【大企業 VS ベンチャー】人事戦略としての組織シナジーの起こし方

2018/10/24
「個」の新しいつながり方=「人脈2.0」と、それを活かす「シナジー組織」について、さまざまな角度から掘り下げる連載最終回。
 組織経営の観点から、強い個を活かした組織戦略について語り合ってもらったのは、JTという大きな組織で多くの企業提携やM&Aを手がけてきた新貝康司氏。
1980年、京都大学大学院工学研究科修士課程修了。 日本専売公社(現JT)へ入社。1989年に渡米し、抗HIV薬Viracept®の開発等、米国新薬・バイオベンチャーとの数々の共同研究開発提携案件を発掘、推進。 1991年、米国NASDAQ上場バイオベンチャー企業 Cell Genesys, Inc. の社外取締役を兼任。1996年、JT本社に戻り全社経営企画・企業買収・事業売却および財務戦略を担当後、取締役執行役員財務責任者(CFO)を経て、日本、中国以外のたばこ事業の世界本社であるJT International S.A.の副社長兼副CEOに就任し、2007年、グローバルに事業展開している英国ギャラハー社買収・統合を指揮。2011年に帰国し、代表取締役副社長兼副CEO、リクルートホールディングスの社外取締役を歴任。
 そして、今年5月にマザーズ上場を果たしたラクスルのCFOとして、組織人事を束ねる永見世央氏だ。
2004年に慶應義塾大学総合政策学部卒業後、みずほ証券株式会社でM&Aアドバイザリー業務に従事。2006年から2013年まで米カーライル・グループに所属し、バイアウト投資と投資先の経営および事業運営に関与。その後、株式会社ディー・エヌ・エーを経て2014年4月にラクスル株式会社にCFOとして参画。同年10月に取締役就任。ペンシルべニア大学ウォートンスクールにてMBA取得。
 多くの人を束ねて、シナジーを生む組織を作るにはどうしたらいいのか。方や大企業、方や上場を果たしたばかりのベンチャー企業だが、見据える方向は同じく、個の多様性を活かしつつ、ビジョンを浸透させていくかという話題に尽きた。
輝くビジョンの発信がリソースを呼ぶ
──ビジネスの現場が大きく変わる中で、人と人がつながる組織というのは、どうあるべきか。大企業とベンチャーの経営に携わるお二人に教えていただければと思います。
永見 最初に新貝さんにお伺いしたいと思っていたのが、JTの経営理念でうたわれる「4S」というステークホルダーモデルです。
「お客様」を中心として、「株主」「従業員」「社会」の4者のステークホルダーに対する責任を高い次元でバランスよく果たし、4者の満足度を高めていく
新貝 4SのS、ステークホルダーというのは、日本語に訳すと「利害関係者」ではなくて「利害共有者」。そういう利害共有者への価値や満足度を中長期的に追求するということです。
 やはり4Sの中心が「お客様」で、さらに広い意味での「社会」が入っているのが肝です。お客様なくして企業は立ち行かないことは言うまでもありませんが、社会課題を解決する中で、新しい価値をつくって提供していくことが大切です。
 これは、大企業はもちろんのこと、ラクスルさんのように、ベンチャーでも新しい企業ほど、せっかく新しい事業を創造するのだから、そういうビジョンを大事にするべきではないかと私は思っています。社外取締役を務めているAIベンチャーのエクサウィザーズでも常に言っていることです。
永見 まったく同感です。ベンチャーの場合、最初の経営資源はビジョンしかないといってもいいんですよね。その会社のビジョンを経営者がきちんと発信し続けているかがすごく重要だと思います。
 雇用がかなり流動的になっている中で、人がその会社で働く意味は、どんな社会課題、顧客の負の部分を解決しようとしているのかというビジョンに完全に連動している。そういう会社に人もお金もリソースが集まってきますし。
新貝 今のように頭脳資本主義の流れでは、いかにすぐれた人財を引き付けるかが大事ですからね。給与だけではなく、共感や志を持って働けるかが勝負の分かれ目でしょうね。
