【茂木健一郎】「続ける力=グリット」は感動体験が生む

2018/10/29
結果を出すのは続ける人だけだ。
脳科学者の茂木健一郎氏は、著書『続ける脳』でこう断言する。
同書では、脳科学の観点から「続ける力」を培うメソッドが余すところなく紹介されている。
AIの進化などで社会が大変動する中、人生のあらゆる場面で必要とされる「続ける力」はニューエリートにとって必須の能力と言えよう。
今回は前後編の2回に分け、同書のエッセンスをお届けする。

感動したことが原点になる

日本のことわざに「初心忘るべからず」という言葉があります。
どんな仕事であれ、始めるときに「志」があったはずです。それを私たちは、日々の忙しさの中で忘れてしまいます。夢の原点となる感動や志、人との出会い、師の教えがちゃんとあったはずで、迷ったときは、原点に立ち返るのが励みになります。
科学をやっている一部の人々の間では、こんな考え方があります。
「人間が進化するために、宇宙創成のビッグバンはあった」
このような考え方は「人間原理」と呼ばれています。人間のために宇宙は始まったと考えるのはいきすぎかもしれませんが、「人間が進化してくるような現在の宇宙の有様のすべては、原点(=ビッグバン)にあった」と科学的には言えるわけです。
同じように1人の人生のグリットも、原点にすべてがあると言えるのではないでしょうか。
原点から継続していく大切さは、マルコム・グラッドウェルが『天才! 成功する人々の法則』の中で紹介した「一万時間の法則」に照らしても言えます。一万時間の法則とは、どんなことでも、一万時間続けるとエキスパートになれるという法則です。
例えば、バイオリニストの練習時間を調べると、世界的なプロとして活躍しているバイオリニストたちは、練習時間が一万時間を超えていたのに対し、その域に達していない人は一万時間を下回っていました。ある人がどれくらいうまいかは、練習時間に比例するというわけです。
一万時間の継続が、才能や素質よりも重要なパラメーターになるというのは、ダックワースの提唱するグリットとも共鳴する考え方です。
しかし、一万時間も続けるのは簡単ではありません。1日3時間の練習を、10年間、続けなければならないわけですから。それほどの長い時間の練習に耐えるには、やはり感動を原点にする必要が出てくるでしょう。
茂木 健一郎
1962年、東京生まれ。脳科学者。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー、慶應義塾大学特別研究教授。東京大学理学部、法学部卒業後、 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。専門は脳科学、認知科学。2005年、『脳と仮想』で、第4回小林秀雄賞を受賞。2009年、『今、ここからすべての場所へ』(筑摩書房)で第12回桑原武夫学芸賞を受賞

出来事の意味は変えられる