知っているようで知らない、知っておきたい「ビジネス教養」としてのエネルギー

2018/9/26
生活やビジネスと切っても切り離せないエネルギー。多くの人が当たり前のようにエネルギーを使っているのに、なぜか率先して学ぼうとする人が少ない分野とも言える。だが、政府はこの分野にさまざまな政策を打ち出し、その一環として2016年にスタートした電力自由化を機に、今エネルギー業界は激変の最中にいる。

必要不可欠な分野で、そのトレンドを知っておくべき業界。それがエネルギーだ。そこで、エネルギー情報センターの理事であり、RAUL代表取締役としてデジタルテクノロジーによる環境・エネルギービジネスの構築や問題解決を支援してきたエネルギーのプロ、江田健二氏に「教養」としての「エネルギー×ビジネス」を教えてもらった。それとともに、政策の一つで企業にとってもメリットが大きい通称「エネ合」と呼ばれる事業を読み解き、政策の一端も垣間見る。
──電気やガスなどのエネルギーは毎日使うものですが、エネルギーの基礎や関連ビジネス、最新動向についてあまり詳しくありません。これは私だけなんでしょうか……。
江田 関心がない方がほとんどだと思います。エネルギーって不思議なんですよね。みなさんの生活やビジネスに絶対に必要で毎日使っているのに、あまり詳しく知ろうとしない(笑)。エネルギーは自分と距離のある業界だと感じているのではないでしょうか。
 ただ、エネルギーは、世界レベルというか地球レベルで今後も長期的に取り組まなければならない分野。業種・業界関係なく、ビジネスパーソンにとって直接ビジネスにつながらないものの、ビジネス教養として身につけておくべきだと思います。
 ビジネスに関わっているのなら誰にとっても他人事ではない、これから起きる現象を示す3つのキーワードは、覚えておいて損はないでしょう。それが下記の3点です。
──「これから起きる現象」ですか?
 そうです。この先15年ほど先までの、重要なトピックになると思います。
 この3つのキーワードの前提として、昨今では電力の小売りの全面自由化も見逃せない話題です。従来、一般家庭向けの電力は各地域の電力会社が独占的に販売してきましたが、2016年4月から消費者が電力会社や料金メニューを選べるようになりました。
 以前から自由化されていた企業向けと合わせて、20兆円以上の市場規模があります。これだけの動かなかった市場が、動き出した。私の感覚では、IT業界におけるインターネットの登場と同じぐらい、エネルギー業界にとってはインパクトのある出来事です。
──「脱炭素化」から教えてください。
 先日、Facebookが2020年までに自社の消費エネルギーをすべて再生可能エネルギーでまかなう計画を発表しました。このような再生可能エネルギーを使おう、CO2を削減しようという流れが世界レベルで進んでいて、「RE100」(Renewable Energy 100%)という国際イニシアチブには、大企業を中心に140社ほどが参加しています。
 投資家にも脱炭素を推進している会社を応援しようという流れがあって、お金の流れも変わっています。これまでのように省エネだけでなく、使うエネルギーの中身も選ばなければ、投資家や消費者の選択肢から外されるでしょう。
──社会貢献的な枠で捉えるだけでは、いけないということですか。
 そうですね。もちろんブランドイメージを上げる意味もあるんですが、投資されやすい、選ばれやすいという意味で、利益に直結する話です。
 Appleは、サプライチェーン全体でCO2を削減しようとしています。ですから、特にグローバルで取引を行っている企業では、基準を満たしていないからサプライヤーから外される、選んでもらえないという話は、十分あり得るのです。
──つまり、取り組まないことが経営上のリスクになり得るということですね。
 そうです。それから、PRという面でも注目すべきです。グローバル企業は、省エネや利用する電力にも気を使っていることを、しっかりPRしています。日本企業で「RE100」に参加しているのは、現在10社と少ない。
 早く取り組んだほうがメディアに取り上げられやすい。最終的に取り組む必要があるのなら、同業他社より先にやることのデメリットはないでしょう。
──ただ、再生可能エネルギーは高コストというイメージがあります。
 日本のエネルギー自給率は1割程度で、化石燃料などをほぼ輸入に頼ってきました。これまでの再生可能エネルギーには、経済合理性も選択肢もありませんでしたが、電力自由化の影響や、メーカーの努力で太陽光パネルが普及。電力の地産地消化が進み、大規模発電に対して価格競争力を持つようになりつつあります。