永見 ただ、いかに強いビジョンで社内の求心力を強くしようとするかがベンチャーには求められる一方で、ほかのコミュニティや組織とのつながりはオープンになってきていると思います。
 例えばラクスルの場合、全社員、副業OK。そういう形で社員が外の世界とどんどんつながるだけでなく、外から出向で来てもらうこともあります。
 社内から社外、社外から社内の両方の動きがあることで、会社のビジョンが強化され、実行力もコミュニティの力もさらに強くなる。それが共創にもなっていきます。
新貝 その多様性と共創が、イノベーションを起こす力になっているんでしょうね。イノベーションは新結合ですから。
ビジネスを成功させる信頼の真価
新貝 これまでなぜ大企業に人が集まっていたかというと、やっぱりそこに重要な情報が偏在していたからです。
 でも、今はICTによって情報環境が変わって、いろんな所でパワーシフトが起きている。一方、情報が行き渡りアクセスしやすくなっているようで、実のところ、どこに何があるか、もう本当のところはよくわからなくなってますよね。
 Googleで検索すると、確かにいろいろな会社の情報を知ることはできますが、情報があふれすぎていて、会社の真価、つまり本当の価値はわからなくなっている。
永見 会社の本当の価値、ですか。
新貝 それは私流に突き詰めて言えば、「信頼できる人がいるか」ということです。
永見 なるほど。
新貝 私は1990年代、米国のバイオや製薬ベンチャーとの提携をかなりたくさんやったんですが、そのときに得た経験が糧になっています。他社と付き合うとき、まずは実際にその会社に行って、経営者やそこで働く人と話してみないとわからないんですよね。やっぱり相手が信頼できないと、事業提携も共同研究もできません。
ビジョンから始まる興味、尊敬、信頼
永見 新貝さんが米国でそういう経験をしたのは、何歳くらいのときですか。
新貝 米国には33歳から40歳までいて、ニューヨークとサンフランシスコに通算7年間滞在していました。その時代は、ちょうどバイオ革命が起きていて、次にIT革命がやってきた。そういう経験ができたのは非常にラッキーでしたね。
永見 人と人との信頼は一番ベーシックなもので、それだけに重要ですよね。どのように信頼を築くんでしょう。
新貝 やはりビジネスで信頼を生むのは「尊敬」ですね。尊敬してもらわないといけないし、相手の尊敬できる部分を見いださないといけない。さらにその前提として、尊敬の念を覚えるには、相手への「興味」あるいは「関心」が必要なんです。つまり、関心がないと尊敬は生まれないし、尊敬がないと信頼関係はつくれないということです。
永見 興味、尊敬、信頼ですね。
新貝 そこでも大事なのがビジョン。ビジネスで相手に興味が持てるかは、やはりビジョンにかかっています。興味や関心を持てるビジョンがないと、人が集う前提がつくれません。
誰が何を知っているか、を知ること
永見 興味、関心というのは、人脈の広さにも直結する話ですよね。
新貝 人脈はやはり名刺交換だけではつくれなくて、その人とつながったあとも、相手がギブ・アンド・テイクの関係と思ってくれるから続くものです。ウィンウィンの関係を築くことが人脈になっていく。
永見 ええ。やはりキャリアに限らず、人脈が広くて深い方は、好奇心旺盛な方が多いなと感じます。
新貝 そうかもしれないですね。ケヴィン・ケリーの『<インターネット>の次に来るもの』という本の中に、「永遠の初心者」という言葉がありますが、私はそれをもじって「永遠の初学者」と言っています。大企業の経営者であろうと、スタートアップの起業家であろうと、そこにずっと安住してはおられない時代です。
 常に自分を新しくバージョンアップしていけば、自然と相手から興味、関心を持ってもらえる存在になれると思います。
永見 私も「会社というのは、経営者より大きな器にはならない。だから、経営メンバー自体が学び続けて成長をしないといけない」とよく言っています。そこに限界が来たら、経営者は代わったほうがいい。
