【佐山×伊藤×徳谷】硬直化したダメな組織から脱却するには

2018/10/24
なぜ、多くの会社が伸び悩み、同じ過ちを繰り返すのか。その原因には組織や人材の問題が根深くある。組織が腐れば、中の人間も腐る。では、どうやって組織や人材にアプローチすればよいのか。スカイマーク会長・佐山展生氏、多くのグローバル企業のターンアラウンドを推進した伊藤嘉明氏、企業変革請負人のエッグフォワード代表徳谷智史氏の3人が、9月19日に開催された「UBカンファレンス」トークセッションで論じた。

組織の危険信号はトップにある

徳谷 私はエッグフォワード徳谷と申します。日本を代表する会社の事業、組織の立て直しや再生をしたり、スタートアップ企業の組織・人材の開発なども手がけています。そういう中で感じているのは、多くの会社が「もとからダメな会社」だったわけではないということです。
 中で働いている人たちは志を持って、事業に真っ当に取り組んでいる。しかしながら、いろいろな会社が停滞してしまう。言い方はきついですが、「組織が腐る」んです。
企業変革請負人。人財・組織開発のプロフェッショナル。京都大学経済学部卒業。大手戦略コンサル入社後、アジアオフィス代表を経て、「世界唯一の人財開発企業」を目指しエッグフォワ−ドを設立。総合商社、メガバンク、戦略コンサル、リクルートグループなどの業界トップ企業数百社から、ユーザベースグループをはじめとするスタートアップ各社まで、人財・組織開発やマネジメント強化のコンサルティング支援などを幅広く手がける。
 そうやって、どんどん停滞感が膨らむ社会構造をなんとか変えられないか。私自身、そこに強い問題意識を感じています。今日のセッションでは、日本社会が抱える構造的課題と社会や企業、そして個人がどう変わっていけばいいのか。バックグラウンドがそれぞれ違う3人で、具体的に考えていきたいと思います。
 まずは、「こうなったら企業も終わり」という組織の危険信号がどこにあるのか。組織はある日、突然ダメになるわけではありません。組織が腐っていく兆候は、どこにあるのか。そもそも、その危険信号を見極められるのかという点ですが。
佐山 私は帝人で技術者として、そして三井銀行に転職してM&Aを担当、その後、投資ファンドのユニゾン・キャピタル、M&AアドバイザーのGCAを経て、インテグラルを設立。3年前からその投資先のひとつのスカイマーク再建を手がけて会長をやっています。
 銀行時代やファンドを始めた頃は「組織は、社長で半分決まる」と言っていましたが、今は「9割以上がトップで決まり」だと思っています。
1953年京都府生まれ。72年洛星高校卒業、76年京都大学工学部卒業。94年ニューヨーク大学大学院(MBA)、99年東京工業大学大学院社会理工学研究科博士後期課程修了(博士学術)。帝人、三井銀行(現三井住友銀行)を経て、98年ユニゾン・キャピタル、2004年GCA、07年インテグラルを共同設立。現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員教授、京都大学経営管理大学院客員教授などを兼務
 仕事柄、いろいろな会社の社長にお目にかかる機会がありますが、「え? この人が社長なの?」という、とんでもない人もときどきおられます。そこを訪問すると、例外なくナンバー2、3もとんでもない人たちなんです。
 とんでもない人がトップにくると、その会社からは優秀な人が、どんどん抜けていってしまう。つまり、トップがとんでもないと、会社の「とんでもない度」が増大します。
 その人が優秀な社長になるかどうかは、面接しても1/3くらいしかわかりません。面接でわかるのは、その人が経営がわかっているかどうかだけ。わかった上でできるかどうかは、実際に経営をやってもらうしかないんです。
 でも、社長交代して3カ月やって変化がなかったり、半年で数字に表れないようなら、その社長ではダメですね。1年待ってもダメです。
 ダメな経営者はやるべきことをすぐにやらないで、やっちゃいけないことをやろうとする。あとは、3カ月、4カ月経営してみて「従業員の目の輝き」が増すか。このふたつが判断材料ですね。
伊藤 私はタイの自動車メーカーでキャリアをスタートし、日本でコンサルティングファーム、コカ・コーラ、デル、レノボ、アディダスジャパン、ソニー・ピクチャーズ、ハイアールと経験してきました。今は自分で始めたX-TANKコンサルティングと、国内電機メーカー6社の液晶事業を統合したジャパンディスプレイの再生事業をやっています。
タイ・バンコク生まれ。アーンスト&ヤングを経て日本コカ・コーラ入社。その後、デル、レノボ米国本社、アディダスジャパンなど、各大手グローバル企業で要職を歴任。ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントでホームエンタテインメント日本・北アジア代表を努めた後、2014年からハイアールアジアグループ代表取締役兼CEOに就任。16年にコンサルティングファームのX-TANKコンサルティングを設立し現職。17年、世界大手ディスプレイ会社であるジャパンディスプレイに執行役員CMOとして経営再建に参画。
 いろいろな会社で仕事をしてきましたが、その業界のプロから見ると、いつも私は「よそ者」です。しかし、一歩引いた立場にいるからこそ、会社がダメになる共通項が見えてきます。
 第一に、ダメな組織は「ものごとを決められない」。もうひとつは、「上が責任をとらない」というのが挙げられます。佐山さんはトップで9割が決まるとおっしゃいましたが、私は社長6割、残りの4割は幹部や社員の責任だと思います。現場の社員が「やれることをやっていない」部分を改善するだけで、短期的な結果が出ることも多いですね。

