保険テックは、若者の「保険離れ」の救世主か?

2018/11/5
年間40兆円規模に上る国内の保険業界に激震が走った。
2018年10月16日、メッセージアプリのLINEが保険業界へ参入したのである。
LINEは、損害保険国内大手の損害保険ジャパン日本興亜と協業し、「スマホのおまもり」「自転車のおまもり」「年越しのおまもり」など、スマホユーザーの若者を意識し、スマホで簡単に加入できるスマホ完結の保険商品を発売し始めた。
現在、LINEアプリ内で入ることができる損害保険は59種類に及ぶ。
LINEの金融子会社で保険事業を統括する岩田慎一氏は、「業界内外からUI(ユーザーインタフェイス)やUX(顧客体験)が非常に良いという声をもらっており、これからも『保険に入るハードル』を徹底的に下げていきたい」と意気込む。
LINEはスマホ保険の無料加入キャンペーンも行う
LINEの参入が保険業界にとって衝撃なのは、各社が若者の「保険離れ」に頭を悩ましているからだ。
各保険会社が若者の開拓に“決定打”を見出せないなか、月間アクティブユーザー数が7800万人を誇るLINEが参入してきた。
これまで、インターネットを通じて契約できる損害保険や生命保険はあったが、デスクトップからの申し込みが中心だ。しかし、スマホ経由の市場はまだほとんど手付かずである。
つまり、LINEと損害保険ジャパン日本興亜“連合”は、スマホ経由で契約する保険市場において、一歩先を行く可能性も出てきたのである。

スタートアップが次々にサービス開始

保険の領域でテクノロジーを活用した、InsurTech(インシュアテック)系のスタートアップ企業も増えている。
特に2018年は、多くの国内InsurTech企業が実際にサービスを始めた。
例えば、justInCase(ジャストインケース)だ。
justInCaseは、2018年7月にスマホ保険の発売を開始。単に、スマホの画面割れや水没などの修理費用を補償する保険ではない。
スマホに内蔵されたジャイロセンサ(角度や加速度を検出する装置)を利用し、スマホを優しく扱う人には、月額400〜900円前後の基本保険料を安くする商品設計にしている。
justInCaseの畑加寿也社長(撮影:谷口 健)
同社の畑加寿也社長は、アクチュアリー(保険数理士)出身で保険業界を知り尽くす人物。畑社長は、「とにかく保険に入るという体験をしてもらい、保険金請求もシンプルにしたい。そして、2019年の初夏にも生命保険の商品を提供したい」と鼻息は荒い。
その他にも、国内外でInsurTech系スタートアップ企業が次々にサービスを始め、海外では、アマゾンやUberなどITプラットフォーマーも保険業界に参入している。
こうした動きの詳細は、本特集の第2話目で解説する。

最大手・日本生命も動く

こうしたInsurTech系企業の動きが活発になるなかで、生命保険最大手の日本生命保険が動いた。7月に新たに準備会社を設立し、若年層開拓のためのテコ入れを始めている。
日本生命はこれまで、営業職員による保険商品の販売を中心としてきたが、これからは、銀行での窓口販売に加えて、保険の代理店やインターネットでの販売チャネルの強化もしていく。
日本生命イノベーション開発室の関正之担当課長は、「生命保険業界は『お腹が空いたからコンビニに行く』ような軽い世界ではない。しかし我々も、新規参入や異業種の参入を、指をくわえて待つわけにはいかない」と反撃モードだ。
日本生命の新子会社の六本木オフィスは、ITベンチャー企業さながらの雰囲気だ(撮影:谷口 健)
金融業界では、金融とテクノロジーを融合した「FinTech(フィンテック)」の普及が進み、キャッシュレス化の流れはより大きくなっている。
そして、今まさに保険業界もいよいよテクノロジーによる変革の波が押し寄せているのである。
2018年は、国内の保険業界にとって「InsurTech普及元年」と言っても過言ではないだろう。こうしたテクノロジーの進展で、新しい保険の形や新しい保証のあり方が生まれていくのは間違いない。

遺伝子・ゲノムでどう変わるのか

今回の保険特集では、従来型モデルから新型モデルへ変わる保険業界の大変革を追っていく。
第1話目は、ユーザー(消費者)目線に立って、経済評論家の山崎元氏と、保険業界で勤務経験もあるファイナンシャル・プランナー(FP)の水野綾香氏に、「若いビジネスパーソンに対して、現状ある生命保険とどう付き合っていくべきか」について徹底討論をしてもらった。
第3話目は、テクノロジー以外で最も保険業界にインパクトがある遺伝子とゲノムの研究について取り上げる。
保険業界にとって、遺伝子研究の進展がどのようなインパクトを持つのかを解説する。
そうした環境の変化の中で、第4話目では、業界の大変革の中で、保険会社の進むべき道について考える。
この特集を通じて、「保険テック(InsurTech)」で保険業界がどう再定義されるのか、業界の変化のうねりをお伝えしていく。
アップデートされる保険業界の最前線に迫っていこう。
(執筆:谷口 健、デザイン:星野美緒)