日本企業のグローバル進出が活性だ。外務省調査によると昨年度海外進出した日本企業は約7万5,000拠点に上り、史上最高数値を記録した。主にSME企業(中堅・中小・ベンチャー)が海外にマーケットを求めている一方、多くの企業が海外展開において複雑な課題に直面している。
その課題に対し、グローバルスタンダードとされる基幹システムSAPで支援をするのがNTTデータ グローバルソリューションズだ。同社の中で”ゼネラルビジネス事業部”という新しい部署を立ち上げ、SME企業を支援する藤本勝則氏に、海外展開で直面する課題と、それを解決に導くSAPソリューションについて話を聞いた。

駐在先で見た中小企業の現実

―まずは藤本さんが立ち上げられたゼネラルビジネス事業部が、一体どのような世界観を目指しているのかといったところからお聞かせいただけますでしょうか。
端的に言えば、中堅、中小、ベンチャーをひっくるめた、いわゆるSME企業の海外展開支援を通じ、“日本発のグローバルファーム”を目指すということです。
なぜ、そのような思いを抱くようになったのか。それは、前職でシンガポールに常駐していた時代に起因します。当時の私は大手SIerの一員として、SAPを中心としたビジネスをグローバルで展開するというミッションを遂行していました。
その頃から現在に至るまで、数多くのSME企業が海外進出を果たしています。外務省が発表した調査結果によれば、昨年度、海外に進出した日系企業は7万5,531拠点にも上ります。これは史上最高の数値を記録しています。更に今後も従業員200名以上の規模の企業において、その70%以上がグローバル展開の実施、あるいは進出を検討しているといいます。
藤本勝則 株式会社NTTデータ グローバルソリューションズ ゼネラルビジネス事業部 事業部長
大手SIerにてSAPを中心にした外販ビジネスの立ち上げに参画。その後、APACエリア開拓の為、シンガポールへ約4年間駐在。シンガポールでは現地法人立ち上げ、PMI、市場調査、APACエリアの日系企業へSAPを中心としたビジネスを展開。帰国後、名古屋商科大学ビジネススクールに入学し、キャリアの棚卸しを実施。NTTデータ グローバルソリューションズへ入社。SME企業をメインとする事業部を立ち上げる。
この数字だけをフォーカスしてみれば、非常に活況を呈しているように見えます。ところがその陰で、厄介な課題を抱えながら、もがき苦しむ中堅・中小企業が数多く存在しているのも確かです。
例えば、多くの企業が現地企業との合弁によって海外進出を果たしていますが、ジョイントベンチャーの場合、どうしても現地に配慮した組織を構築しがちです。そうなると、現地スタッフが財務を握ることとなり、日本側でコントロールすることが難しくなります。
財務業務のすべてが現地優先になり、日本の関係者に対する支払いが遅延したり、最悪な場合、日本人スタッフへの給与が支払われないというケースもありました。不正な入出庫が日常的に行われ、いわば日本側から見えない場所でキャッシュフローに打撃を与えていました。
当然、そういった問題は、システムを導入することで解決できると考えられがちですが、それほど単純な話ではありません。日本国内で従来から使用してきたシステムは、多言語・多通貨に対応しないケースが多く、現地では使用ができませんのでExcelを使いメールでやり取りし月次を締めるだけで2,3週間掛かるケースも散見され日本本社も現地法人も多大なストレスになっています。
また、現地スタッフは自分のキャリアにプラスにならないと考え、マイナーなソフトウエアは使いたがらない傾向があります。結局、各国バラバラのシステムを使用して統制がとれず、日本、現地と質問、確認の繰り返しで険悪な仲になり不正も横行し、しまいには“海外に進出しなければよかった…”と嘆くことになります。
海外に進出するということは、中堅・中小企業にとってかなり大きな決断ですし、それなりに投資もしています。であるにもかかわらず、本業ではなく、ちょっとしたシステムの失敗で経営が立ちいかなくなる…。そんな状況を駐在先において、いやというほど見てきました。

ゼネラルビジネス事業を立ち上げ、SME企業の支援を

―そんなにひどい状況だったのですね。どのような解決手段が考えられるのでしょう?
設立時に日本の本社負担でシステムを導入し、本社の経理部門が主導権を握って財務を把握・掌握することで基本的な部分は解決ができると考えます。組織的に現地財務部門を本社財務部門のコントロール下に置き、更にシステムで統制をします。そのためには不安定な現地ローカルベンダーのシステムではなく、グローバルスタンダードなSAPの導入が最適解になります。そのうえで、できることならCFOや財務メンバーは日本から送り込みたいですね。
そういった“正解”があることはわかっていたのですが、前職はラージエンタープライズをクライアントにしていたため、サポートを求めていた中小・中堅企業の声に応えることができませんでした。その忸怩たる思いは、NTTデータ グローバルソリューションズに入社するまで引きずっていました。
現職へ入社時、当社はラージエンタープライズ中心のビジネスを展開していましたが、ボリュームゾーンである”SME企業に注力することで外資系ファームとの差別化を図っていきたい”という狙いはありました。
それと、私自身が抱き続けてきた“お客様が本当に求めているシステムをきちんと届けたい”という思いが合致。中堅・中小企業が海外に進出する支援をして元気になってもらえば、間接的に日本経済の底上げに貢献できるのではと考え、ゼネラルビジネス事業部を立ち上げるに至りました。
―SME企業をSAPで支援するにあたって、どんな課題があり、どのように解決しているのでしょうか。
SAPを導入するうえでは、主に「費用面」と「社内情報システム部門の不在」という2つの大きな課題があり、事業部を立ち上げた当初は苦労しました。
「費用面」については、弊社が今まで培ってきた日本の会社に必要な拡張機能や業務プロセス、会計機能等をSAP標準システムに加えることでテンプレート化しました。お客様にはテンプレートを最大限活用していただくことで開発費を抑え、従来は数十億円かかることも多かった導入費用を数億円以下、場合によっては数千万レベルに縮小し、大企業が活用しているSAP S/4HANAという最新ERPと完全Cloud ERPのBusiness ByDesignを活用し低価格の導入ができ、更に最新の業務ノウハウを得ることが可能です。
また、「情報システム部門の不在」という課題に対しては私たちITコンサルタントが業務フローを作成し、現状と導入後の状態を示し、業務フローを可視化することで、現状とSAP導入後の業務への影響、齟齬をなくす工夫をしています。
新しいシステムを導入することの効果と改善すべき業務プロセス、不要なアドオンなどを整理しながら、“導入したらおしまい”ではなく、あくまでしっかり伴走していくという日本的なアプローチで一緒に検討を進めていきます。そこは当社の差別化ポイントでもあると自負しています。