ヒラメ社員と年功序列の弊害

徳谷 では、なぜ、組織はそういうダメになる構造に陥ってしまうのでしょうか。
佐山 人事権が大きいですね。ダメな会社では、上に意見をして不利な立場になるのはみんな嫌だから、ヒラメ型のごますり社員ばかりが出世して、会社全体がおかしくなっていく。結局、行き着くところはトップの責任です。
 私はスカイマークの再建で、3年前から初めて事業経営者という立場を経験しています。それ以前の30年のキャリアよりも多くのことを、この3年で学んでいます。その中のひとつが、経営者は「私利私欲がなく」「会社や従業員を愛せる人間」であるべきだということです。
 もうひとつが、全員がもっと頑張れる組織にする。今、私が考えているのは、伸びる会社になるには、執行役員を1年制にして、社員全員で選ぶべきではないかということです。毎年度末に次年度の先発執行役員メンバーを決める。そして1年やってみて、また次年度を選ぶ。
 そうすれば、少なくとも執行役員は頑張らないといけない。自分たちが選んだ役員ですから、無用な上司への不満は激減し、不要なエネルギーロスがなくなります。みんながもっと前向きに頑張れて、会社として成長できるはずだと考えています。
徳谷 面白いですね。私も、経営者こそ、社内・従業員、さらに社会への志を強く持つべきだと痛感します。トップの経営陣や意思決定行動が健全に働く仕組みができたら、すごく新しい。
 伊藤さんは、組織がダメになる構造的な本質はどこにあるとお考えですか?
伊藤 外資系企業にいたのでよくわかるのですが、日本企業の「年功序列」の弊害はかなり深刻ですね。社内で認められることばかりを考えていて、外の世界を見ない。
 例えば、隣の中国の事情も自分には関係ないと思って、無関心だったりします。これだけグローバル競争が激しくなっている中で、業界が違うとか、国が違うから関係ないなんてありえません。もっとアンテナを高くしないと、競争力が落ちてしまうだけです。
徳谷 お二人の指摘のほかに、私がダメな組織の兆候と感じるのは、同じようなスローガンを毎年掲げているケースです。「変革だ」「次の成長の柱だ」「組織をこう変えるんだ」というように、意味合いが腹落ちしていない抽象的なスローガンが継続しているということは、達成できていないということ。もはや、目標が形骸化しているのです。
 そんな会社は、総じて会社の存在意義、ビジョン、目標もあいまいになってしまいがちです。