 学び続けるには本を読むことなども大事ですが、やはりたくさんのメンターを持って、メンタリングしてもらうことが大事だなと思います。
 自分が問題意識を持ったときに相談できる相手のリスト、その人脈があるかないかの違いは、かなり大きい。今、相談したいことがなくても、もしかしたら1年後にでてくるかもしれない。
新貝 永見さんの会社と経営者との関係についての持論は素晴らしい。私はよく、「生煮えのアイデアでも気楽に相談できる相手」をたくさん見つけたほうがいいと言っています。
永見 そういう意味では広い意味での人脈や、その共有も大切ですね。
新貝 人脈を共有すれば、そのネットワークツリーの結節点となる人がわかるはず。たくさんの人とつながっている人は誰なのかを知ることは、大事なきっかけになるかもしれません。
 つまり、「誰が何を知っているか」を知っていることが大事なんです。
 例えば今までやったことのないビジネスだけれども、あるシェアリングエコノミーの事業アイデアがあると。未経験のものが本当にワークするかは、よくわからないから、わかっている人に聞いてみよう、誰に聞けばいいんだろうかって。私はきっとね、共通の知り合いに聞くわけです、「こういうのを誰か知ってる人いない?」と。そうすると「ああ、永見さんのところに行ったら」と。
 そういう生きた人脈、ネットワークが広いほど、いいナレッジに触れられるチャンスがある。
永見 そういう機会って、自分からの発信がすごい大事だなと思っていて、誰が何を知っているかと同時に、自分が何を知っているかを知ってもらうことって、結構大事な話だなと思っています。
 僕はSansan社の名刺管理サービスを使ってるんですが、そこではつながった人の発言が見えるんです。他のSNSも同様で、ときどき引っかかる発言を見つけて、自分から連絡を取ったりすることもあります。それもまったく同じことですよね。
新貝 ええ。
永見 逆に悩みとしては、僕ら経営者はやっぱり人と情報に対する質量やアクセスの機会は多いと思うんですけど、同じような経験を社員にも提供したいなと思っていて。副業がOKなのもその助けになればと思っていて。
 僕の人脈を共有することもその一助になるだろうし、勉強会やプロジェクトといった学びの場を共有し、共に成長することを仕組み化できたらなと思っています。
氷山の下に隠れる背景こそ理解が必要
新貝 人脈をつくっていく上でも、ビジョンは本当にすごく大事なんですが、プレゼンテーションだけが得意な人もたくさんいるんですよね。羊頭狗肉(ようとうくにく)だと、後ですごく失望してしまう。
永見 その見分け方はあるんでしょうか。
新貝 それは「徹底した対話」です。この「対話」と「会話」の違いを教えてくださったのは、平田オリザさんです。
 平田さんは、共通の価値観を持つ人の間で起きるコミュニケーションは「会話」で、それに対して異質な価値観を持つ人の間で起きるのが「対話」だとおっしゃっています。
 それを私なりに翻訳すると、その人の発言として外に見えるものは、例えていうと氷山の海面の上に出ている部分にすぎないということです。氷山には海面の下に見えない部分が9割ぐらいあります。それと同じで、その人の発言からは見えない部分というのが大部分を占めていて、それが背景やコンテクストというものです。
永見 日々のコミュニケーションにおいて相手の背景やコンテクストを理解することの重要性は、我々のようなベンチャーでも痛感しています。例えばラクスルでは、新規で入社した社員にLifeline Chart(時系列と共に自分の感情やモチベーションの推移を表現したチャート)を発表してもらい、その人がどういう価値観で人生を歩んできたかを共有してもらうようにしています。
新貝 それは重要な取り組みですね。というのも、言葉の上では同じようなことを言っていても、それは目に見える表層部分だけで、この9割の部分が違うとすれ違ってしまうんです。海面下の部分をお互いに理解するために話すことこそが「対話」です。
