【津賀一宏】パナソニック社長、100年目の決意を語る

2018/11/22
 2018年3月7日、パナソニックは創業から100周年を迎えた。松下電気器具製作所として誕生した小さな町工場は、100年を経て売上高約8兆円、従業員数約27万人の大企業へと育った。
 この記念すべき節目にトップを務めているのが、第8代社長・津賀一宏。社長就任直前の2011年度に7721億円もの巨額赤字を出したどん底から、わずか2年で経営を黒字化した立役者だ。
 顧客目線を失って時代に合わなくなっていた事業から撤退し、成長領域へリソースをシフトした。全体像を捉えにくくなっていた組織を再編し、産業領域別の4カンパニーを新設。創業者・松下幸之助が考案した事業部制を復活させた。さらに、密室で行われていた意思決定をオープンにするため、経営会議などの仕組みにもメスを入れるなど、大胆な改革に踏み切った。
 その津賀社長をして、就任以来、答えを出しあぐねていた問いがあったという。それは「パナソニックとは何者か?」。自問自答の末にようやく導き出した答えを、今、語る。
パナソニックの存在意義を問い直す
── 創業100周年記念「クロスバリューイノベーションフォーラム2018」の基調講演で、津賀社長はパナソニックが目指す姿を語りました。改めて、その言葉に込めた思いを教えてください。
 社長に就任した時、正確に言えばその直前から、「パナソニックは何をする会社なのか」と自分に問い続けてきました。
 というのも、それまでは「パナソニックは家電の会社です」「プラズマテレビの会社です」と言えば示しがついたわけです。実態としてはBtoCからBtoBまでさまざまな商品やサービスを提供していましたが、少なくとも象徴的な存在として「家電」がありました。
津賀一宏(つが・かずひろ)/1956年11月14日、大阪府生まれ。1979年3月、大阪大学基礎工学部生物工学科卒業。同年4月、松下電器産業(現パナソニック)入社。1986年、カリフォルニア大学サンタバーバラ校コンピュータサイエンス学科修士課程修了。2001年、マルチメディア開発センター所長。2004年、役員に就任しデジタルネットワーク・ソフトウェア技術を担当する。2008年、常務役員 オートモーティブシステムズ社社長。2011年、専務役員 AVCネットワークス社社長。2011年、代表取締役専務 AVCネットワークス社社長。2012年、代表取締役社長に就任。2017年、代表取締役社長 社長執行役員 CEO。
 しかし、その象徴がガタガタと崩れてしまったことで、「パナソニックは何者なのか?」という問いに対する答えがわからなくなりました。
 この問いには、パナソニックはこれから何の会社になろうとするのかという我々自身への問いかけと、お客様や世間からは何の会社に見えているのかという2つの面があります。
 その答えを探すため、社内でいくつかのプロジェクトを走らせて社員の意見を募り、ようやく導き出せました。
 それが、「くらしをアップデートすること」。パナソニックの存在意義であり、創業から現在、そしてこの先の未来まで、一貫して営み続ける私たちの事業の本質です。
「クロスバリューイノベーションフォーラム2018」の基調講演で、次の100年に向けてパナソニックが営む事業を「くらしアップデート業」と定義した。(写真提供:パナソニック)
 私たちは創業以来、さまざまな家電製品をつくってきました。しかし、その根本に立ち返ると、ものづくりより先に「人々のくらしをよくしたい」という想いがありました。皆がくらしやすい社会を実現するために、ものづくりが必要だったのです。
 これからのパナソニックは、もうブレません。「くらしアップデート」という言葉に通じる事業だけに集中し、よりよい社会をつくりあげていこうと決めたからです。
くらしを、日々更新し続ける
── くらしをよくすることを、なぜ「アップデート」と表現されたのですか。
 パナソニックを含め、これまでのメーカーはずっと「アップグレード」を提案してきたように思います。新製品を出す時には、必ず性能を高め、古いモデルになかった新機能を追加してきました。
 しかし、お客様は、必ずしも高い性能やたくさんの機能が欲しいわけではありません。多くの人が求めているのは、それぞれの「今日のくらしに合った形」だと思います。
 例えば、若い頃は加速できるクルマを求めていても、歳を取ればスピードよりも安全性や快適さを求めるようになるかもしれません。
 家族4人で暮らす家は、子供が独り立ちしたあとだと広すぎるかもしれない。そういった人それぞれのくらしに合わせたアップデートを考えると、時にダウングレードが必要なこともあります。
── なるほど。機能やスペックを高めるのではなく、今の状況に合わせて変化させていくのが「アップデート」なんですね。
 そうです。ところが、今の私たちのくらしは「アップデータブル」とは言えません。家電の新製品に搭載された機能を使ってみたいと思った時は、使っている旧モデルに問題がなかったとしても買い換えるしかありません。
 住宅の場合はもっと深刻で、一度買ってしまえばそのまま住み続けるしかない。リフォームにも大きな投資が必要ですから、そう簡単にはできませんよね。
 今持っているものを捨てて、まったく新しいものに取り替えるのではなく、その時に必要な機能を更新しながら使い続ける。これがテクノロジーによって実現されれば、家電、住まい、クルマ……くらしのすべてにおいて、新しい体験と価値が生まれると思います。