わかりやすい目標で勝ちグセをつける

徳谷 では、そういう「組織が腐る」兆候を感じたときに、どうやって組織を立て直せばいいのでしょうか。
佐山 3年前、スカイマークの新体制にあたって決めたのが、まずは安全第一。次が「お客様の時間を大切にする」ために、「定時運航率日本一」を目指すということでした。
 私は、この「定時運航率日本一」のメッセージを毎週毎週、ことあるごとに社員に送り続けました。そして社員全員で頑張った結果、2010年度、2011年度は最下位だった定時運航率を2017年度に日本一にすることができたのです。
 これが実現できた理由は、目標設定のわかりやすさです。例えば搭乗率85%を目指しましょうと言っても、現場は実際に何をしたらいいのか、わからなかったと思います。しかし、定時運航率なら、全部門にできる具体的な工夫があったのだと思います。
 もうひとつの理由は、スカイマークがみんな一生懸命頑張る会社であるということ。スカイマークで変わったのは、働く人ではなく、その人たちの「気持ち」です。よい会社というのは、みんなが楽しく頑張って働ける会社ということなんです。
徳谷 わかりやすい目標をどう設定するか。そして、今、組織内の人財がどうしたら、生き生き楽しく前向きに働ける組織に作っていけるかということですね。伊藤さんはどうすれば、組織が変わっていくと思いますか。
伊藤 デル時代、公共事業の統括GMだったときに、国内メーカーの牙城を崩すというミッションがありました。このとき、佐山さんと同じように「わかりやすいビジョンを掲げて、次のステップで勝ちグセをつける」ということを徹底しました。
 1回目の勝ちはまぐれでも、2回目も勝てるという感覚をメンバーが持つ。そうすると、そこから先は、自分たちの力で勝てるようになっていくんです。
 そのために何をするか。最初の1カ月は徹底的に社員の話を聞きます。問題点は大抵そこから見えてくるものです。
 よく「2−6−2の法則」といいます。2割は「現状を変えるべきだ」という高い意識がある層。もうひとつの2割が「絶対現状を変えたくない」層で、残りの6割は「どちらにも流れる」可能性があります。
 ポイントはいかに流動的な6割を味方につけるかです。最初の1カ月で問題点と2−6−2を見極めて、ビジョンや戦略をつくる。2カ月目はそれを回して、3カ月目にもう一度回すと、6割が変革派のほうに流れてきます。
 意識の高い2割はビジョンを提示すれば、それだけでついてくるので、ほっておいても大丈夫。これで8割がこちら側になります。
 変えたくない残り2割を変えるには時間がかかってしまうので、なんとかしようとは思わないほうがいいですね。短期で結果を出すには、この「2−6」の8割を押さえることがポイントです。
徳谷 明確な共通ビジョンを設定して、イメージできるようにすること。勝ちグセや初動の見極めと、動きが重要ということですね。言うなれば、組織の中に「変革の起点」をどう生み出すか。
 私が感じているのは、多くの人が、会社や組織をよくしようと思っているのに、そのベクトルがバラバラになっているということです。
 個々が小さなゴールに向けて最適化しても、全体でみると部分最適になってしまう。先ほどもあった、人事の話が最たる例です。本来、横串を通すべき人事機能が、経営視点・全体視点のないままに個々の調整・最適化を志向してしまう。
 特にベンチャーから大企業へと成長のフェーズが変わるタイミングになると、そういうことがどこの会社でも起きます。それが大企業の本質というか、「大企業病」への道といえると思います。

