキーパーソン2人とともに、名古屋経済やスタートアップの現状、金融への期待などをテーマにトークは進んだ。
 回を重ねるごとに進行もブラッシュアップされ、これまで以上に大きな盛り上がりを見せた。
「4」から「10」になるために
 まずは名古屋の経済特性と、スタートアップにとっての環境について伺います。
 僕は相対的に「良」だと思います。よく地方に行くので、現地のVCと話すことも多いんですが、やっぱり名古屋は経済的に恵まれている。他の地方都市に比べると売り上げがつきやすく、融資も得やすい。
 でも、スタートアップに必要な「0→1」の部分に、シードマネーがなかなか回ってこないのは確かで、そこが名古屋に足りていないところだと思います。
松下 僕はポジティブな意味もネガティブな意味もふくめて「堅実」だと思います。良い意味では、市場が大きく、資金があり前向きな意思決定ができる企業が多いところ。
 名古屋に進出する東京のスタートアップも多いと考えると、やっぱり名古屋の市場性は魅力的です。
 一方、「堅実」のデメリットは、スピード感を上げる環境がなかなかないこと。これはスタートアップとして命取りになってくる。碇さんがおっしゃった「0→1」や、その後の「1→5」ぐらいのところが、どうしても東京に比べると遅れてしまう。
 一度波に乗ると事業としての売り上げは立ちやすいけれど、そこに至るまでのスピードというか、「スタートアップ感」が課題だと感じています。
 お二人とも環境としては悪くないけれど、課題もあるということですね。
松下 名古屋はスタートアップが起きない、面白いベンチャーがないっていうマイナスイメージを、自分たちで発信しちゃっているところもある。
 そうじゃなくて「名古屋にも面白いベンチャーはいっぱいある」「名古屋はベンチャーがイケてる都市」と自分たちで思えればスピード感も上がるし、そういうマインドセットが重要ですね。
松下健(まつした・けん)/1992年生まれ、岐阜市出身。岐阜県立岐阜高校卒業。名古屋大学情報文化学部を卒業し、名古屋大学大学院情報学研究科数理情報学専攻博士前期課程修了。現在、博士後期課程に在籍中。専門は組み合わせ最適化アルゴリズム。2015年に合同会社オプティマインドを創業。2018年9月に、国内最大級のスタートアップ登竜門であるICCサミット KYOTO 2018 スタートアップカタパルトで優勝。
五嶋 私は「4/10」。名古屋という土地のポテンシャルを「10」とするなら、スタートアップの現状は感覚的には「4」ぐらいという意味です。
 名古屋だけじゃなく、大阪や福岡も含めて起業を促したり、起業家をサポートする空気は、行政も含めて日本中で作られてきている。だけど「起業家を助ける人を助ける」という環境は、まだ東京にしかないと思います。
 というか東京ですら薄くて、大阪はもっと薄いし、名古屋は更に薄いという感触です。起業家を増やす・育てる、ということにとどまらず、将来的に起業家を助ける仕事にもっとたくさんの人たちが参加しないと、「4」は「4」のままなのかなと思っています。
 東京ではこの3年ぐらい、「2周目」の人たちのエコシステムができあがりつつありますね。
 メルカリの小泉文明さんを筆頭に、資金面だけでなくメンタリング(メンターとして対話したり助言を行うこと)を買って出たり、自らがエンジェル(創業後間もない企業家に資金提供や経営指導などの支援を行う個人投資家のこと)になって周りを育てるというような空気があります。
松下 それこそ、東京には家入一真さんやけんすう(古川健介)さんみたいな方がいるのはすごく貴重ですよね。名古屋ではMisocaの豊吉隆一郎さんが頑張っておられますが、他にいないというのが現状。我々もそういう存在になれるように頑張らないと。
 カルチャーの違いもありますね。ちょっとびっくりしたのが同年代の起業家が、結構少ないこと。僕は今33歳なんですけど、東京だと20代半ばから30代前半ぐらいがスタートアップのボリュームゾーン。名古屋ではもう少し上になりますね。
碇和生(いかり・かずお)/大学在学中から複数の事業・株式会社を立ち上げ、30歳を節目に活動を東海地方に移して株式会社IDENTITYを設立。『あらゆる地域にデジタルシフトを』をミッションに、スタートアップや大手企業を対象としたデジタル領域での事業開発支援を行う。投資や人材育成を通じ、名古屋の起業家エコシステムを形成するためのスタートアップコミュニティ「Midland Incubatars」広報戦略パートナー。
五嶋 メルカリ会長兼CEOの山田進太郎さん、VOYAGE GROUP代表取締役社長兼CEOの宇佐美進典さんとか、東京のベンチャーで活躍している名古屋や愛知県出身の方はすごく多い。
