【鈴木大輔】守る目的は何か? 現代サッカーに学ぶ目標達成法

2018/11/18
目標を達成するためには、方法を選択する能力が大事であると感じています。
今何をするべきなのか、何を切り捨てるべきなのか。目標と状況に合わせて必要なことと必要ではないことを正しく判断できるかどうかで、結果が大きく変わってくるのではないでしょうか。
サッカーの守備についての考え方で、この目標を達成する過程で必要とされるであろう能力と関係があるなと感じているので、今回はサッカーにおける守備の考え方について触れてみようと思います。

システムは一つの指標

守備戦術を語るうえでよく議論されてきたのが、「スペースを守るゾーンディフェンス」なのか、「目の前の相手についていくマンマーク」なのかということです。
しかし今のサッカー界ではそのような議論に意味はないと感じていて、より柔軟に守ることが求められてきていると思います。
もちろんはっきりとゾーンディフェンスやマンマークに決めてしまうチームもありますが、映像の利用や分析が進んでいる現代サッカーでは、ボールの位置と相手の状態によって選手が立ち位置を変えるというやり方が主流になってきています。
この時に大事になるのが、一瞬一瞬状況が変わっていく中で、マークにつく必要がないコースを捨てるという判断です。なぜなら相手の状態と味方の選手のプレッシャーのかけ方によっては、マークにつかなくてもコースを消せている場合があるからです。
この判断がうまくいくと、1人で2、3人の選手を見ているという状態を作ることができます。相手を後ろから見ることがマークすることではなくて、後ろに相手がいたとしてもその選手へのコースが消せているのであれば、マークしているのと同じだという考え方です。
このように選手全員でコースを限定していき、奪えると判断した選手は目の前の選手に全力でアタックします。
チーム全体でボールを奪うために、人についていかずにスペースを埋めた方がいいのか、スペースから人に対して奪いに出るのかを判断し続ける。状況に合わせて方法を変えるという意味では、サッカー以外の組織や個人に必要な能力とリンクしているのではないでしょうか。
このような守り方をするうえでは、実はシステムはあまり重要ではなく、それよりも全員が同じ絵を描いて守れているかが大事になってきます。そのための一つの指標になるものがシステムです。
全員が同じ感覚で迷いなく守れていると、疲れ方も違ってきます。動かされて守るよりも、自分たちから動いていた方が疲れません。
それに、それぞれの動きが分かっていれば奪った後のカウンターが決まる確率も上がります。バラバラに頑張って守っているのは、「守るために守っている」という状態だと思います。

サッカーが人を成長させる理由

スペインでプレーしていた頃、監督に、「何のために守備をしているのか」と質問されたことがあります。そんなことを考えていなかった自分は「ゴールを守るためです」と答えました。
監督はちょっと違うというような顔をして、「守るのはゴールを奪うためだ。得点を取らなければ勝てない」と言いました。
相手の攻撃に対して、みんなが同じ絵を描けるシステムで守る。システムを変えたり相手に合わせて奪うポイントを変えたりして距離感をよくするのは、ボールを奪っていい攻めにつなげて得点を奪うため。守備の目的を突き詰めると、得点を奪うことになるのだと気づかされました。
現代サッカーで多くのチームが行っている守備の方法――その中にあるチームとしての考え方、個人の駆け引きは、サッカーだけに当てはまるものではありません。どんな時でも目標達成のために、状況に合わせて方法を変えていくのは大切なことなのかもしれないと考えるきっかけになりました。
目的や目標を見失わなければ、今何が必要で、何が無駄なのかという判断ができるようになります。無駄なことに頑張らないようになることで、もっと楽に生きられるのではないかと思います。
「サッカーは少年を大人にし、大人を紳士にするスポーツだ」とはサッカー界では有名すぎる名言ですが、この言葉の意味が少し分かった気がするなと勝手に思い込んでいます。
(写真:Etsuo Hara/Getty Images)