若い起業家が競い合う中国で学んだ
── 100周年イベントの基調講演では、特に中国企業との「共創」が強調された印象を受けました。津賀社長が中国に魅せられている理由を教えてください。
 マーケット規模が大きいとか成長国だからとか、そういう理由もあるんですが、一番の理由は、中国企業と交流することが刺激的で楽しいからです。
 中国には、「中国企業家倶楽部」という団体があります。売り上げ1000億元を超えているか、業界トップ3に入っていることを条件として、名だたる大企業が加盟しています。
 この中国企業家倶楽部の傘下には「中国緑公司連盟」という業界のNo.1、No.2の有力なベンチャーや急成長企業が所属している団体があります。
 パナソニックはこの2つの団体に日本企業として唯一、グローバルパートナーとして参加しています。
 加盟企業の大半は、文化大革命後に生まれた民間企業です。経営者は若く、加えてオーナー企業なのでデシジョンが驚くほど速い。そういう企業がさらに新興である創業3年のベンチャーと競い合っていて、成功した企業なりの危機感も凄まじいようです。
 常に新しいことにチャレンジしなければ先がない。そんなプレッシャーと対峙しているので、会合に参加すると、皆が「こんなことをやろう!」「こんな手の組み方はできない?」と、ものすごい勢いで。
 日本にもこうした熱量を持つ企業や経営者はいますが、やはり中国は桁違いに多いです。それに、我々にはない発想で、驚くような方向から協業のアイデアが飛んできます。
 このスピード感とチャレンジ精神こそが得がたいもので、彼らと協業することによってパナソニックをあるべき姿に変えてくれるのではないかと期待しています。
── その交流がきっかけとなり、いくつかの協業が始まっているそうですね。
 現在、中国緑公司連盟に加盟しているGlodonという中国最大の建築設計ソフトウェア企業とLinkDataというエネルギーマネジメント企業と提携し、パナソニックの薄型高断熱パネルなどの建材を使ったプレハブハウスシステムを提供する事業が始まりました。
 また、世界に363店舗の火鍋専門店を展開する海底撈(ハイディーラオ)とは、中国企業家倶楽部で声をかけていただいたことがきっかけで、ジョイントベンチャーを立ち上げ、ロボット化を促進するスマートレストラン構想を進めています。
パナソニックと中国のGlodon社、LinkData社が共同で開発するプレハブハウス。使い捨てず繰り返し使えるモデルにすることで費用を抑え、建築現場の過酷な環境下でも快適なくらしを提供する。(写真提供:パナソニック)
海底撈との協業では、ファクトリーオートメーションの技術を改良して食材の配膳ロボットやRFIDを使った食材のトレーサビリティソリューションを提供。(写真提供:パナソニック)
トップが背中で伝えたいこと
── 100年の節目を迎え、「くらしアップデート業」という指針も示しました。この先、津賀さんは何に取り組んでいきますか。
 パナソニックの構造改革は、まだ道半ばです。正直に言うと、半分も達成できていないかもしれない。
 いくつかの新規事業が立ち上がり、一部では風土が変わりつつありますが、やはり既存領域では、固定観念やしがらみに支配されている部分がかなりあります。「社長はあんなことを言っているけれど、現場は今のやり方で回していくしかないんだ」と思っている人も多いでしょう。
 このマインドを、もっともっと変えていく必要があると思っています。
 私は過去に、「車関係は宝の山だ」と言って、デジタルテレビや携帯電話をやってきた社員を大量に車載事業に送り込みました。
 彼らは並々ならぬ苦労もしましたが、新しい事業領域でのチャレンジを楽しみもしたはずです。ただ、その事業に慣れたからといって、立ち止まることはできないんですよね。
 今は、あらゆる産業が大きく変わろうとしている時代です。その変化にキャッチアップするためには、組織もビジネスモデルもアップデートし続けないといけない。特にパナソニックには、そのまま続ければ右肩上がりに成長していくような事業なんて、ほとんどありません。
 だから、ある程度の部分は既存領域で収益を上げながらも、最初は利益率が低かろうが、株価が下がろうが、歯を食いしばりながらのチャレンジを続けていくしかない。
 こういうことを繰り返しているから、当社の利益率はあまり高くないのかもしれません。でも、今のフェーズで挑戦をやめたら、間違いなくパナソニックに先はありません。
── パナソニックは従業員27万人超の大企業です。組織の端々まで意識を変えていくのは並大抵のことではありません。
 それを行動で示して旗を振るのも、社長としての私の役目なんでしょう。社長自らが中国に飛び込めば、幹部たちも仕方がないと付いてきます。
 彼らだって、実際に外に出て若い起業家たちの文化に触れると「やっぱり違う」と感じるんです。感化されて「日本で事業をやっている場合じゃない」と言い始める人さえいる。
 それに、既存事業のさまざまなしがらみのなかにも、もっと自由にチャレンジしたいと思っている社員は大勢います。
 そういう人たちが自分自身でやりたいことを見つけて挑戦を繰り返せる風土ができるまで、私自身が挑戦を続けなければなりません。
 トップが自ら動いて面白がっている背中を見せて、社員みんなにチャレンジしてみようと思わせる。それが社長としての私の、これからの仕事だと思っています。
(取材・編集:宇野浩志 構成:木村剛士 撮影:林和也 デザイン:國弘朋佳)