くらしのイノベーションを持続させる、スマートタウンの100年ビジョン

2018/11/22
神奈川県藤沢市にある「Fujisawa サスティナブル・スマートタウン(SST)」は、約50年間操業していたパナソニックの工場跡地を使って、2014年にまちびらきした。スマートタウンというと先端的なテクノロジーや次世代インフラが注目されるが、100年ビジョンを掲げるこのまちでは、いかに世代を超えるコミュニティを形成するかが重視されている。
まちびらきから4年半。これまでの取り組みと100年後のビジョンについて、2人のキーパーソンに聞いた。
100年先の社会課題を解決する、新しいまちづくり
── パナソニックがスマートタウンを手がけることになったきっかけは?
荒川 この土地にはもともと、パナソニックの冷蔵庫や白黒テレビを生産していた工場がありました。その工場が役目を終えることになり、地域に貢献できる跡地の活用法として、藤沢市が抱えていたさまざまな課題や、社会全体の課題を解決する先進的なまちづくりをご提案したんです。
 2010年には藤沢市と基本協定を結び、都市交通機能の強化、防災・減災、少子高齢化に対応するコミュニティ機能などを盛り込んだまちづくり方針を共同で作成しました。また、そのコンセプトに賛同いただいたさまざまな企業とともにFujisawa SST協議会という組織を設立し、産官学連携でまちづくりに取り組んでいます。
1997年松下電器産業入社後、光源デバイス関連の研究開発に従事。プラズマ放電物理モデルなどの基礎研究、照明や液晶テレビのバックライトなどの商品開発に携わる。2010年から光源デバイスの事業戦略・経営企画を担当。2014年からFujisawa SSTプロジェクトに参画。Fujisawa SST協議会事務局長としてまちづくりのマネジメントを統括するほか、BtoB協業による新規事業の企画を担当。2018年からはパナソニックのSST第2弾となるTsunashima SSTの推進責任者も兼務している。
 スマートシティというコンセプト自体は、1970年代までさかのぼれます。2000年頃からはエネルギーマネジメントを起点にしたスマートグリッドという考え方が勃興しました。ただ、その後なかなか成功事例が出てこなかった。やはり、インフラや施設だけではダメなんだ、重要なのは「人」なんだというふうに意識を変えてきたのがFujisawa SSTでの取り組みだったと思います。
── 大高さんはFujisawa SST協議会の一員として、まちのコンセプトづくりに参加されています。
大高 私が最初に本プロジェクトに関わったのは、2011年。Fujisawa SSTのランドスケープを決めるところからでした。パナソニックさんのまちづくりにかける想いに、我々デベロッパーの知見を融合させようと、ここまで走り続けてきました。
 このプロジェクトに参画するにあたって海外のスマートシティ事例も随分と調べましたが、こういったまちのコンセプトが確立された事例はほとんどなかったんです。ただ、我々には人々のくらしやすさをより良くするためにはどんな住宅やランドスケープがよいかという知見がありました。日照や通風を確保し、景観を保ちながら、パナソニックや藤沢市とともにまちのコンセプトを実現する方法を考えてきました。
1991年三井不動産販売(現・三井不動産レジデンシャル)に入社後、広報部を経て戸建住宅・マンションの販売営業に携わる。2011年、同社横浜支店開発室の主管に就任。住宅地開発、市街地の再開発事業を推進する。2011年からFujisawa SSTプロジェクトに参画し、パナソニック、藤沢市とともに街区のランドスケープデザイン策定に貢献。2015年同社横浜市店副支店長 開発室長、2018年Fujisawa SSTマネジメント取締役に就任。
 当社のまちづくりの思想には、時が経つほどに住まいへの愛着が深まり、そのまちでくらすことの価値と喜びが大きくなってゆく「経年優化」という言葉があります。「経年優化」のまちづくりには、街並みを美しく保つことはもちろん、コミュニティを形成し、機能させていくことも必要です。
