「戦略コンサル=MBA人材」だけじゃない

2018/10/10
「地頭が良くて論理的思考ができる人材」――。戦略コンサルタントファームに欲しい人材像を聞くと、このような答えが返ってくるケースが多い。しかし、アクセンチュアの戦略コンサルティング本部マネジング・ディレクター、廣瀬隆治からはその言葉は出てこない。「地頭はいいに越したことはないが(笑)、欲しいのは従来の戦略コンサルティングが重視してこなかった“右脳的な力”」。

背景には「従来型戦略コンサルティングの限界」があるという。戦略コンサルタント歴約14年のキャリアを持つ同氏の言葉から、今、戦略コンサルティングに起きている地殻変動と求められる人材像を見る。
戦略コンサルティング、大転換期突入
──戦略コンサルタントとして「MBAだけの人材は求めていない」とはかなり刺激的ですね。
廣瀬 MBAが「不要」ということでは決してないんですけどね。取得してくれていたら、それはそれで当然うれしいですよ(笑)。ただそれだけでは不十分。
私が伝えたいのは、戦略コンサルティングサービスに対するクライアントのニーズが変化してきていること。それに伴って、戦略コンサルティングファームの戦略と、求められる人材、チームが変わってきていることを言いたかったんです。
──戦略コンサルティングは、転換期にいるということでしょうか?
私はそう感じています。
「従来型」との対比で、クライアントのニーズと戦略コンサルティングで必要とされる人材・チームの変化をお話しさせてください。
従来型の戦略コンサルティングは、知識格差・情報格差に立脚していました。誤解をおそれずに言うと、クライアントが知らない「同業他社や他業界の先進事例・成功事例」を紹介することでサービスを提供していました。順調に経済が成長し、過去からの連続的な延長線上に未来があれば、先進事例・成功事例のまねや類似でも十分に成長できたからです。
そうなると、戦略コンサルティングファームに求められたのは、クライアントのニーズに基づいて、適切な最新情報を集めて分析し、より確実な課題解決策や成長戦略を提案することでした。
その際の戦略コンサルタントの理想像は、地頭が良くてロジカルシンキングの力が強い人。言い換えれば、言語的推理、計算、論理的思考などの役割を果たす「左脳」人材であり、広範な知識と経験を持つMBAホルダーや、なんでもそつなくこなすジェネラリストだったと思います。
──それが、現在は変わってきた、と?
従来型の戦略コンサルティングのノウハウはあふれるほど書籍化されていますし、そもそもインターネットなどの普及により、知識格差・情報格差はなくなってきています。そして、日本は成長期から成熟期に入り、GDPも数パーセントしか伸びない状況。さらにAIをはじめとしたデジタル技術が世の中を大きく変えていっている。この傾向はむしろ加速していくでしょう。
言い換えれば、未来はどんどん非連続で不確実になっており、「他社のまねごと」ではビジネスを成長させることができない。だからこそ、今多くの企業は、他社のまねではない、既存事業の延長でもない、誰もやったことがない新しい取り組みを求めているんだと思います。イノベーションに対して企業が強い関心を寄せるのは、その証左のように感じられてなりません。
だから、戦略コンサルタント、戦略コンサルティングファームも変わらなければならないのです。
欲しいのは「専門力」と「強い主張」
──どう変わらなければならないのか、具体的に教えてください。
イノベーションや誰もやったことがない取り組みの成功は、そう簡単にできるものではないです。ただ、その可能性を高める手段として私が考えているのは、各分野で高度なスキルや経験を持つ人材を可能な限り多様にそろえた「異能集団」になることです。
不確実で非連続な時代における新しいチャレンジの成功確率は、これまで交わったことがない人材、経験や知識を組み合わせることによって高まるはず。だとすれば、各分野で高度な専門的知識や経験を持つ優秀な人材を集めてディスカッションし、答えを探していくのが近道だと思っています。
──戦略コンサルティング界では、ジェネラリストからスペシャリストを求めるように変化してきたわけですね。
もっと言えば、未来は「こうなる」と予測するのではなく「こうしたい」という強い意志、主張を持つ方が望ましいです。先が見えない中で、新しいことをやるためにはクライアントにも勇気が必要で、背中を押してくれるような、ビジョンを強く訴える情熱が求められるもの。
従来型の戦略コンサルタントが顧客の要望に沿って受動的に動くタイプだとしたら、私が求めているのはクライアントをリードする能動的なスペシャリストでありビジョナリストです。
──その専門家とはどのような方々でしょうか。
例えばですけど、ビジネスは知らないけどAIの深層学習についてとことん掘り下げている技術者、長年製薬会社のR&D部門にいた研究者、個人事務所を経営していた弁護士、アート作品を手がけているデザイナー、複数のスタートアップを起業してきたビジネス立ち上げのプロなど。業種・業界は問わず、その道のスペシャリストはすべて該当します。
従来型のコンサルタントを「左脳人材」と表現しました。もちろん左脳人材も必要不可欠ですし、特に卓越した“左脳的な力”を持っている方は大歓迎ですが、今私がより強く求めている人材像は、直感やひらめき、クリエイティビティに優れた「右脳人材」といったところです。
──アクセンチュアは戦略とITのコンサルティングを手がけ、システム開発やアウトソーシングまでも手がける企業というイメージ。各業界の専門家が社内にいるとは意外でした。
アクセンチュアの戦略コンサルティング部門の約4分の1はこうしたスペシャリストです。昨今、業種・業界を問わず多岐にクライアントがイノベーションに関する戦略コンサルティングを求めていますので、各スペシャリストの活躍の場はたくさんあり、徐々に増えています。
新しい挑戦を成功に導くために多様なスペシャリストを集める必要があると伝えましたが、それに加えて、以前にも増してクライアントからスピードを要求され、クライアントが求めるコンサルティングプロジェクトの内容も専門性が高いものになっていますから、こうした要求を満たすためにも、多様な人材集団を組織しておく必要はあります。
スターコンサルタントはもういらない
──多様な人材がそろうことで、プロジェクトを進める体制も変化が当然出てきますよね?
