宇宙船の組み立てにARヘッドセット導入、現実になった「未来の工場」
MIT Technology Review
2018/10/17
ロッキード・マーチンは宇宙船の組み立て工程にARヘッドセットの導入を進めている。数千ページにも及ぶ紙のマニュアルからの脱却によって、製造業の未来は着実に変わりつつある。
工学設計ソフトによるモデルを投影
アイフォーン(iPhone)や靴のように、1つの製品を何千個も何万個も大量生産するような工場なら、すぐに組み立て作業の熟練工になれるだろう。だが、もし宇宙船を組み立てるとなると、そう簡単にはいかない。
「何かを製造するたびに、ほぼ毎回、初めての作業になる」(ロッキード・マーチンのブライアン・オコナー製造統括責任者)からだ。
航空宇宙産業ではこれまで、数千ページにも及ぶ紙のマニュアルを使って、従業員へ作業内容を指示伝達してきた。近年ではボーイングやエアバスといった企業で拡張現実(AR)を使った実験が始まったものの、試験段階より先に進むことはほとんどない。
だが、少なくともロッキードでは状況は変わりつつある。同社の従業員は1日も欠かすことなく、ARを使って仕事をしているのだ。
宇宙船技術者のデッカー・ジョリーは、計画が何度も延期されているNASAの超大型ロケット「スペース・ローンチ・システム(Space Launch System)」に搭載される予定の有人宇宙船「オリオン(Orion)」の作業工程で、マイクロソフトのヘッドセット「ホロレンズ(HoloLens)」を毎日使っている。
「1日の始まりに、これから自分がやる予定の作業に慣れておくために、ヘッドセットを装着しています」とジョリーは説明する。ドリルを使う作業を始める準備ができたら、ジョリーはヘッドセットを外す。いまのところ、最長3時間程度であれば、不快感や重量感を感じずにヘッドセットを装着できるという。
ジョリーをはじめとする組立工チームは、ヘッドセットを装着したまま指示を受け取るのではなく、15分単位で装着して作業を覚えたり、指示を確認したり、といった使い方をしている。
ヘッドセット越しには、工学設計ソフトウェアによって作られたモデルを投影するホログラムが見えるようになっている。
すでに宇宙船に取り付けられた部品上に、部品とラベルのモデルが重ねて映し出される。トルクの指示(部品を留める方法)といった情報は、該当する穴の真上に表示され、作業員は完成品がどのように見えるかを確認できる。
1500ページの作業指示書に代わる
作業者の周囲のバーチャル・モデルは、ヘッドセットを使用する人の役割に合わせて規則的な色分けが施されている。現在オリオンの熱シールドの骨組みを組立てているジョリーのチームは、1500ページもの紙の作業指示書でいっぱいのバインダーの代わりに、この新しいARテクノロジーを活用しているところだ。
試験導入中に複数の劇的効果を確認できたロッキードは、ARの利用を拡大しようとしている。従来よりはるかに短時間で新しい作業に慣れ、準備をし、穴あけや留め具を締める作業工程を理解して、実行できるようになったのだ。
ARによる劇的な効果は、ロッキードのヘッドセット活用に関する新たな野望を後押している。ロッキードは将来、宇宙空間でもヘッドセットで使うことを期待しているのだ。
ロッキード・マーチンのシェリー・ピーターソン先端技術責任者は、従業員たちの地球上でのARヘッドセットの使い方が、宇宙飛行士が宇宙船をメンテナンスする際にARをどう使うべきかのヒントになったと述べている。
「宇宙飛行士には、文字や図面を読むよりもはるかに直感的にメンテナンスできる能力を身に着けてもらいたいと考えています」とピーターソン先端技術責任者はいう。
ARヘッドセットを宇宙で使用できるようにするには、より着用しやすく、より使いやすくする必要がある。作業員が見るコンテンツの作成は容易になってきたものの、依然として多くの労力も必要だ。だが、オコナー製造統括責任者は、問題はそれほど時間をかけずに克服できると考えている。
「今から5年もすれば、効率的な製造現場はすべてこの手のARを使っていることでしょう」(オコナー製造統括責任者)。
原文はこちら(英語)。
(執筆:エリン・ウィニック/米国版 准編集者)
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