 以前の日本の大企業は、キャッチアップ経済の中にあって、ベンチマーキングによって、「より高い品質のものをより低コストで」というアジェンダがはっきりしていたから、そういう背景の部分も含めてすべて「あ・うん」でよかったんですが、今はそういう時代ではありません。イノベーションのために多様性が必要だからです。
大企業とベンチャーの「対話」はどうあるべきか
永見 大企業のように、組織の規模が大きくなると、そういう対話が難しくはならないでしょうか。
新貝 そうですね。たとえば、永見さんはラクスルのCFOとして、大企業の方と会うとき、どんな人と会いますか。
永見 部長の方とかですね。取締役や執行役員など、経営陣クラスの方と最初に会うことは、多くはないですね。
新貝 そうですよね。大企業の癖として、規模の小さな企業は自分のヒエラルキーの中で、ミドルマネジメントに任せておけばいい、というバイアスがあるのだと思います。歯車の部品の仕事を委ねるように、決まったことをするのであればそれでもいいでしょう。
 でもそこと提携して、何かシナジーを起こそうというときに、信頼できる人がやっているのか、もしかしたら宝の山があるかもしれない。そんなふうに興味や関心を持っていかないと、いいコラボレーションなんてできないはずです。
永見 そう思います。相手の組織の規模や肩書にこだわらず、その人に敬意を示し、向き合っているテーマや課題について対話する姿勢が大事だと思っています。
新貝 大企業というのは官僚型組織なので、ものごとが細分化されて、本来は究極の目的に対して手段があるはずなのに、いつのまにか手段が目的化してしまいがちです。細分化され目的化された手段を追いかけていると、どうしても視野が狭くなる。
 一方で、ラクスルさんのように新しい価値を生み出そうとするベンチャーは広い視野でものごとを見ているはずです。そういう視野の違いがあると、どうしてもいい対話になりにくいですね。
永見 そういったすれ違いは、時々感じますね。こちらにとっての大きな目的が相手にとっては違う意味、例えば社内での成果のための手段だったりするかもしれません。そうすると、やっぱりお互いの信頼関係は築けないと思います。また、これからラクスルが更に大きくなっていくフェーズにおいては、逆の事象が起きないよう徹底したいと思っています。
強い組織の持つ多様性とエグゼキューション
──最後に、強い個を育みながら、組織がシナジーを発揮するには、どのような組織戦略が大事だとお二人は思われますか。
永見 私は「多様性の連帯」こそがシナジーを生むと考えています。「多様性」と「連帯」というと、一見、矛盾して聞こえると思うんですが。
「多様性」を大事にすると、環境の変化にも対応しやすい柔軟性がある一方で、組織がバラバラになるというリスクもあります。そのバラバラになりがちな多様性のある組織を、ビジョンや行動規範でしっかりと連帯させていく。このふたつの相反するものを同時に担保できる人事戦略こそが、強い個と組織のシナジーになっていくと考えています。
新貝 おっしゃる通りですね。経営上でシナジーがあるかを判断する材料は、トップライン(売上高)と効率化です。
 トップラインを生み出すのが、イノベーションであり、そのイノベーションは多様性からしか生まれてこない。さきほどまでのお話の通り、多様性の中で、相互に作用して新しい価値を生み出すのに必要なのが、優れた人脈です。
 一方で、効率の高い事業遂行のためには、多様な知恵を結集して決めた戦略を、一糸乱れず実行する「エグゼキューション・エクセレンス(優れた実行力)」が必要です。
 この多様性と一糸乱れず実行する力というのは、往々にして相反するものです。これらを両立するには、永見さんがおっしゃる通り、組織を束ねていかなくてはなりません。それが会社のミッション、ビジョン、行動規範なんです。
 強い組織としてシナジーを実現するには、強いミッションやビジョン、優れた人事戦略によって組織、人財を束ね、多様性に基づく素晴らしい戦略策定能力とエグゼキューション・エクセレンスの両方を追求していくことが必要でしょうね。
(編集:中島洋一 構成:工藤千秋 撮影:加藤麻希 デザイン:星野美緒)