修羅場をくぐって市場価値をつける

徳谷 組織が硬直化して、ビジョンがわからなくなったり、変化に消極的な層が多くなる。客観的に見ても自分の会社は「ちょっと、やばい」と、個人が思ったとしても、トップは変えられない、変えにくいという状況もあると思います。
 そういう中で個人がどうキャリアと向き合って、意思決定をしていけばいいのでしょう。
伊藤 日本企業には減点主義があります。その減点主義に立ち向かうためにも、「2本足化」を勧めたいですね。
 1本足というのは、その業界、その会社でしか通用しないことをずっとやってきた人。2本足で立つということは、それ以外に自分の本来の能力を持つということです。
佐山 同感ですね。常に意識しないといけないのは、社内価値と市場価値の2つ。社内価値が大事ということはわかっていても、自分の市場価値については忘れてしまう人が多い。
徳谷 その市場価値を高める方法とは?
佐山 修羅場をくぐることです。誰でもができそうなことをいくら経験しても、力はつきません。「そんなこと、できるわけがない」ということでも、もし頑張ってそれを達成できれば力がつく。いろいろなしんどい思いをして、何度も乗り越えて強くなる。それが自分の力、つまり市場価値です。
徳谷 本当にそうですね。私が大事にしている「クリエイティブ・ジャンプ」という言葉があります。現状の延長線上ではない、非連続なところへ飛んでいくという意味です。どれだけそういう場所に飛んできたのか。その経験が強みとなり、キャリアの幅を広げてくれます。
 組織がどう成長していくべきかと同時に、個々が自身のありたい姿をどう重ねるか、というのも大切になってきます。個々のありたい姿を引き出し、非連続な機会をきちんと提供できるというのが組織の魅力であり、中長期的な強さにつながっていくと強く実感しています。
 実際、伊藤さんは、しんどい状況の会社を立て直すという修羅場を何度も経験されていますよね。
伊藤 はい。私も全く同感で、やっぱり修羅場をくぐらないと強くならない。その経験があるほど、「次はこうくる」というシミュレーションもできるようになります。
 私は赤字でダメになったり、潰れたり、買われたりした会社に呼ばれるケースが多いので、だいたい経営陣からは敵視され、四面楚歌という状況です(苦笑)。
 そういう中で、先ほど話した「変わらなくてはいけない」と考えている2割の人財をいかに早く見つけるか。そこで潮目がガラッと変わります。そのために、「誰かがやらなくてはいけないなら、自分がやればいい」という感覚を持つことを、いろんな社員に説いて回りますね。
徳谷 修羅場というのは、その瞬間は確かに修羅場なんですが、それをプロセスとして捉えられるかが大事です。
 私もエッグフォワードという会社を創業した後も、各社の変革に立ち会うたびに、今思えば修羅場を経験しました。しかし、自分や周りの成長する経営陣、ベンチャーを見ていると、そういう修羅場の渦中にあっても、それをプロセスとして捉えられています。
 本当に大変な状況でも、この修羅場を後から振り返ったら「大変だった1シーン」にすぎないと、切り出して考えることができるか。そこが大事だと思います。

動物的な違和感を信用する

徳谷  ところで、の組織は腐っていると感じたとき、自分の未来をどう描いていくか。その判断は難しい部分ではありますが。
伊藤 多くの人が「この組織はヤバイかも」と思いながらも、ズルズルとそのまま行ってしまいます。何を根拠にヤバイと判断するか。私自身の経験からいうと、「違和感」です。違和感は、人間が持つ動物的な危機察知能力ですから。その違和感こそ大事にすべきです。
徳谷 世の中の環境や組織の状態に、最初は違和感がわいても、だんだん組織に順応して忘れてしまいがちなんでしょうね。だからこそ、最初の違和感を大事にして、成長できる場所へ挑戦し続けることが大事になってくる。
伊藤 はい。もうひとつは、鏡で自分の顔を見てみること。死んだような目をしている日が続くなら、海に行くなり、仕事を替えてリセットしたほうがいいです。
 面白いと思うところへ行くのもいいですし、自分の興味がわからないなら、アンテナを高くしていろんな人間に会ってみる。そうすると、いろんなことが見えてきます。
佐山 大事なことは、「将来、お金は取り戻せても、時間は取り戻せない」ということです。そう考えると、自分が成長できそうなところへ行ったほうがいい。
 みんなが賛成する道というのは、大体たいしたことがないんです。私だって、メーカーから銀行員になったり、銀行を辞めて投資会社を作ったりして、成功する確率なんか5%もないと思う道を選んだ。
 ダメだったときの腹づもりがあったから、成功する確率が低くても挑戦できました。要は、難しいことに挑戦しないと面白くないし、力がつかないのだと思います。みなさん、難しいけど「面白そう」というものに、挑戦していってください。
徳谷 私がかつて調査したところによると、自分が天職だと思って働いている人は、だいたい3%くらいしかいませんでした。多くの人が「違和感」にフタをして生きている。だからこそ、面白くてワクワクできる仕事なのかは、極めて大事です。
 自分が何を実現したいのか、その価値を高めて成長できているのか。それが会社選びでは重要になってきます。
 日本企業は「組織から腐る」として、中から変革する方法を議論してきました。キーワードがいろいろ出てきましたが、組織論だけではなく、個々がどう考えてどう行動していくかが、最終的には大事です。
 過去の成功体験に縛られずに、未来への意思決定をし、個人として何を選択していくか。それが組織を変えていく原動力にもなると思います。
(編集:久川桃子 構成:工藤千秋 撮影:稲垣純也 デザイン:砂田優花)