【新】肩書より個人力で勝負、JBIC総裁・前田匡史の人脈の作り方

2019/1/12
【前田匡史】世界に広がる政財界人脈、政府との太いパイプ
自分自身について誇れることをひとつだけ挙げるとすれば、やっぱり「人脈」ということになる。
JBIC(国際協力銀行)総裁として、個別案件はもちろんのこと、国の政策立案に貢献するという仕事もあります。
安倍晋三首相が掲げる「地球儀を俯瞰する外交」の中で、各国に対して発信するメッセージの材料を仕入れ、政府とのパイプとなってつないでいく。
日本の国益に資する仕事をやりたい。そのための人脈であり、そのための情報です。
【前田匡史】国際協力銀行「再独立」のミッション・インポッシブル
菅直人政権の内閣官房参与に就任したのが2010年6月。菅政権の官房長官で先日お亡くなりになった仙谷由人さんと以前からお付き合いがあったんです。
仙谷さんって不思議な人でね、例えば麻生さん(麻生太郎・元首相、現・副総理)とも親しかったんですよ。
僕もそうなんだけれど、あの人も党派みたいなことはあまり考えない。肩書で勝負しない。特殊技能で勝負する。職人みたいな気質でしたね。
【前田匡史】アメリカから一目置かれる人的ネットワークを築く
国際的な人的ネットワークを築くきっかけになったのは、1991年からのワシントン事務所駐在ですね。
普通は2年くらいで交代するんだけど、僕はワシントンには4年近くいたんです。
赴任当初は33歳で、4人いる駐在員の上から数えて3番目だった。なので、よく日本人同士で昼メシに行こうと誘われるんですよ。
僕はそれをすべて断って、人脈作りに取りかかった。
【前田匡史】外交は総合力の戦い、外務省だけじゃ勝てない
国際的な人的ネットワークを築くきっかけになったのは、1991年からのワシントン事務所駐在ですね。
普通は2年くらいで交代するんだけど、僕はワシントンには4年近くいたんです。
【前田匡史】出る杭は打たれる、出過ぎた杭は打たれない
外務省からすると、僕は相当煙たい、とは思う(笑)。
外務省の悪口を言うつもりはないんです。ただ、これからの日本の生き方を考える時、外交の在り方も改めて問われるべきではないかという気はしますね。
【前田匡史】異例の安倍・トランプ会談を演出した“陰の人脈”
メキシコ債務問題の日米交渉で痛感したのは、外交における総合力の格差です。
アメリカ側のトップは財務長官のブレイディなんだけれど、実際に交渉の現場に出てくるのは次官のデイヴィッド・マルフォード、次官補のチャールズ・ダラーラ。
この2人が仕切って、ニューヨーク連銀総裁のジェラルド・コリガン、民間からはシティバンクのビル・ローズといった面々が集まってウワーッと押してくる。
日本側はまるで歯が立たない。
【前田匡史】7歳、初めてのガールフレンドは「アメリカ人」
旧態依然たる輸銀にあっても、僕のような生意気な若手に対して理解のある先輩はいらっしゃってね。
「出る杭は打たれる、だけど出過ぎた杭は打てない」ということを言われた。
よし、打てない杭になるくらい、エッジをきかせてやろう、と思って今日に至っています。
【前田匡史】極北の地、紋別のスナック「ほるすたいん」でカラオケを
「直接触らないほうがいい」と前任者から言われた案件をやり遂げたんです。
JBICの融資金額が当時の為替レートで約4500億円。うちの銀行始まって以来の最大案件になった。
何度も北海道に飛んで、NGOとも漁連とも膝詰めで話し合って、すっかり仲良くなりましたね。
「あんたみたいな部長は初めてだ」
紋別ではカニ料理をご馳走になって、カラオケ行きましょう! という声で、「ほるすたいん」ってスナックに連れてかれて。
女の子がね、みんな牛の着ぐるみを着ているんですよ(笑)。漁師が腹巻きから現金を出して払っているような店。僕はそこまで徹底的に付き合いましたから。
「サハリン2」(サハリン州北東部沿岸における石油・天然ガス鉱区開発プロジェクト)がきっかけになって、ガスプロム(天然ガスで世界最大のロシア企業)との関わりもできたし、ロシアとはかなり深くなりましたね。
【前田匡史】「スパシーバ、マエダサン」。プーチンから感謝された夜
僕は麻生太郎・財務大臣、菅義偉・内閣官房長官に相談して、「こういう時にこそ自分のような者が行ったほうがいいと思う」と申し上げたんですね。
フォーラムのプライベート・ディナーの席で、旧知のキリル・ドミトリエフ(RDIF=ロシア直接投資基金総裁)がプーチン大統領に話してくれた。
「マエダさんは、アメリカから“行くな”ってレターもらったのに来てくれたんですよ」
「えっ、そうなのか。それは非常にありがたいことだ。スパシーバ(ありがとう)、マエダサン」ってプーチン大統領が感謝してくれた。
【前田匡史】失恋がきっかけだった「他人の話をよく聞く心がけ」
いろんな人とコミュニケーションを深めるうえで、いつも気に留めていることがひとつあります。
よく言われることではあるけど、「他人の話をよく聞くこと」。
これについては、若いころ付き合っていた女性に振られたという経験がある。
【前田匡史】マレーシアの国家スキャンダルに巻き込まれかかった話
親しくなると、こっちから物事を頼むことは原則としてしない。頼まれたことは、できる限りで必ずやる。これが僕のモットーなんです。
それでも、リスクに対する皮膚感覚みたいなものはある。危ないところは結局切っている。そうでないと、生き残れませんよ。この世界じゃ。
【前田匡史】インドのマハラジャと描く環境プロジェクトの夢
インドの特徴はね、まず州の力が強すぎて、なかなか国の思うようにはいかない。しかも意思決定がビューロクラティック(官僚的)で、保護主義。規制緩和もなかなか進まない。
市場が大きいのに意外にビジネスが進展しないのは、以上のような国情があるからです。
モディさんが首相になって、NITI Aayog(インド変革委員会)を設置し、意思決定のスピードを上げようとしている。
【最終話・前田匡史】秩序なき「G0の時代」に日本の立ち位置を考える
肩書で勝負しない、個人力で勝負する。
その考え方と矛盾していると思われるかもしれませんが、僕は「個人の力」を過信してはいない──。
連載「イノベーターズ・ライフ」、本日、第1話を公開します。
(編集:上田真緒、撮影:遠藤素子、デザイン:今村 徹)