上司は人工知能、垂直農業のハイテクスタートアップの可能性
Bloomberg
2018/10/11
垂直農業のスタートアップ「バウワリー・ファーミング(Bowery Farming)」は同社独自のソフトウェアについて、ベテラン農家の勘よりも優れていると述べる。
必要な作業はすべてAIが指示
ケイティ・モリッチは毎朝、バウワリー・ファーミング(Bowery Farming)に出勤すると清潔な制服に着替え、ヘアネットをかぶり、消毒剤を使って手を洗う。それから、その日にやるべきすべての作業が表示されたコンピューターモニターを確認する。
そのToDoリストを作成しているのは人間ではない。同社が開発したソフトウェアだ。
このソフトは屋内農場で収集される膨大なデータをもとに、それぞれの作物について、どのくらい水やりすべきか、必要な光の強さはどのくらいか、いつ収穫すべきかといった重要な決断を下している。
農作業を行うモリッチや同僚たちは、コンピューターに言われたとおりに働くというわけだ。
25歳のモリッチは、コンピューターから指示を出されても平気だという。バウワリー・ファーミングはニュージャージー州にある工業団地で、いわゆる「垂直農業」を運営している。
モリッチは「バウワリー・オペレーティング・システムが上司のようなもの」と笑う。同社が独自に開発したソフトウェアのことだ。
このソフトウェアは、作物をより効果的に育てる方法をつねに学習しており、ベテラン農家の勘より優れていると同社は言う。「自分たちであれこれ推測する必要はない」とモリッチは述べる。
生産力は従来型農業の100倍
何千年にもわたって続いてきた農業に、新たな効率性をもたらすと約束する新しい業界が生まれつつある。
その業界に属するスタートアップのバウワリー・ファーミングは、ニューヨークに本社を置き、アルファベットのベンチャー部門をはじめとしたシリコンバレーの投資家から支援を受けている。
現在はレタスやルッコラ、ケールなどの葉物野菜を中心に栽培しているが、同社によれば、1平方フィートあたりの生産力は、従来型農業の100倍を超えているという。自動化や空間の節約、垂直に重なって栽培される作物、通年で生育が可能なことなどがその理由だ。
モリッチは自身の給与額を明かそうとしなかったが、同社によれば、モリッチの年収は、従来型の農業従事者の年収中央値である2万3380ドルを超えているという。
これこそ、テクノロジーが経済に役立ってほしいとエコノミストが望むかたちと言えるだろう。つまり、働く人の生産性を向上させつつ、給与を徐々に増やしていくわけだ。
さらに注目すべきは、従来型の農場で作物の世話をするよりも、モリッチの仕事のほうが安全性がはるかに高い点だ。
もちろん、人工知能(AI)に人間の仕事が奪われる可能性はある。モリッチの仕事も新しいタイプとはいえ、そうした可能性と無縁ではいられない。
バウワリー・ファーミングは現段階では、必要とされる農作業のすべてを自動化する手段を考案していないが、モリッチが同社で働き始めてから2年と経っていないのに、同社はすでに進歩している。以前は手作業だった種まきが、機械で行われるようになったのだ。
ロボットと分業する時代へ
モリッチは雇用について不安はないと述べるが、マサチューセッツ工科大学スローンスクールの経営学教授であるエコノミスト、エリック・ブリニョルフソンは懐疑的だ。
マシン(人工知能)と分業する時代をどう生きるかを論じた『ザ・セカンド・マシン・エイジ』(邦訳:日経BP社)の著者でもあるブリニョルフソンは「あるタスクが、創造性や対人能力といった人間の利点を必要としないものであれば、それは自動化の対象となる」と話す。
そして「短期・中期的には利益を生む仕事かもしれない」としながらも、ロボットが機動性を増し、より器用になる可能性を指摘し、「10年か15年後以内に、そうした仕事は頼りにできなくなると私なら考える」と述べた。
私たちも、そう考えるべきだろう。2018年9月に発表された世界経済フォーラム(WEF)の見通しによると、2022年までにマシンや自動化ソフトウェアが取って代わる可能性がある仕事は7500万にものぼるのだ。
「テクノロジーは、つねに人間の仕事を奪ってきたし、つねに新しい仕事を生み出してきた」とブリニョルフソンは語る。「大切なのは、一定の業種やスキルセットにとどまらないことだ。柔軟性を持ち、新しい仕事に就くための準備をすること。そうした新しい仕事の多くは、まだ生まれてもいないものだ」
モリッチも現状に甘んじているわけではいない。5月には農作業員チームのリーダーに昇進しており、これまでにない新たなチャレンジに取り組んでいる。
バウワリー・ファーミングの2つ目の施設をオープンする準備もあって、長時間労働で頑張っている。それが落ち着いたら、新人マネジャー向けのハウツー本を読むつもりだ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Aki Ito記者、翻訳:遠藤康子/ガリレオ、写真:©2018 Bloomberg L.P)
©2018 Bloomberg L.P
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.
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