 これが2つ目のキーワード、エネルギーの「分散化」ですね。つまり、電力をつくる手法が多様化し、それぞれのコストが下がってきているんです。ランニングコストが圧倒的に少ないエネルギー源を得ることで、日本全体の経済的な競争力にもつながってきます。
 売り上げを増やすのは大変ですが、コストが下がれば同じように利益が増えます。政府も補助金で積極的に支援をしている今、脱炭素化のメリットと合わせて、やらない手はないんです。
「鎖」から「ブロックチェーン」への大転換が始まった
──海外と日本で、エネルギー問題への取り組み状況に違いがあるのですね。
 そうですね。省エネに関しては、日本のほうがしっかりしているイメージはあります。ただ、海外のほうが電力マーケットの自由化が10年程度早かったので、ベンチャー企業も含めてプレーヤーの数も種類も多い。
 個々の工場に合わせた電力の使い方を提案してくれたり、人工知能とIoTをフル活用して工場の最適化を図ってくれたり、余った電力をマーケットに売ってくれたり、さまざまなサービス提供する企業があります。
──ということは、これから国内でチャンスがあると考えていいのでしょうか。
 日本のエネルギー消費は人口減少の影響もあり、それほど伸びないと考えられています。ですから、もちろんインドや中国など大きく伸びるエネルギーマーケットに打って出る機会はうかがっておくべきでしょう。
 とはいえ、これまで制約が多く「鎖国」状態だった国内のマーケットが動かせるようになったので、国内に目を向ける価値は、十分あります。例えば電力、ガス、インターネットなどのセット料金も大々的に宣伝されているので、そういう流れがあるのはご存じかもしれません。今後、まったく関係ないと思われていた異業種からの参入も十分あり得ます。
 ここ数年のエネルギー業界には、3つめのキーワード「デジタル化」の波が急速に訪れています。電力とは全然関係なくても、IoTなどの強みを持つ会社が電力シェアを取ったり、欠かせないインフラになったりする可能性があるんです。
──他人事ではないという感じがしてきました。どのようなテクノロジーに注目されていますか。
 一つは、総務省が2020年までの実現を目指している、屋外におけるワイヤレス給電。これにブロックチェーンが加わって、これまでとは全然違う電気の使い方をするようになります。
 今後IoT機器が増え、ドローン、空飛ぶ車、自動運転車の時代になってきますよね。電力が足りなければ自動的に充電して、それをブロックチェーンで管理して、決済も自動的に行うようになるでしょう。
 もう少し身近な例えだと、今ならスマホの充電がなくなると慌てますが、自動充電してくれるようになるソリューションも登場してくるでしょう。
 そして、どこでどれだけ充電したかが全部記録されているので、後からトークンなどで支払うような仕組みが可能になる。今後はパソコンもスマートウォッチも、VR眼鏡もという感じで、どんどん外で充電したいというニーズが出てくると思いますね。そういったことが、これから5年、10年で起こると考えています。
企業をむしばむ「不健康体」のケア
──海外で再生可能エネルギーの採用が先行したのには、どういった理由が考えられますか。
 さまざまな理由がありますが、一つは補助金などで市場を育てて、自走できるようにしたことが大きいと思います。日本でも国が補助金や税制を準備してマーケットができてきましたよね。
──国がいわば先行投資しているということですね。
 そうです。最終的に、国全体の利益になるように考えた施策です。電気自動車や水素自動車も、出始めに買う人は高くなってしまいますよね。先陣切ってくれたら支援をしてあげるという仕組みは、真っ当な政策なんです。
──電力を作る側のロジックはわかりました。先ほど自給率が1割という話がありました。使う側、省エネに関しても取り組む必要性が高いように思います。
 省エネに関しても補助金制度があります。機器のリプレースがゼロに近い金額になる、あるいは電気代が削減できるので数年で元が取れるし、継続的なエネルギーコスト削減になります。
 それから、補助金制度には副次的なメリットもあると思うんです。特に省エネの場合は申請に当たって、現在の設備を棚卸しし、エネルギー消費を定量的にチェックする必要があります。その過程で投資が必要なのか、見直すべきことがあるのか検討するので、健康診断をするような効果があるんです。
──なるほど。チェックする良いタイミングにもなるわけですね。