 これまでのいろいろなまちづくりのなかで、地区計画や住民の皆さまによるタウンルールなどの取り決めを設けてきましたが、強制しすぎてもまちは発展しません。住民の皆さま自身の意志で「こんなまちにしたい」というビジョンを持つことが大事だと考えています。
 その根本的な部分でパナソニックさんと共感し、コンセプトに賛同できたので、同じ方を向いて協力し合っていけるだろうという安心感がありました。
テクノロジーではなく、人のくらしを起点にする
── 次世代のスマートタウンといっても、技術ではなく、人やコミュニティ起点のまちづくりを追求されているところに独自性を感じます。
荒川 そうですね。技術という意味では、もちろんインフラ設計にもこだわっています。
 例えば、二酸化炭素70%削減という環境目標を数値化して、戸建住宅に太陽光パネルを、公共エリアにはコミュニティソーラーを設置するなど、ガイドラインを設けてまち全体でエネルギーマネジメントを推進してきました。
 また、まちづくりについて協議を重ねている最中に東日本大震災が発生し、防災・減災への意識が高まりました。そこで、3日間のライフライン確保を目標に、非常時に企業が事業を継続するための行動計画(※BCP)の考え方をまちづくりに取り入れ、復旧までの備えを万全にする体制強化にも注力しています。
 ただ、100年後のまちをつくるうえで最も重要なのは、やはり技術やインフラではなく人々のくらしです。これからの家族のあり方や住民同士のつながりを見据え、コミュニティ強化のマネジメントにも踏み込んだ点が、Fujisawa SSTの独自性だと思います。
── コミュニティ強化とは、具体的にどのような取り組みでしょうか?
荒川 まちの開発を主体的に進める団体として「Fujisawa SST協議会」を立ち上げたこと。また、持続的なコミュニティの活性化に向けて「Fujisawa SSTマネジメント株式会社」を設立したこと。この2つの取り組みが特徴です。
 Fujisawa SST協議会は、パナソニックが代表幹事となり、学研ホールディングス、カルチュア・コンビニエンス・クラブ、電通など18団体がパートナーとしてタッグを組み、施設の設計や活用方針を含めたコミュニティの場づくりを実施。住民や地域の市民活動グループや団体と連携してまちづくり事業を進めてきました。
 一方のFujisawa SSTマネジメント株式会社は、住民の日々のくらしに寄り添ったサービスを提供することにフォーカスした組織です。いわゆるマンションの管理会社とは似て非なるもので、施設・設備の修繕管理や植栽メンテナンス・清掃などの維持管理だけでなく、エネルギーやモビリティ、セキュリティなどのタウンサービスの提供や住民のレクリエーションなどソフト面でもコミュニティ醸成の支援を行っています。
 住民だけでのコミュニティ活動はどうしても局所的になりがちだったり、運営の負担が大きかったりします。しかし、企業が事業としてマネジメントすることで、継続的なイベントの企画・運営ができるようになります。
まちの中心にはコミッティセンターという集会所があり、Fujisawa SSTマネジメントのスタッフがバックヤードに常駐。住民主体のサークル活動や子どもたちの遊び場所として使われるほか、日常生活のコンシェルジュや非常時の防災拠点としての役割も担う。(写真提供:パナソニック)
大高 通常、戸建住宅の街区に管理会社が入ることはありません。さらに、コミュニティ活動の支援に事業者が関わり続けるのは稀なケースです。我々としても、戸建てにお住まいの方にとってタウンマネジメントフィー(管理費)を支払ってまで受けたいサービスだと思っていただけるかという不安があり、マネジメント内容についてはパナソニックさんと相当議論を重ねました。
 しかし、まちびらきから4年半が経った今、住民の皆さまからは、タウンマネジメントのサービスを評価していただき、「マネジメントサービスがなければ困る」という声も聞かれますので、日々のくらしのなかで価値を感じていただけたのかなと思います。
住民との交流が、くらしのイノベーションを加速する
── Fujisawa SSTでは、住民の利便性を向上させるためのさまざまな実証実験も行われていますね。
