Takao Kiyotakaさんの「コメントで満たされる好奇心」

2018/9/16
NewsPicksが六本木の新オフィスに移転して、はじめて実施したピッカーさんインタビュー。35人目のピッカーさんとして、約束の時間に来てくれたのは、takao kiyotakaさんです。
コメント欄で化学の知識を披露し、裏付けの乏しいニュースがあれば警笛を鳴らしてくれるtakaoさんが、NewsPicksでコメントを続ける理由とは?
ガラスに切実な悩みを持つ後藤副編集長も加わり、まるで理科の授業のようなインタビューになりました。

きっかけは、コンフィデンシャル

──takaoさんが会員登録したのはおよそ4年前です。
おそらく、SNSでつながっている友人の誰かが使っていて、NewsPicksの記事をシェアしていたとか、そんな出会い方だったと思います。細かいことは忘れましたが、当時ニュースアプリをいろいろ試していて、そのひとつがNewsPicksだったんです。
──そこから、初めてコメントするまでだいぶ間があいていますね。
コメントするぞと決めたのは、割とはっきりした記憶があります。ちょっと恥ずかしいんですけど…。
この連載で、大場紀章さんが紹介された回がありましたよね。あれを読んで「コメントを続けるとこんなふうに紹介されることがあるのか」とやる気になって。
以前、大場さんが講師を務める勉強会に参加したことがあって、飲みの席でも何度かご一緒しました。大場さんも私にとっては遠い存在ですが、面識のある方がNewsPicksでフィーチャーされているのが新鮮で、純粋に「いいなあ」と思ったんですよね。
──連載やっててよかったです! 実際にコメントしてみてどうでしたか。
ツイッターも、鍵付きアカウントでしかつぶやいたことがなかったので、おそるおそる始めました。
投稿しても特に反応がないまま1ヶ月ぐらい経った頃、子育てに関する記事にコメントしたんです。
子どもが生まれたときに私も育休を取得して、周りから「イクメンだね」と言われたりしました。でも、本人としては褒められたいからやっているわけではなくて、父親として育児の当事者だったからやっただけのこと。
そのときに感じた違和感をつづったら、200件ぐらい「いいね」が寄せられて、はじめて認めてもらえたような、読んでもらえたぞという手応えがありました。
とはいえ、その後も鳴かず飛ばずで、「いいね」ももらえないしフォロワーも増えない時期が続きました。
takao kiyotakaさん
島根県松江市出身。2011年3月東京大学大学院工学系研究科卒業。大学、大学院では有機化学 (超分子)を専攻。2011年4月に日系ガラスメーカー入社。入社以来、化学品の研究開発に従事。主な開発テーマは農薬・コーティング剤。2017年には経産省主催の「始動」に参加。新事業を起こすマインドセットや方法を学ぶ。 座右の書は、「イシューからはじめよ(英治出版 安宅和人著)」と「新しい市場のつくりかた(東洋経済新報社 三宅秀道著)」。4歳の男の子と3歳の女の子の父。

「第3子の出産予定日が9月14日なので、どきどきしながらこのプロフィールを書いています」(takaoさん)

「お前、ガラス屋だろう?」

──そして少しずつ、化学分野のコメントもされるようになりました。
世界初 割れてもすぐに直るガラス開発」という記事が注目を集めた日に、大学時代の先輩から連絡がきたんです。
その人もNewsPicks経由でその記事を読んで「みんな誤解しているようだけど、このままでいいの? お前、ガラス屋だろう?」と。化学的に正確にいうと、その素材はいわゆる窓ガラスに使われるようなガラスじゃなかったんですね。
たしかにこれは看過ごすわけにはいかないぞと思い、ぶわーっとコメントを書きました。
世界初 割れてもすぐ直るガラス開発」(NHKニュース・2017/12/15)
そしたら(NewsPicks解説員の)Kato Junさんが「takaoさんのコメントをご参照いただきたい!」と私の名前を挙げてくれて。あれは、嬉しかったですね。
──「専門家の捉え方は違うのだな」と、気づきになりました。
新しい技術に関する記事があがると、「きっとこんなこともできるに違いない!」とワクワクした感想がコメント欄に寄せられますよね。私はどちらかというと「どうしてそれが実現可能なんだろう?」というところに興味が湧きます。
おそらく、記事を読んで「なぜなんだろう?」と思ったことを調べて、自分自身に説明できることに喜びを感じるからなんでしょうね。
私が日々のコメントを続けているのは、「いいね」の数やフォロワー数といった反響以上に、書いて思考を整理すること自体に知的好奇心が満たされているからなんだと思います。
化学品の研究に従事しているtakaoさん。「“研究”というと白衣を着て実験しているイメージをお持ちの方も多いかもしれません。私の会社では白衣は裾がひらひらしていて巻き込まれリスクがあるため、作業着の着用を推奨されています」(takaoさん)

