ゴールドマン・サックスにユニリーバも、採用でAI面接官が増える理由

2018/10/9

ネット経由で十数個の質問に答える

まさかと思ったが、就職の面接にAIが利用されるケースが増えているようだ。
AI面接官が就職希望者の相手をするようになっている企業には、ユニリーバやゴールドマン・サックスといったグローバル企業も多い。
面接という、就職希望者にとっての重大事をAIなぞに任せるとはと、一種の憤りを感じそうになるが、決して手を抜いているわけではなく、また欠点ばかりではないようだ。
AIによる面接とは、だいたいこのような手順で進むらしい。
企業の人材募集に応募して案内を受けた就職希望者は、ネットを介してビデオで面接を受ける。インターネットにつながってさえいればどこにいてもよく、また時間もフレキシブルに決められる。使うデバイスもコンピューターやスマートフォンなど何でもいい。
ちょうどビデオ会議の要領でボタンを押してスタートするわけだが、大抵は最初に説明があり、身だしなみを整えたりする時間も与えられている。そこから十数個の質問に答えて、大体30分くらいで済むというのが多くのAI面接である。
質問は、例えば「あなたについてちょっと話してください。これまでどんな仕事に就いてきましたか。趣味や興味を持っていることは何ですか」といった柔らかい内容から始まって、「こんな問い合わせが来たと仮定しましょう。あなたならどう答えますか」といった特定のスキルを判断するようなものもある。
各問いに対して回答を準備する時間が30秒ほどあり、数分で実際の回答を行う。

録画映像をアルゴリズムが分析して、ランク付け

ただし、再生する機能もあるので、自分の回答が気に入らなければ何度もやり直すことも可能だ。ちょうど留守番電話のメッセージを吹き込む時のような感じだろうか。気に入った調子で話したと確認できるまで何回も繰り返していいわけだ。
当然、本来ならば30分ほどの面接が、それで長引くということもよくある話だという。
AI面接は、エントリーレベルの仕事で就職希望者が多いケースで利用されることが多い。カスタマーサービスが代表的だ。最近は、履歴書はリンクトインのホームページですませ、面接はボタンを押してAIで、といったお手軽で便利な方向へ向かう傾向も見られる。
ただし、お手軽だからといって、相手を見くびってはならない。AI面接官は、その後録画されたビデオをしっかりと分析するからだ。
AIが分析するのは言葉遣いや声のトーン(調子)、顔の表情など。システムによっては、1万5000もの要素を分析することもあるらしい。
分析を通してわかるのは、その人物の自信の度合いや、相手に対する共感を持つ人物かどうか、他人と協力するチームワークができる人物かどうか、そして適応性などである。多い場合には、15種類の基準で、ソフトスキルも含めたその人物の成功度を計測する。この成功というのはその職での、という意味だ。
分析するアルゴリズムの学習のために用いられているのは、同じ職に就いているベスト人材の言葉遣いなどである。そうした理想的な人材に照らし合わせて、その応募者の得点をAIがはじき出し、応募者全員のランク付けをする。
こうしたAI面接官が登場するのは、第1次面接である。ランク付けが高い応募者については、その後人間の面接官による生の面接が行われる。その意味では、AI面接官に全てを委ねているわけではなく、第一関門のスクリーニングを任せているにすぎないと理解すればいいだろう。

時間節約、人間よりも客観的な評価

AI面接を行う企業側の理由は、時間の節約が第一だ。明らかにミスマッチな人物はAIに落としてもらい、有望な応募者だけに実際の面接時間をかけることができる。
だが、それだけではない。AI面接システムを開発する会社は、偏見を取り除いて本当に優れた人物を客観的に選ぶことができると主張している。
人間対人間ならば、見かけがいいとか笑顔がすてきだったといった外見に惑わされることもあるだろう。あるいは、自分に似た人物に好感を抱いたり、面接官のその日の調子によって判断が違ってしまったりすることも少なくない。
AIならばそれがない。スクリーニングした結果は写真なしで、性別、人種などを特定することなく表示するシステムも多く、そのため女性や有色人種の採用が増えたなど、人材の多様性につながる結果も見られたらしい。出身校も広がって、それに関連して育った家庭の経済環境も多様化するという。
ただ、社内のベスト人材を学習させているといっても、そこにバイアスが隠れていることもあるだろう。過去の採用で白人が多かった企業ならば、どうしてもベスト人材における白人の割合が多くなってしまう。そうしたバイアスに対しては、意識的に調整する必要があるようだ。
こうしたAI面接官が出てきたことにより、最近は、AIのインタビューにどう答えるか、という指南が就職情報サイトなどに出てくるようになった。
姿勢を正してボディランゲージに気をつけ、要を得た話し方をし、自信に満ちた声を出し、カメラとのアイコンタクトを忘れないこと。そして、求められる職種に沿った表現や用語をちりばめることなどだ。
逆に効かないのは、魅力を振りまこうとすることだ。ロボットはそんな魅力には無関心なのである。
そしておかしなことに、AI面接に備えるための練習サービスも出てきた。20の人気職種に対して質疑応答をする。こちらもAIが出来を判断してフィードバックを教えてくれる。就職の世界では、早くも人間とAIが混じり合っているのである。
*本連載は毎週火曜日に掲載予定です。
(文:瀧口範子)