以前はなんでもこなせるスターコンサルタントに依存するようなプロジェクトが少なくありませんでしたが、今はそうではありません。多様なメンバーの組織力を最大化すべく、チームで動くことがより必要になってきています。
ですので、私のようなマネジング・ディレクターやプロジェクト・マネジャーの役割は以前にも増して重要です。プロジェクトに合わせた最適なメンバーを選定し、個々を尊重し、異能をうまくつなげることが求められる。
均質的な人材の集団ではなく、さまざまな個性を持ったメンバーのパフォーマンス最大化が求められますから、働き方も意思決定のプロセスもだいぶ柔軟になりました。
プロジェクトメンバーの選定についても、上がとやかく言うことはありません。特に今の若い人たちは、社外とのネットワークが豊富かつ盛んですから、そのような筋から得たアイデアも積極的に受け入れる体制としています。そしてこのような体制の方が、ビジネスのスピードも断然速い。
──多様な人材をそろえたからこそ成功したプロジェクトの実例があれば教えてください。
ふくおかフィナンシャルグループの金融サービスプラットフォーム「iBank」は代表例かもしれません。iBankは決済や貯蓄などの従来の金融サービスに加え、各ユーザーのライフスタイルに合わせたさまざまなサービスを提供するプラットフォームです。そのサービスの一つとして「Wallet+」というアプリも用意しており、一連のプロジェクトを支援させていただいています。
このプロジェクトでは、金融業出身者、通信の専門家、アプリ開発者、エンジニア、そしてデザイナーが融合してプロジェクトを推進しています。
従来型の銀行業務を知った上で、今後どのような方向性に進むべきかを示し、それを実装できるメンバーがそろっていたからこそ実現できたと思っています。
「左脳と右脳の融合」が理想形
──スペシャリストたちの比率は今後どの程度にしたいのですか。
5割にはしたいと思っています。
左脳で動くタイプのコンサルタント、エッジの効いた右脳タイプのニューコンサルタント、この比率が半々ぐらいがビジネスを進めるには最適だと現状では考えています。テクノロジーとビジネスを融合させるのと同じように、コンサルタントも融合が大事だと思っていますから。
私が大学生のとき、今のITブームが始まりました。「ITが新しい時代を創造する」。そんな可能性を私も感じ、大学の仲間とウェブサイトやECサイトを制作するビジネスを立ち上げ、まさにテクノロジーが新しい世の中をつくっていくダイナミズムを感じました。
この原体験があったからこそ、新たなテクノロジーを使って新たなビジネスを創造できる会社に就職したいと強く思ったわけです。就職活動の時に他社も受けましたが、最終的にアクセンチュアを選び、机上の調査・分析やそれに基づく戦略立案だけでなく、実際に自分のアイデアが具現化され、ビジネスが生み出されていくことを体感しています。
約14年の間には、コンサルティングファームだけでなく事業会社やスタートアップなどからも転職のオファーはありました。でも、私はアクセンチュアを離れようとは思いませんでした。自分たちのアイデアが形となり、ビジネスとして創造される。クライアント企業のアセットを活用することで大きくスケールしていく。この一連のダイナミズムを繰り返し感じるには、最適な場所だと考えているからです。私が進んできた道に後悔はありません。
専門性を追求し、その専門性をビジネスに生かしたいと考えている方はぜひとも我々の仲間になっていただきたい。
また、私がそうであったように、最新のテクノロジーを活用し、新しいビジネスを発想したいと考えるビジネスパーソンの多くは、起業という道を選ぶ者が少なくないと思います。しかし、起業の先のマネタイズやスケールは、なかなか難しいのも現実です。
そして本来は新しいビジネスが自分のやりたいことであるのにもかかわらず、資金繰りをはじめとした各種経営業務に追われている場合も少なくありません。そのような状況にいて、新しいビジネスを生み出したいと考えている方にもぜひアクセンチュアを選択肢に加えていただきたいです。
あなたのアイデアを実現に導く資金、人材、人脈、チーム、環境といったリソースやプラットフォームが、アクセンチュアにはあるからです。
(取材・編集:木村剛士、構成:杉山忠義、撮影:長谷川博一、デザイン:國弘朋佳、図作成:大橋智子)