新しいソーシャルネットワークアプリBullet(子弾短信)が、アップルのApp StoreランキングでWeChat(微信)を上回った。わいせつなコンテンツの多さやプライバシーポリシーなどに関して、批判の声が上がっている。

リリース2週間でユーザー数500万

言ってみれば、「ダビデとゴリアテ」のような戦いだ。ただし、絵文字付きだ。
中国ソーシャルネットワーク市場において他の追随を許さない存在感を誇るWeChat(微信)が、新興の競合アプリBullet(子弾短信)と対峙している。Bulletはユーザー数を伸ばしているだけでなく、投資家からの資金提供を受け、最新テクノロジー好きからも支持を集めている。
QuickAsが8月20日にリリースしたBulletのユーザー数は、リリースからわずか2週間で500万人に達した。
この数は、3月にユーザー数が10億人に達したテンセントのWeChatと比べれば、誤差の範囲とも言えるかもしれない。しかし、Bulletへの関心は高く、9月4日時点のアップルApp Storeダウンロードランキングで、WeChatを上回るほどのものになっている。
北京の清華大学に通う学生フー・ユートンは、Bulletをリリース初日にダウンロードしたと語り、「多くの友だちも私自身も、あまりに長い間WeChatに取り込まれていたと感じている」と述べる。「欠点はあるが、この新しいサービスに魅せられている」

正確にテキスト化できる音声入力機能

WeChatはグループビデオチャットから電子決済、食べ物の宅配から配車サービスまで、あらゆるものをワンストップのプラットフォームにすることで、中国のスマートフォン市場を支配するようになった。
一方Bulletは、まずは自分たちの得意分野に焦点を当てている。QuickAsによれば、そのひとつが北京語で喋った内容をリアルタイムかつ97%の精度で正確にテキスト化するという音声入力機能だ。
QuickAsは初期の資金を、Gaorong Capital、Chengwei CapitalといったVCや、スマートフォンメーカーのSmartisan Technology(スマーティザン・テクノロジー)から、約1億5000万元(2200万ドル)調達している。
ただしその規模は、WeChatを運営するテンセント(騰訊)とは雲泥の差だ。深センに拠点を置くテンセントは時価総額が3940億ドルであり、「時価総額中国一」である企業の座を長年アリババグループと争ってきた。
金融コンサルティング会社ブルーロータス・キャピタルアドバイザーズのエグゼクティブディレクター、ショーン・ヤンは「現段階では、BulletがWeChatにとっての真の脅威になっているということはない」と語る。

フェイスブックとスナップチャットの関係に類似

それでもBulletは、初期のWeChatと共通した特徴がいくつかある。Bulletが、音声のテキスト化や翻訳(通訳)の「音声認識最適化」といった最新テクノロジーに焦点を当てたサービスに注力している点などだ。
ヤンによると、テンセントは時代遅れになってしまった既存サービスを強引に収益化しようとして、一部のユーザーを遠ざけてしまったという。ユーザーが食事やファッション、日々の活動などについて写真やコメントを投稿するWeChatの機能「モーメンツ」も「以前ほど関心を持たれていない」という。
この状況にはどこか、米国でフェイスブックと新興のスナップチャットの周辺で起こったことを思わせるものがある。一部の若いユーザーの間で、前者が「古臭い」とされるようになったのだ。
Snapchatは全世界に約2億人、フェイスブックのWhatsAppは約15億人のユーザーを抱えている。しかしどちらのサービスも、中国のグレート・ファイアウォール(金盾)にブロックされている数多くのプラットフォームのひとつだ。つまり、WeChatとBulletにとっては競合が減っているということだ。
BloombergはQuickAsにメールで質問を送ったが、回答はなかった。しかし、同社の共同設立者、浠傑(Hao Xijie)は中国のニュースサイト「界面新聞」で、BulletはWeChatと直接競合していないと思うと語っている。
そうなのかもしれない。しかし、テンセントは注視している。Bulletの元々のニュースフィードは、テンセントのサービスに頼ったものだった。しかし、そのリンクはすぐに削除されてしまっている。

プライバシーポリシーや情報保護に懸念も

Bulletの機能の中でもとくにユーザーの関心を引いているのが、音声認識技術を専門とするIflytek(アイフライテック)が開発した音声入力機能だ。
この機能を使えば、訛りのあるユーザーでも、即座にすらすらと北京語でコミュニケーションが取れる。北京語は中国の公用語ではあるが、人口14億人のうち多くの人々が、それぞれの地域の方言を話している。
ただし、Bulletの機能がすべてユニークで最先端かといえば、そうではない。
Bulletは、あまりに多くのわいせつなコンテンツがアップされているとの批判を受けている。また、グループチャットに匿名で参加することができるため、プライバシーポリシーやユーザー情報の保護について懸念する声も一部から上がっている。
深センに本社を置くマーケティングエージェンシー、チャイナ・チャンネルのマシュー・ブレナンはTwitterに「第一印象としては、ポルノがかなり多いと思った。WeChatではこうしたコンテンツはセンシティブすぎるとして扱われ、ブロックされている」と投稿している。
ブルーロータスのヤンは「ソーシャルネットワーキングアプリの多くが、Snapchatが登場した時と同じような問題に直面している」と語る。「Bulletは、WeChatに代わる最高のアプリというわけではないかもしれない。ただし、近い将来、同じようなアプリが出てくる可能性はある。WeChatは警戒すべきだろう」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Bloomberg News、協力:Weiyi Qiu、翻訳:半井明里/ガリレオ、写真:©2018 Bloomberg L.P)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.