 もし設備が壊れてから対応すると、緊急メンテナンスや、操業停止など余計なコストや迷惑がかかりますよね。今年の夏のように猛暑が大きな社会問題となってくると、空調に対する意識も変わってきます。それこそ命に関わりのある、重要設備です。
──取り組まないことが、リスクになる。
 消防点検はあっても、電気はそこまでチェックしていない。ちゃんと見直す機会を持っておくのは、事業継続性に関わる意味のあることです。何も問題がなくても、補助金という特典もあるし無駄にはなりません。
 電力会社など、あらゆることを見直す良いタイミング。日頃エネルギーに課題意識を持っている担当者にとっても、唐突感なく経営陣に提言しやすい機会になると思います。
 江田氏によれば、エネルギー問題に取り組もうとする日本政府の姿勢は、世界的に見ても決して劣っていないという話だった。その施策の一つに、企業における省エネルギー化を促進するための補助金制度がある。
 なかでも規模が大きく注目されるのは、経済産業省による「エネ合(エネルギー使用合理化等事業者支援事業)」だ。8月31日に発表された平成30年度の採択金額は合計で約190億円。ただ、この支援を受けるのは簡単ではなく、年単位で周到に準備しても採択率は6〜7割にとどまる。
 どうすれば手間を省きつつ補助金を活用し、エネルギー問題に取り組むことができるのか。省エネの補助金制度に詳しい、三菱電機グループに話を聞いた。
知識と膨大な手間が必要な補助金活用
──政府の政策による省エネ補助金には、どのようなものがありますか。
美濃 省エネに関する補助金制度は、主に経済産業省や環境省によるものです。
 主に設備更新時に利用されます。設備を更新する際に、削減量、削減率、費用対効果がどれだけ見込まれるかが審査基準になる場合が多いです。ほとんどの場合、経産省は原油換算、環境省はCO2換算で計算します。
 このなかで「エネルギー使用合理化等事業者支援事業」、いわゆるエネ合についてご説明します。経産省の外局である資源エネルギー庁の事業で、他の制度に比べて規模が大きく注目度が高い。
 企業や個人事業主にとっては、補助金を活用することで設備を入れ替える金銭的な負担が減るわけですが、同時に省エネ性の高い最新の設備になるため、エネルギー消費が抑えられランニングコストを低減できるメリットがあります。イニシャルコストとランニングコスト、どちらにもインパクトがあるということになります。
──メリットしかないので、こぞって申請するのではないですか。
美濃 そうでもないんです。理由は手間と専門知識。
 資源エネルギー庁としては、当然ながら本来の目的が達成できるよう、厳正で公平な制度を目指しています。同じ企業グループに集中した採択や、制度の趣旨にそぐわない採択がないよう毎年改善が図られ、中小企業に有利になる仕組みであることが明示されるなど、広く省エネに取り組めるように考えられた制度だと思います。
 そのため、申請には煩雑な事務作業が必要なうえ、施工計画の変更が難しかったり、決められた期間内に工事をする必要があったりと制約もあります。また、採択の翌年には実際に省エネを申請通りに実現できているのか報告が必要。こうした手間と専門知識を要することが申請の大きなハードルになっています。
申請には250mlの缶コーヒーの高さほどある書類を用意しなければならず、このほか着工前写真や中間検査資料、確定検査資料、3年分の実績報告書も用意しなければならない。審査官にわかりやすく、きれいな資料づくりが採択を左右するポイントだ(提供:三菱電機)
西田 申請期間は例年、約1カ月間しかありません。しかも採択率は50〜60%。採択されやすいように、審査官にわかりやすい資料を早く用意する必要があるのですが、募集が始まってからではとても間に合わない。
 どれだけ資料がそろっているかにもよりますが、現地調査も含めると最低でも3カ月前から始める必要があります。毎年大体同じスケジュールで進み、提出資料も大きく変わらないため、早く準備を始めるに越したことはありません。
美濃 それに、エネルギー消費量を比較するために現状設備のデータを取っておく必要があります。どの設備が入れ替え対象になるか計画を立てる必要もあるので、取り組み始めは1〜2年前からになります。次年度の補助金の傾向をつかむには、毎年8月末に公表される各省庁の概算要求や、その後の閣議決定や補正予算の状況までウォッチすることも大切です。
──これだけの資料が必要だと、とても片手間では難しそうですね。事前準備にかかる手間を考えると、割に合わない場合や人員を確保するのが難しい場合もあるのでは?
