[東京 14日 ロイター] - ソシエテ・ジェネラル証券・チーフエコノミストの会田卓司氏は、安倍晋三首相が自民党総裁選に勝利した場合、デフレからの完全脱却に向け、財政拡大によるリフレ政策の再加速が不可欠との見解を示した。

会田氏は、アベノミクスの3本の矢のうち、大胆な金融政策と民間投資を喚起する成長戦略で、日本経済の信用サイクルと投資サイクルの上振れに成功したと評価。今後はもう1本の矢である機動的な財政政策によって経済成長力をさらに加速させる「リフレのサイクル」を実現することが重要と指摘した。

2019年10月に予定されている消費税率10%への引き上げは、政権の求心力を維持するためにやらざるを得ないとしたが、増収分の全てを生産性向上や格差是正、インフラ老朽化・災害などの対策に活用すべきと提言した。

その結果、国全体のネットでの資金需要が復活すれば、日銀による強力な金融緩和と相まって賃金・物価の上昇が加速するシナリオが描けると語った。

インタビューは13日に行った。主なやり取りは以下の通り。

──これまでの安倍政権の政策評価は。

「アベノミクス以前は、少子高齢化に伴って経済のパイが小さくなるのは仕方がないとして、名目GDP(国内総生産)の縮小を放置していた。だが、アベノミクスによってそれを縮小から拡大に転換させたことが最大の成果だ。遅れていた総賃金(の拡大)も16年以降に急激に加速し、足元では名目GDPの拡大を上回っている」

「大胆な金融政策によって、失業率の先行指標である日銀短観における中小企業の貸出態度判断DIが、バブル経済崩壊後で最も高い水準に改善するなど信用サイクルが目に見えて向上した。民間の設備投資の対実質GDP比も、壁になっていた16%を打ち破り、投資サイクルの上振れにも成功した。成長戦略が全く効いていないというのは当たらない」

──デフレからの脱却はできていない。

「問題は企業の貯蓄率だ。企業の貯蓄率はマイナスにあるのが普通の経済だが、バブル崩壊から金融危機を経て企業はディフェンシブになり、貯蓄率がプラスで居座るという異常な姿になってしまった。これが、総需要を破壊する力として日本経済にのしかかっている」

──デフレ脱却に向けた政策対応は。

「アベノミクスによって信用サイクル、投資サイクルの離陸には成功したが、この2つが作った経済成長の力を加速させる『リフレのサイクル』を上振れさせることができるかが重要。その鍵になるのが財政だ」

「投資サイクルが上振れている中で、リフレのサイクルが加速すれば、企業がさらに投資を活発化させ、貯蓄率が下がり、最終的にマイナスになって正常化する。一方、企業の貯蓄率と明確な逆相関にある一般政府収支は、緩和気味に推移することになるので、両者を合わせた国全体のネットの資金需要が復活し、日本経済の再生に成功する可能性は十分にある」

──具体的な財政政策は。

「14年度の消費税率と社会保険料の引き上げで、財政は緊縮気味になってしまったが、プライマリー・バランスの黒字化目標は20年度から25年度に先送りされた。安倍首相の新たな3年間の任期は、その目標に全く縛られないことになり、ようやくフリーハンドで財政の力を使ってリフレを促進していくことが可能となる。少なくとも財政は今よりも拡大すべきだし、拡大する余裕もある。財政がリフレのサイクルを加速させる力になるだろう」

──来年10月の消費増税は、さらなる先送りが必要ということか。

「経済的な分析で考えれば増税すべきではないが、安倍首相の求心力が衰えればアベノミクスの枠組み自体がなくなってしまう。政治的理由でやらざるを得ないだろう。やるのであれば、景気回復による増収分を含め、生産性向上や格差是正、インフラ老朽化・災害などの対策にすべて使うべきだ」

──金融政策はどうあるべきか。

「国全体のネットの資金需要が消滅している中では、マネタイズすべきものが存在せず、日銀の金融緩和も効かないので、追加緩和しても意味がない。むしろリフレサイクルの加速によってネットの資金需要が復活すれば、今の金融緩和を維持するだけでマネタイズの形が整い、金融緩和効果が強まる。信用、投資サイクルが上向いている中で、マネーが膨らむ力が強くなってくれば、賃金上昇も加速し、時間はかかるだろうが2%の物価目標は達成可能というシナリオになる」

──リスクは何か。

「対策が過小となり、消費増税によって財政は緊縮気味という話になってしまえばネットの資金需要は復活しない。その間に日銀による低金利政策の副作用が生じれば、むしろリフレのサイクルは失速してしまう可能性もある。デフレからの完全脱却は、時間との勝負になっている」

(伊藤純夫 編集:田巻一彦)