[東京 31日 ロイター] - 激化する米中貿易摩擦の影響について、日銀は懸念を深めている。31日に公表した経済・価情勢の展望(展望リポート)では「海外経済の動向を中心に下振れリスクが大きい」と明記。金融政策決定会合後に記者会見した黒田東彦総裁も「米中貿易摩擦が世界経済に与える下方リスクは、一番着目している」と述べるなど、懸念を表明した。

7月の展望リポートでは「18年度はリスクはおおむね上下にバランスしているが、19年度以降は下振れリスクの方が大きい」としていた部分について、今回は「海外経済の動向を中心に下振れリスクの方が強い」と表現を変え、海外経済のリスクを明記した。

海外発のリスクについて、総裁は、保護主義と新興国経済をあげた。なかでも、米中貿易摩擦に代表される保護主義については「各国経済の相互依存関係が深まる中で、保護主義的な政策は、当事国だけでなく世界経済全体に影響を及ぼす可能性がある」と指摘。

さらに「保護主義的な動きの帰すうとその影響については、わが国経済の先行きに関するリスクのひとつとして認識しており、今後とも注意深く見ていく」述べ、注視する姿勢を示した。

また、現在は下方リスクは顕在化していないと断ったうえで「具体的に大きな下方リスクが顕在化して、経済・物価見通しに大きな影響が出るとなれば、金融政策自体を調整することになる」とした。

<物価見通しを引き下げ>

同日の金融政策決定会合では、短期金利をマイナス0.1%、長期金利をゼロ%程度とする長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)付き量的・質的金融緩和政策の現状維持を賛成多数で決定した。

貿易摩擦は、先行きの懸念材料ではあるものの、現状では「これまでのところ、米中間の貿易摩擦の影響は限定的にとどまっている」(黒田総裁)という状況。

景気判断についても「所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大している」とし、先行きについても「緩やかに拡大を続ける」との見通しを据え置いた。

同時に公表した新たな「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、2020年度までの消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)見通しを下方修正し、先行きは経済・物価ともに下振れリスクが大きいとした。

展望リポートでは、18年度のコアCPIを前年比0.9%上昇とし、前回7月の同1.1%上昇から下方修正。19、20年度もそれぞれ同1.4%上昇、同1.5%上昇と、前回から0.1ポイント引き下げた。

実質国内総生産(GDP)は18年度が同1.4%増となり、前回の同1.5%増から小幅下方修正。19、20年度は同0.8%増に据え置いた。

18年度の物価見通しの引き下げについて、総裁は「足元の物価がやや弱めだった」と説明したが「物価全体のピクチャー、状況は大きく変わったと考えてない」と述べた。物価上昇のモメンタムについても「維持されている」とした。

このため、展望リポートでは、物価の先行きについて「2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられる」との見通しを維持している。

<一部国債買入予定日、入札の翌々日以降に後ずれ>

日銀は午後5時に11月1日から適用する「当面の長期国債買い入れの運営について」を発表。「残存1年超5年以下」と「残存10年超」の国債買入予定日を入札の翌々日以降に後ずれさせた。従来は翌日だった。

また、「残存1年超5年以下」の国債買入回数を5回から4回に減らしたほか「残存1年超3年以下」の買入額レンジを500億円引き上げ、「残存3年超5年以下」の買入額レンジを3000─5500億円に修正した。

みずほ証券・チーフ債券ストラテジストの丹治倫敦氏は「日銀買い入れの減額方向は変わらないことが確認できた。超長期ゾーンについては、買い入れの後ずれにより入札が流れやすくなる分、調整が起こりやすくなる」と述べた。

日銀は7月、国債市場の機能度を高めるために、長期金利の変動幅について、従来のプラスマイナス0.1%の倍くらいの幅を念頭に広げる措置を発表した。その後の市場機能度について、総裁は「機能度という点からは、ひところより改善してきている」と評価した。

総裁は、YCC政策は長短金利を低位に安定させることを通じて経済活動を刺激することを目的としており「市場機能に一定の負荷を掛けて、金利変動を抑制する面があることには留意が必要」と指摘。そのうえで「副作用が大きくなりす過ぎて、政策効果を阻害することにならないように、市場動向をよく点検していく」とした。

*内容を追加しました。

(清水律子)