荒川 私たちは、「エネルギー」「セキュリティ」「モビリティ」「ウェルネス」「コミュニティ」、5つのテーマで住民のくらしを支えるスマートライフを提案しています。それぞれに、産官学が関わっており、とりわけ企業はFujisawa SSTをテストフィールドとして先端的な取り組みをしています。
 例えば、2018年4月にはNTTドコモ・ヤマト運輸・パナソニックの3社で、戸建住宅の宅配ボックスに省電力無線通信のLPWA(Low Power Wide Area)ユニットを設置して、配達や集荷をスマホメールで通知するIoT化の実証実験を行いました。
 この実験にはおよそ30世帯が参加しましたが、そのうち9割から継続利用を望むポジティブな意見を寄せていただきました。こうした取り組みを受け入れていただけるのも、住民の皆さまがサスティナブル・スマートタウンのコンセプトに賛同して、よりよいくらしを実現したいと考えてくださっているからだと思います。
大高 こういったコンセプトや取り組み自体に価値があるということは、私たちがこのプロジェクトを通して学んだことでもあります。これまでにもデベロッパー同士の共同事業はありましたが、パナソニックさんのような異業種と本格的にコンセプトから協議するようなまちづくりは初めてでした。
 住民の皆さまが想いを共有し、このまちのなかで住まいやくらしを変える先端的なサービスが実証されていく。それがコミュニティの活性化にもつながり、結果的にはこのまちでくらす価値を上げていくことにもつながると思います。
 まちというのは地域ごとに周辺の環境と調和させていかなければなりません。地域ごとにニーズが異なりますので、そのまま水平展開できるものではありませんが、Fujisawa SSTで得た気づきや取り組みは、ほかのまちにも広げていけると考えています。
 実際、Fujisawa SSTでのコラボレーションがきっかけとなり、パナソニックホームズさんとの共同事業も実現しています。この場所が、新しい協働・協創の起点にもなっているんです。
荒川 Fujisawa SSTを通して感じるのは、まちというのは社会の縮図だということです。パナソニックとしてこの地域が抱える課題に向き合い、それを解決するソリューションを生み出すことは、そのまま社会全体の課題解決につながっていくと信じています。
「なぜパナソニックがまちづくりを?」と聞かれることも多いのですが、当社では住宅や住設機器など、くらしに関わる事業を展開しています。このまちのコミュニティに参加し、深く関わることで、皆さまのくらしに関わるお困りごとを直接聞き取り、製品やサービスのフィードバックを受けながら改善していくことができます。
 今の時代のメーカーは、エンドユーザーとの接点を持ちにくいのですが、Fujisawa SSTというまちをタッチポイントとして人々のくらしと直接関わることで、イノベーションの種を受け取り、加速していけることが当社にとっての最大のメリットだと思います。
── 100年後のFujisawa SSTは、どのように発展しているでしょうか?
大高 100年先にテクノロジーがどう進化しているかは、私には見当もつきません(笑)。
 ただ、100年の間にはこのまちで生まれ育ったお子さんが成長して独立し、結婚を機にまた戻ってくるかもしれない。若いご夫婦も歳を取れば、まちのなかのウェルネス・スクエア(高齢者介護サービス付き住宅)に移られるかもしれません。
 そうやってライフサイクルが循環しながらも、帰ってくるとほっとする。我々がつくりたいまちは100年経っても変わらない普遍的なものです。
荒川 そうやって持続可能で循環し続けるまちであるためには、停滞せずに進化し続けることが必要なんでしょうね。それには、我々企業も住民も行政も一緒になって、まちから新しいライフスタイルを生み出し続けていくことが重要だと考えています。先端的なスマートタウンとされている現在の形も、近い将来には全国各地のベーシックになっているかもしれません。
 100年先の未来には、さらに一歩先を行くFujisawa SSTであってほしいと思います。
(取材・執筆:末吉陽子、編集:宇野浩志、撮影:林和也、デザイン:國弘朋佳、タイトルイラスト:小笠原徹)