【夏野剛・古市憲寿】革新的な映像体験。映画『search/サーチ』を見逃すな

2018/10/25
物語が100%PCの画面上で展開する映画『search/サーチ』が10月26日から公開される。その斬新なアイデアと、予想の斜め上を行く巧みなストーリーテリングが評価され、サンダンス映画祭では見事観客賞を受賞した。
この「革新的」な映画について、試写鑑賞直後の夏野剛氏、古市憲寿氏が語る。
デジタルネイティブ世代の監督が撮る、新時代のサスペンススリラー
何の前触れもなく、忽然と姿を消した16歳の娘。
家出なのか、誘拐なのか。無事を願う父親は手がかりを探すため、娘のSNSにアクセスを試みる。Facebook、Instagram、Twitter。そこに映し出されたのは、明るく快活に見えていた娘とはまるで違う、別人のような姿だった──
NewsPicksでは、公開より一足早く、読者を招いて試写会を開催。その際のアンケートでも、本作を鑑賞して「満足した」と答えた人が94%、「新鮮だった」と答えた人が97%という圧倒的支持率を記録している。
映画『search/サーチ』は、父親が実在のSNSを手がかりに失踪した娘を探す、新感覚のサスペンススリラーだ。物語もさることながら、ストーリーがすべてPC画面上で展開するという革新的な映像体験が話題となり、サンダンス映画祭では観客賞を受賞。
これは、デジタルが主要なコミュニケーション手段となった現代を的確に捉えた、間違いなく2018年の今観るべき映画だ。
今作で長編監督デビューを果たした監督は、若干27歳のインド系アメリカ人アニーシュ・チャガンティ。
写真中央がアニーシュ・チャガンティ監督
彼は、「Google Glass」だけで撮影した短編映画『Seeds』がインターネットで話題となり、映画界デビューへのチャンスを掴んだという異色の経歴の持ち主。
それがきっかけでGoogleに招かれ、2年間GoogleのCMを作ってきた、デジタル世代の最先端のクリエイターだ。
テクノロジーに明るいデジタル時代の監督が生み出した映画『search/サーチ』を夏野氏、古市氏はどう見たのか。試写直後のお二人を直撃した。
【夏野剛】SNSにどっぷり浸かった人には、現実よりもリアリティがある映画
「物語が100%PCの画面上で展開する」と聞くと、あたかもアイデア一発勝負の作品のようですが、映画『search/サーチ』は冒頭から観客を物語の世界に引き込む力のある、素晴らしいサスペンスでした。
映画は主人公がPC上で淡々とある行動をとるシーンからはじまるのですが、そこから家族の歴史が自然と見えてくる。
普通の映画なら、過去のフラッシュを挿入することでつい冗長になるところを、まったく無駄なく描ききり、なおかつ観客が自分で操作しているような感覚にさせることで、カメラ越しの世界という違和感を払拭してみせた。
導入にまったく無駄がなく、観客があたかもPCを操作しているような感覚になったところで、そこから自然と事件の中に入っていく、そのやり方がまったく新しい。なのに、ものすごく普通で全く違和感がないままに、物語に引きずりこまれました。
その感覚が、ものすごく面白い。この不思議な感覚は、ぜひ劇場で確認してください。
この素晴らしいサスペンスを観て私が最初に感じたのは、ハリウッドへの嫉妬でした。賢明なNewsPicks読者のみなさんには、ぜひ考えてほしい。なぜこの映画がハリウッドに撮れて、日本に撮れないのか。
テクノロジーの面だけ見れば、決して日本で撮れない映画ではありません。ですが、ハリウッドでは、常に「面白いアイデアを持った若い監督」にも少額ながらチャンスを与えるのに対し、日本の映画界の構造はそうはなっていない。
シリコンバレーでメガベンチャーが育ち、テクノロジーだけ見れば負けていないはずの日本ではそうはいかないのとまったく同じ構造です。これは非常に悔しい。
もちろん、映画を観ている間中悔しがっていたわけではありません(苦笑)。「リアリティ」が、この映画の重要なキーワード。
家族写真(左)をPCの上で開く主人公の姿がWEBカメラに映っている画。他の映画ではなかなか見られない斬新な構図だ
15歳の娘がいる私にとって、父娘のコミュニケーションはいちいち刺さったし、「常につながるはず」の現代で、娘と連絡が取れない父親の焦燥感も迫るものがありました。
作中には、FaceTimeやiMessage、ニコ生にノリが近いSNSも出てきました。だから、私も含め普段からソーシャルやガジェットにどっぷり浸かっている人には、PC画面のみで展開されるからこそ、むしろリアリティがあるんです。