 また、エイチームやMTGみたいな面白い企業もたくさん生まれてもいる。
 でも、そこに次の若いベンチャーが連鎖的に続いている印象はあまりないのがもったいないと思います。
 経済規模も大きく、理系の優秀な大学や理系メーカーもたくさんある。つまり優秀なエンジニアがいくらでもいる環境だと思うので、ベンチャーが創業するには本当に良い場所です。
 そのあたりの力が、スタートアップにうまくジョイントされていないのかなという印象ですね。
五嶋一人(ごしま・かずひと)/地銀で法人融資を担当し、ソフトバンク・インベストメントを経て、2006年に株式会社ディー・エヌ・エーに入社し横浜DeNAベイスターズの買収など数多くの投資・売却案件を主導する。2014年からは株式会社コロプラでベンチャー投資とM&Aに従事。2015年10月に株式会社iSGSインベストメントワークス代表取締役、代表パートナーに就任。
地方に眠るイノベーションの種をともに掘り起こす
 続いては、名古屋の金融マンにこれから期待することを伺います。
松下 僕は「フランクさ」です。金融業界の方は結構堅いというか(笑)。新任のごあいさつのアポで電話をかけてこられたり、突然オフィスに来てくださったりするのですが、取り込んでいるときは時間が取られちゃうので。
 皆さんの会社的にはアウトだと思うのですが、例えばメッセンジャーでつながって「こういう提案どうですか?」「こういう会社紹介しましょうか?」みたいなスピード感を合わせていただけるとうれしいです。
 もちろん、こちらも金融業界の方々との付き合い方を学び、歩み寄る努力も必要ですが……。
五嶋 僕も基本的に電話は出ないし、メールも2日に1回ぐらい見るだけです。当然そこは反省している部分もあるのですが、もしこちらに歩み寄っていただけるならば、ちょっと電話とメールは減らす方向にしていただけるとありがたいなと(笑)。
 やっぱり思った以上に、カルチャーの違いがあるんですね。金融とスタートアップがうまく付き合えるかどうかは、そこが左右するのかもしれません。
五嶋 そういった意味でも、僕は金融マンに「ベンチャーに会う」ことを期待します。皆さんはこういう場に来ていただいているだけでありがたいんですが、ベンチャーという生き物を何となく遠巻きに眺めているような人も多いと思います。
 「あいつらやっぱりバカだな」「うらやましいな」「すてきだな」「本当にクソガキだな」とか(笑)、さまざまな印象をお持ちかもしれませんが、とにかく、若いベンチャーの経営者や、そこで働く人たちと積極的に接点を持って、会っていただきたいなと思います。
 金融機関で働く皆さんの方から「興味があるから会って」と頼まれれば、多分どこのベンチャー経営者でも会おうとするはずです。
 そこで関係ができた後は、地域の金融機関が持つ「地元のコネ」を提供してほしいですね。スタートアップがリーチできないところのコネクションやフットワークの軽さを、うまく融合できるといいなと思っています。
 今一緒にブランドづくりを進めている岐阜県の美濃白川茶の農家さんも、もともとは役所の方の紹介ですし、岐阜の十六銀行さんからはものすごいテクノロジーを持っている地域のメーカーさんを紹介していただいたこともあります。
 そういうスタートアップの世界には出てこない情報を出してくれると、何かできることがあるのかもしれないですね。
 ここ最近「地方にこそイノベーションの種が埋まっている」ということが言われているじゃないですか。ではそれをどうやって発掘するのかを考えたときに、ネットを調べているだけでは情報は出てこないんですよね。
 直接現地に行くとしても、どこに行けばいいのかが分かりにくい。その水先案内をしてくれる人がいると、地方活性化にも直結するんじゃないかと思いますね。
五嶋 僕はインターネット産業を中心に投資をさせていただくことで商売しているので実感しているのですが、いま「インターネットの限界」が明らかに見えていて、ネット上に転がっていて検索すれば無料でたどり着けるような情報には、何の価値もなくなってきています。
 この反動で、地域で長くやってきた方、熱量を持ってやってきた方のバリューは、ここ2、3年で急速に上がってくると思う。そことベンチャーの新しいテクノロジーがうまく結びつくと、大きいビジネスにつながるはずです。
 そういう意味で今は絶好のタイミングなので、金融の皆さんの力が今まで以上に必要になってくると思います。 
スタートアップの空気に触れられる「場」を
 起業家や投資家にとって名古屋が魅力的になるには何が必要でしょうか?
