[東京 12日 ロイター] - 政府・日銀は、世界同時株安の様相が12日になって後退し、今回の市場変動は「調整」に過ぎなかったと受け止めている。ただ、株急落の背景には、米中貿易戦争の激化を懸念した市場の思惑があり、米中間の経済的緊張が長期化した場合、株価下落の波が日本にも押し寄せると懸念する見方もある。危機に発展しそうな状況になれば、経済成長と財政健全化の両立を目指す安倍晋三政権に試練となりそうだ。

今回の世界同時株安について、ダウ<.DJI>が10、11日の2日間で1300ドルを超す下落となり、東京市場の関係者は固唾を飲んで12日の東京市場を見守った。

だが、日経平均<.N225>は前日比103.80円高の2万2694円で引け、市場にはホッとした心理が広がった。こうした市場動向を受け、ある与党関係者は「今回の株価下落は一過性であり、健全な調整」と冷静に受け止めている。

震源となった米国経済の動向に関しても「現時点で本格的な減速トレンドに入ることは予想していない」(与党幹部)とみており、政府内にも新たな政策対応を模索する動きは皆無だ。

日銀も同様の受け止め方が多く、桜井真審議委員は11日の秋田市での記者会見で、日経平均が一時1000円を超える下落となったことについて「ファンダメンタルズは日米ともに健全で、企業収益もかなり好調だ」と述べた。

ただ、全面的に不透明感が消えたとは言えないという見方も、政府・与党内にはある。冒頭の与党関係者は、市場の一部にある早期の米中和解について、その可能性は低いと指摘。そのうえで両国間で展開される貿易戦争が長期化し、今は世界で最も好調な米経済に陰りが出て、市場が動揺するリスクを指摘する。

その与党関係者は、トランプ政権の対中高関税政策の結果、米国の消費者物価の上昇圧力が急速に強まり、米長期金利の上昇を加速させ、株価急落のリスクをさらに高めかねないと指摘。

同時に物価上昇によって、今は堅調な米個人消費が失速するリスクにも言及した。米経済の失速リスクの表面化は2019年にも想定され「日本経済や日本株に大きな打撃になることも予想される」と先行きの不安感に言及した。

仮にこのようなシナリオが現実化した場合、円安・株高による「アベノミクス相場」に支えられてきた安倍首相の政権求心力に悪影響が出るのではないかとの声も、政府・与党内にある。

別の与党幹部は「日経平均が2万2000円を割り込み、その後も回復しない状況が長引けば、『アベノミクス失敗』との声が党内に充満しかねない」とリスクシナリオの台頭に警戒感を示す。

また、世界同時株安をめぐっては、別の思惑もくすぶっている。安倍首相や菅義偉官房長官が「リーマン・ショック級の出来事がない限り、予定通り実施する」と繰り返し発言していることに関連し、世界同時株安が世界的な経済危機に発展した場合、19年10月の消費増税10%への引き上げが先送りされるという可能性だ。

複数の与党筋は、消費増税延期とセットで19年夏の参院選が衆参同日選に変更されるシナリオに言及する声が自民党内にあると話す。

政府・与党の「静観発言」を額面どおりに受け止めることができるのかどうか──。今後の世界市場の動向次第では、日本経済の成長と財政健全化を両立できるか否かの正念場を迎えそうだ。

(マクロ政策取材チーム 編集:田巻一彦)