【公開】東大卒「畑に入らない農家」のカイゼン500

2018/9/12

梨園に導入されたタブレット端末

栃木県宇都宮市の郊外。阿部梨園の事務所で、佐川友彦に話を聞いていた。
クーラーの効いた事務所のすぐ外では、採れたばかりの梨が売られている。その日は平日で、何の変哲もない蒸し暑い夏の午後だったが、ひっきりなしに車が入ってきては梨を買っていく。
阿部梨園の周りには田畑しかなく、なにかのついでに立ち寄るような場所ではない。みんな、阿部梨園を目的地に車を運転してきているのだ。
「平日なのに、たくさんお客さんがくるんですね」と言うと、佐川はうなずいた。
「まだシーズンが始まったばかりで、ほとんど告知もしていないんですけどね」
佐川友彦(さがわ・ともひこ)1984年生まれ。東京大学農学部/農学生命科学研究科修士卒。栃木県宇都宮市にある阿部梨園のマネージャーとして、生産以外の全てを経営管理を担当している
売り場では、若いスタッフがお客さんに対応していた。お客さんが台の上に置かれた梨を選び、現金を手渡す。
一見、昔ながらの風景に見えるが、ひとつ明らかに違う点がある。スタッフがタブレット端末を軽快に操りながら売り上げを管理しているのだ。
佐川は2014年、阿部梨園に加わると経営と業務の「カイゼン」を担ってきた。大小さまざまなカイゼンの数はなんと500を超える。タブレット端末の導入も、そのひとつだ。
佐川の加入以来、阿部梨園は売り上げを伸ばし、今や直販率99%を達成。もともと2.6ヘクタールある梨園の拡大を進めている……と書くと、佐川がなにか特別な手を打ったように感じるかもしれないが、そうではない。