 僕は「流動性」だと思います。先に言ったように、お金や人はなくはないけど、掘らないとない状態。つまり、街自体に流動性や柔軟さが欠けていると思います。
 人の部分では、皆さん一度就職されるとなかなか辞めない。週末に副業的に手伝ってみようという人も全然いない。
 また、出資とか融資も流動性がなくて、不確定要素が高いところには全然踏み込まない。そのあたりの流動性を高めて、もっと人とかお金がグルグル動いていくと、元気な街になれると思っています。
呉 これだけ働き方の多様性が叫ばれている中で、もっといろいろな人とつながって、新しいスキルを学ぶようなチャレンジが許容されていけば良いですね。
 そうした多様性は個人の働き方だけじゃなく、会社の仕事にもあてはまると思います。
 スタートアップをやっていると、急に試算表が必要になることが多いのですが、自前でやろうとすると、普段から月次でちゃんと整理しておかないと難しい。
 ということをある名古屋の会計事務所の若手の方に話したら「試算表なんて一瞬じゃないですか」と言われまして(笑)。
 そういう金融の高いスキルセットを、例えばスタートアップ向けに月額制のサービスにするとか、Slack(ビジネスチャット)で簡単にお願いできるみたいな状況になればよりありがたいですよね。
 これは大阪のイベントで、akippaの金谷元気さんがおっしゃっていたことにも通じますね。創業したての頃、銀行に事業計画書の提出を求められて「事業計画書って何ですか?」みたいなことがあったそうです。
「やるならいま」の関西スタートアップ。金融マンが地域経済を変える
松下 僕は「結果」が必要だと思います。まずは成功したベンチャーの数を増やして、 名古屋の魅力を全国のベンチャー、スタートアップ関係者に知ってもらうこと。
 一方で、全国のベンチャーが名古屋に集まることも重要。例えば東京のスタートアップの方が名古屋に出張にきたときに、名古屋のスタートアップメンバーが集まって話せるような場を作る。
 そのためにも、金融系の方が持っているネットワークをぜひ活用していただきたいと思います。例えば本社のイノベーション推進室長のようなポジションの方や、東京のスタートアップ支援担当の方なんかに、私たちの情報を伝えてもらうだけでもありがたい。 
 情報や人がもっと双方向に動くことで、名古屋のスタートアップや市場の良さが広まっていくと思います。
五嶋 私も同じく「場」が必要だと思います。福岡だと「Fukuoka Growth Next」、大阪なら「OSAKA INNOVATION HUB」に行けば、地元の人たちとつながれる。
 名古屋は、福岡・大阪と同じぐらいの経済規模がある都市なのに、どこに行けばスタートアップの人たちがいるのか、誰にお願いしたら会えるのかが、正直僕は分からないんです。そこは碇さんたちに(笑)、頑張っていただきたいところですね。
 僕がもともと東京のスタートアップに知り合いが多いということもあって、結構うちにはいろいろな人が来ていただけるんですね。
 先日も、うちのメディアとタイアップしたRettyさんが、名古屋でイベントをやっているときに、オフィスに遊びに来てくれたりとか。そういうことは少しずつ増えています。
五嶋 起業家がどんな「生き物」なのかは、身近にいないと分からないところがありますよね。特に、起業や転職をしたい人がスタートアップの空気に触れたり、経営者の方が起業家に気軽に話を聞ける環境があるのはすごく大切なことなんです。
 だから、力業でもよいので、まずはそういう場を名古屋に生み出すことが大切だと思います。
(執筆:國本和成 編集:奈良岡崇子 撮影:合田慎二 デザイン:九喜洋介)
※本イベントと同テーマで「東京編Vol.2」の開催が決定しました。応募詳細は下記の記事をご覧ください。
【追加開催決定】地域の未来を創る「地銀マンの役割」とは