AIが味覚に挑戦、「美味しい」のデータ分析で新たな飲食経験の可能性

2018/10/16
飲食物を「24指標」について評価
AIが進出する領域の中でも、「味覚」は最も難しいもののひとつではないだろうか。レストランなどで「う〜ん、これ美味しい!」などと気軽に口に出すことはできても、その「美味しい」の成り立ちがどのような具合になっているのかを明確に説明できる人は少ないだろう。
それに、もし他人にそんなことをクドクド説明されても、味覚は人それぞれなので、自分自身が味わってみるまで本気で聞く気にならないことも多いはずだ。食の実験が続くサンフランシスコでは、そもそも「前例」がなく説明し難い感じの味が作り出されているとも感じる。
というわけで、AIが味覚に挑むのは簡単ではないだろうと想像がつくのだが、そんなことに挑戦しているスタートアップがいくつかある。
そのひとつが、ガストログラフAIを開発しているアナリティカル・フレーバー・システムズだ。
ガストログラフAIは、一般の人々や企業のテイストパネル(味見をする人々)向けにアプリを開発している。アプリでは、いろいろな食べ物や飲み物について、味わったユーザーが自分で感じた味わいを24の指標で記録できるようになっている。
例えばクラフトビールならば、口当たり、こってり感、冷たい後口、ピリピリ感などがある。24の指標について、それぞれ1〜5までのポイントをつけてフィードバックする。
特定の地域やデモグラフの嗜好性を明らかに
ガストログラフAIではそうしたフィードバックと併せて、そのユーザーがいる地域や年齢、社会経済的なバックグラウンド、喫煙状況、その製品に関する過去の経験などの情報を集めている。それらは個々人の味覚を左右する条件になるという判断からだ。
そうしたデータからガストログラフAIがはじき出すのは、特定の地域で好まれる味覚や、年齢層や社会経済的背景などによる特定のデモグラフによって高い嗜好性が見られる味覚だ。これらは、新しい食品開発のために参考になる。
現在スーパーで売られているような食品は、基本的には大衆にアピールするように作られている。特にポテトチップスやその他のスナックの競争が激しいアメリカでは、食べだすと止まらなくなるような味覚の研究が盛んだ。
どうもそれは「美味しい」味というよりは、「病みつきになる」中毒性のある味覚を求めて行われているケースが多い。食べながら、何となく罪悪感が積もっていくのはそのせいだろうか。
だが、今後人々の味覚がもっと多角化し、またそうした多種少量生産が可能になった際には、現在のようなアプローチでは限界があるはずだ。人々の健康志向も予想以上に高まっている。そうした時に、個々人の味覚からパターンを導き出すガストログラフAIのデータが役立つはずだというわけだ。
アナリティカル・フレーバー・システムズの創業者らは、大学時代に「お茶」のテイスティングにハマった経験を持っている。そして、自分が感じた味覚を入力すれば正しいお茶の名前が出てくるようなプログラムを作り、人間を上回る能力が達成できた。これが元になって、より幅広い味覚に関心を持ったという。
ポテトチップスも「自分風」にカスタマイズ
ガストログラフAIが成功するかどうかは、十分なユーザー数が獲得できるか、十分な数の食品メーカーを確保できるかにかかっているだろう。だが、人々が向かっている味覚の方向性から捉えれば、的を射た感じのAIではないだろうか。
考えてみれば、スーパーに並んでいる誰にでも買える食品の味と、自分が探して見つけてレストランの美味しい味との間には、もちろん無数の差があるとはいえ、要はその味が「最大公約数的なもの」なのか、それとも「これまでにない、かつとても自分に合った味」なのかという違いがある。
後者の味の種類は食の実験によってたくさん出ているが、それぞれの味の幅はとても狭い。「これ」というピンポイントで導き出された味である。そんな味が発見されたことや、それを自分が見分けられたことが、レストラン体験を嬉しいものにしているのだ。
だが、そんなピンポイントがスーパーの食品に適用されることも決して不可能ではない。食品メーカーが、ある地域の消費者に向かって味をカスタマイズすることもあるだろう。あるいは、スニーカーを自分のデザインでカスタマイズするように、ポテトチップスの味を自分風にカスタマイズする日も来るかもしれない。
AIは、そんな味覚の分野でも面白い役割を発見するはずだ。食とAIの関係がどのような道のりをたどるか見ていくと、結構奥深いものになりそうな気がする。
*本連載は毎週火曜日に掲載予定です。
(文:瀧口範子)