伊東 そうですね。エネルギーの計算を日頃から行っている企業なら比較的準備しやすいと思いますが、それでも面倒だと感じる場合が多いでしょうね。
 ですから、採択率を上げる方法のアドバイスも含め、こうした補助金を扱うコンサルに協力を依頼することも珍しくありません。
外部のリソースを上手に活用する
──三菱電機では、省エネに対応した製品を各種取りそろえています。お客さまから補助金に関する相談を寄せられることも多いのではないですか。
伊東 そうですね。できるだけご相談にはお応えしていますが、私たちとしてはリースを一つの選択肢として提案しています。リースの利便性に加え、このようなサポートを無償でご提供しているからです。
 資料準備に時間がかかるとお話ししましたが、空調とLEDで3000万円規模の場合で、施主様単独で申請すると17日の事務負担がかかるところ、三菱電機グループとの共同申請なら、施主様の負担を5日に軽減できます。中間・実績報告も合わせると、施主様単独なら29日の事務負担が、10日に軽減でき、19日分の負担を軽減できます(日数は全て営業日ベース)。
──実質、担当者1カ月分もの業務量が減るんですか。そのうえ、素人が手探りで準備するより安心感がありますよね。
伊東 そうなんです。それに加えて、お金の心配も軽減できます。補助金を受けるとはいえ一度は購入資金を支払う必要がありますが、リース契約ですので初期費用が不要。省エネによってランニングコストが下がった分でリース料金の一部が賄えるため、毎月のキャッシュアウトが減ります。こうしたリース本来のファイナンス機能も魅力に感じてくださるお客さまも、当然いらっしゃいます。
──リースだと、その分金利負担が生じますよね。
伊東 金利をご負担いただくことになるため、自己資金が豊富だったり低金利で資金調達できたりする場合には、必ずしもお勧めするものではありません。
 ただ、別途コンサルに依頼するコストなども含めて比較していただきたいですね。コンサル料は、受取補助金の10%~20%の成功報酬が一般的なようです。
──なるほど、手間も含めてトータルでコストを考える必要があるのですね。最後に、制度の最新動向や、取り組みのコツを教えてください。
美濃 先ほど、毎年条件が見直されるとご説明しましたが、平成29年度補正予算では「見える化装置」の導入が新たに必須となりました。三菱電機ではFA(Factory Automation)に強みを持つメーカーとして「見える化装置」として十分な機能を有するエネルギー計測ユニットもご提供しています。
西田 さらに三菱電機システムサービスはEMS(Energy Management System)の導入を支援できる「エネマネ(エネルギーマネジメント)事業者」として登録されているため、通常なら1/3や1/4の補助率が、三菱電機システムサービスを経由することで1/2に優遇されます。また、エネ合の補助金以外に優遇税制についてもご案内しています。
美濃 総合電機メーカーとしてEMS、空調、冷凍冷蔵、省エネ効果が大きい照明、それぞれ強みを持った製品を扱っています。「エネ合」採択結果を見ますと、EMS、空調、冷凍冷蔵、照明の複数の機種を複合した申請がより多く採択されている傾向があります。加えて情報収集や申請、ファイナンスにいたるまで、省エネに取り組みたいお客さまを、グループを挙げてサポート可能な体制です。
 自社だけで取り組むのは大変ですので、外部のリソースもうまく活用する方法があることを知っていただきたいですね。
(取材・編集:木村剛士、構成:加藤学宏、撮影:竹井俊晴)