指紋汚れとの攻防

──実は今日、takaoさんとガラスの話がしたいと、編集部の後藤副編集長も参加しています。
(後藤)自宅の机の天板がガラスで、スマートフォンの表面もガラス。そのガラスに指紋が付くのが、私は嫌でたまりません。“指紋汚れ”という課題に、専門家はどうアプローチするのでしょうか。
まず取っかかりとするのは「指紋汚れとは何か?」ですね。指紋汚れは、汗(水分)と脂(油分)と少量の塩分でできている。それは先人がすでに解明してくれているので、調べれば分かります。
つづく第2ステップとして「水分と油分と塩分がくっつかないようにすればいい」と考えます。
(後藤)その3つが、ガラスに残らないようにすればいいわけですね。
“くっつく”というのを分かりやすく表現すると、「ガラス側にいるほうが好きな状態だ」ということなんですね。こっちにいるほうが居心地いい、と。
水だけはじけばいいなら、油を塗ればいいし、油だけなら水を塗ればいいんですが、指紋汚れの場合はその両方をはじきたいわけです。
水も油も寄せ付けない手近な物質として、フッ素材料があります。
そこで第3ステップとして考えるのが「どうすればフッ素材料をガラスに付着させられるか?」です。そのためにはガラスの構造を理解する必要があります。
ガラスの構造を化学式で表すと「SiO2」、つまりガラスはケイ素と酸素の化合物なんですね。Siがあり、Oがあって、それぞれ手をつないでいます。
ただ、一番表面の部分は誰とも手をつながない状態になる。この、誰とも手をつないでいない部分に、もうひとつ酸素を介してフッ素材料とくっつけてあげると、ガラスの表面を覆うことができるんです。
“指紋汚れ解消”という意味では、指紋とフッ素材料の仲の悪さを、もっと強化する必要がありそうです。まだまだ、研究の余地のある部分です。
油性ペンで『マッキー』が圧倒的に強い理由」(東洋経済オンライン・2017/12/16)
地味にスゴイ! 産学連携の知財契約」(ニュースイッチ・2018/6/14)
日本の食卓支える家庭用ラップ、60年目の挑戦」(ニュースイッチ・2018/5/11)

ピッカーの「色」を可視化する

──最後に、サンクスポイントのβテストについて、感想を聞かせてください。
すごく面白いし、可能性を秘めた機能ですよね。
コメントって内容も大事なんですが、「誰のコメントか?」にも意味があると思うんです。ある人が書いているコメントに説得力があるのは、その人がこれまでにどんな文脈で何を語ってきたかにもよりますしね。
サンクスポイントがNewsPicksのコミュニティ内でやりとりされ、貯まっていけば、「この人はこの分野に精通している人だ」と、その人ならではの“色”が分かりやすく浮かび上がってくるのではないかと思うのです。
ピッカーの皆さんがお互いのコメントを読み、信頼に足ると思ったコメントにポイントを送ることで、「この分野のニュースについてはこの人が詳しいぞ」と可視化できるようになる。
ゆくゆくはそうなってほしいと、希望を感じています。そして、それができるようになれば、エセ科学がなくなるんじゃないかと期待していて。
──エセ科学とは?
科学的に正しそうなことを、それっぽく言ったり書いたりすることですね。人を欺くために科学を悪用されているようで嫌なんです。
化学の世界では、サイエンスライターの佐藤健太郎さんが、独自にエセ科学をなくすべく取り組まれています。佐藤さんの『「ゼロリスク社会」の罠』という著書でも実践されていますが、おかしいことをちゃんと「おかしい」と指摘なさるんです。
エセ科学の主張は「そんなことあり得ない」と分かっていても、いざ反論しようとすると難しい。佐藤さんはそれを、紳士的な語り口で整然とやってくれる方で、とても尊敬しています。
読み手の基礎知識に頼らずとも、イメージしやすい比喩を入れたり、説明をできるかぎりシンプルにしたりと工夫すれば、科学的に正しく伝えることができるはず。
私もまた、コメント欄を通じて、化学の基礎知識がない人にものごとを分かりやすく整理するような役割が果たせたら嬉しいです。
そんなコメントを皆さんにお届けできるように、これからも腕を磨いていきます。

Takao Kiyotakaさんのおすすめピッカー

「沖縄で貸し別荘オーナーさん、ということで、僕の境遇から非常に遠いところにいらっしゃるのに、 なぜか共感できるコメント。NewsPicksの特集『農業は死なない』でのコメントも大好きです。」
「科学を議論する上で大事なことの一つである、定量と定性の違いを意識したコメントをされていて、 科学的な素養を身につけている方だとリスペクトしています。」
Hiro Fさん
「間接部門にまつわる記事では、いつもHiro Fさんの、実体験に基づいたコメントを探します。 ある意味『現場』にいる僕からは想像しきれない、現実やご苦労があるんだなあ、ということがとても勉強になります。」