日本が頭脳となり、グローバルなサプライチェーンを

―SME企業が海外展開でSAPを導入することのメリットは。
まず、先ほど説明した課題はすべて解決できると考えてもよいでしょう。日本の本社がシステムを介して現地の財務状況を把握することで、不正な入出金、入出庫はなくなります。更に在庫が把握できるようになりますから、当然、無駄な生産、発注がなくなります。
同じ国に複数の工場がある場合、工場間で部品在庫のやりとりをすればよくて、わざわざ日本から便を飛ばす必要もなくなります。そうなると過剰在庫、在庫ロスもなくなり、資金繰りも良くなりキャッシュフローも良くなります。そしてQRコード等を活用すれば在庫管理業務の省力化にもつながります。
私たちが導入のお手伝いをさせていただいた製造業様の場合、グループの海外売上比率が80%以上でありながら、それぞれの拠点が独自に基幹システムを構築。グループ内統制がとれていなかっただけではなく、国内だけでも、会計、販売、購買、生産管理などのシステムが個別に稼働していたため、受注・在庫と生産計画の連動ができていませんでした。
それがSAPをグローバルで導入することで、各システムが直結。人が行っていた作業が自動化され、工場内ではSAPからQRコードを生成し活用いただいたことで、複雑な部品を簡単に把握することができ、作業時間とエラーが大幅に削減されました。同時にQRコード活用によるデータの正確性や不正入庫、出庫の防止などの内部統制レベルが向上しました。結果としてSAP導入前後では売上、利益ともに2倍に近い大きな成長を遂げられました。
最近ではSAPにRPAを使用し経理業務省力化等、新しい取り組みも一緒にチャレンジしております。
―闇雲に売上をあげるだけでなく、SAPを導入して会社の内部を見つめ直すことで体質が変わり、収益がアップするのですね。
そうです。そして、それは一時的なものではなく、間違いなく企業の力になっていきます。国内市場が縮小していくのは事実としてありますが、私は日本の製造業が持つモノづくりに関するノウハウはどこにも負けていないと思っています。
それは大手だけでなく中堅・中小企業も然り。海外にビジネスチャンスを求めていくには、商品やサービスの力だけでなく、根底を支えるシステムも必ず必要になります。
更に、これまでは、SAPをはじめとするERPはどちらかというと“守り”を固めるシステムというイメージでしたが、これからは“攻め”の部分、すなわちIoTやeコマースも取り込むことで、BtoBもBtoCにより近づいていくと考えます。
現地の方々にも自社の社員として、しっかり活躍してもらうためにも、共通言語ともいえるSAPの活用は必須です。やはり企業なので現地に対する統治・統制は必要ですし、IT基盤を整備することで財務の可視化ができて初めてキャッシュフロー経営が可能になります。そうなると、経営判断として次の対策が打ちやすくなると思います。それは労働力が減少している我が国にとって非常に重要なことで、最終的には日本が頭脳となり、グローバルなサプライチェーンを構築できるのではないかと個人的には思います。

第二創業期の現在だからこそできる体験

―SME企業にSAPを提供するという、決して簡単ではない新たなチャレンジを開始した今の組織にとって、どのような人材が必要となるのでしょう。
私たちNTTデータ グローバルソリューションズ ゼネラルビジネス事業部は日本におけるSME領域No1になったと自負しております。
更に今後、個人的にはERPでカバーするヒト・モノ・カネだけでなく、もっとビジネスを創造する側、Marketing、Commerce、Sales、等カスタマーエクスペリエンスの最前線まで手を伸ばし、取り組んでいきたいと思っています。
グループとしても会社としても、また事業部としても、その目的を達成するために必要となる“強み”を持っているとは思いますが、圧倒的にリソースが足りません。
当社は、SAPビジネスをグローバルに展開する為にNTTデータグループから誕生した企業ではありますが、根底にはベンチャー気質がしっかり根付いています。設立7年目を迎えたばかりで、私たちゼネラルビジネス事業部は統括部長が30代後半、PMも30代前半が中心と非常に若い組織です。若手メンバーが中心となって活躍している現在、“第二創業期”の組織と呼ぶにふさわしい、非常にチャレンジングな環境にあります。
成長途中にあるので、組織や制度についてまだまだ整備が足りないところも正直、たくさんあります。むしろ、そうした「まだまだ」を一緒に楽しんでいただける方であれば本当に楽しい会社だと思っています。
SME企業様の海外進出を後押しさせていただきながら、私たち自身がお客様とともに成長を続けています。丁寧できめ細やかなコンサルティングを武器とする、日本発グローバルファームを一緒に作り上げていく仲間を楽しみにお待ちしています。
(インタビュー・文:伊藤秋廣[エーアイプロダクション]、写真:岡部敏明、バナーデザイン:kanako kato)