細かい例ですが、娘が電話に出ないからテキストを送るとか、複数のSNSで連絡してみる描写なんかもリアルでした。日本に置き換えるならLINEが登場するところですよね。PCの画面だけで展開するという新しい手法の部分を抜いても、ものすごく良くできている。
PC画面だけで展開される映画ですが、観ている間はそれをまったく意識しません。サスペンスとしても楽しんでもらいたいので多くは語りませんが、ラストは泣きそうになったほどです。
テクノロジーに明るい監督だからこそ、ちょっとしたシーンのディテールも秀逸でした。たとえば、複数のウィンドウを同時に開いて情報整理するうちに、ふと謎が解けていくシーンがあるのですが、そのPC画面上のポインタの動きはまさに日常の「あるある」です。
映画『search/サーチ』は、テクノロジーが日常に入り込んだ2018年の今を切り取った最新、かつ最高のサスペンスです。「わかるわかる」というデジャブと、「そうだったのか!」という大小のドンデン返しに翻弄されながら、ぜひ「今」を体感してください。
【古市憲寿】デジタルログが、自分よりも自分を知っている怖さ
映画『search/サーチ』の一番の見どころは、父親が失踪した娘のメールやSNSのパスワードを次々にゲットして、そこから足取りをたどって行く過程でしょう。
僕も身近な人がいなくなったらそうするだろうし、その追跡劇がすべてPC上で行なわれるから、さながら自分が誰かを探しているような現実味があって面白い。
さらに、PCの起動音やスマホの着信音という僕らが日常的に慣れ親しんだ音が頻繁に登場することで、「娘の失踪」という非日常を舞台にしながら、日常と地続きになった「狭間」のスリルが楽しめる。
これは、毎日PCに向き合って仕事をして、暇があればスマホを触っているようなNewsPicks読者も興味を持ちやすい映画だと思います。
2018年の僕らの日常を切り取ったような映画だからこそ、20年後、30年後にもう一度観てみたいとも思いました。きっとその頃は、世界中に監視カメラがあって、顔認識で個人が特定される時代です。
「2018年にはまだ行方不明の人がいたのか。牧歌的な時代だったな」なんて懐かしく思ったり、音声検索が一般的になっていて、「画面をクリックしたりしてたんだよ。知ってる?」なんて得意げに話したりするのかもしれません。
ニュース番組の動画をPC上で再生した画。この緊迫したシーンがどんなラストにつながるのか……。
また、デジタル上のコミュニケーションが浸透した現代社会を改めて俯瞰できた映画でもありました。
友達に見せる顔、家族に見せる顔、職場の同僚に見せる顔、恋人に見せる顔……。「人」はもともと多面性のある生き物だけど、SNSが普及した今、その多面性を誰もが日常的に、瞬間的に切り替えて表現できる時代になった。
たとえば、Instagramにキレイな写真を載せた次の瞬間、Twitterで目の前の他人の悪口を言って、LINEで誰かに連絡をとる(笑)。昔なら、もっと緩やかに行われていただろう「スイッチ」が、今は瞬時に表現できる手段があるわけです。
主人公である父親は、SNS捜索の過程で「自分が知っている娘」とのギャップに驚くわけですが、それ自体は今にはじまったことではありません。つまり、SNSなんかなかった世代の僕たちも親に隠し事はしていたし、僕らの親世代だって同じでしょう。
昔と決定的に違うのは、スマホやPCを日常的に触る人のほとんどの行動ログが、写真やSNS投稿といった形でデジタル上にアーカイブされていて、その気になれば他人もそれをトレースできるということ。Googleマップの「タイムライン」機能をオンにしていれば、いつ、どこに、何時間いたかまで、記録されています。
父親は、娘の友人たちにSNSで連絡を取り、消息をたどっていく。
冒頭で、「僕も身近な人が行方不明になったら父親と同じことをする」と言いましたが、映画を観ながら自分に置き換えてみて、急に怖くなりました。
メール、写真、検索履歴……。もはや「自分より自分を知っている」とも言えるPCの中身を全部見られるなんて、考えたくもないですよね。それなら僕は行方不明のままでいいし、むしろ死んでもいい。
『search/サーチ』という映画のタイトルに反するようですが、「探さないでほしい」。これが、僕の結論です。
(取材・文:大高志帆 撮影:加藤ゆき、露木聡子)