【荻上チキ】格差を是正する「ベーシックキャピタル」
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「ベーシックキャピタル」とはちょっと懐かしい(20年くらい前に盛んに議論されたことがあります)ですね。
元々ベーシックインカムと、ベーシックキャピタルはフローを保証するのか、ストックを保証するのかという対立的な概念でです。
一般にベーシックインカムが早く死ぬと、その分だけ受け取り金額が少なくなるため損をするのに対し、ベーシックキャピタルはそうした欠点がなく平等である点優れていると言われています。
ベーシックキャピタルの概念では、ベーシックインカムのような給付金ではなく、国からの出資金と考えます。
つまり返済の必要のないベーシックインカムと異なり、必ずイグジットが必要なわけで、死んだら一定の利子をつけて国に返さなければなりません。
要するに、国は相続税として原資を回収して、今度はそれを又原資に次世代の若者に給付するのです。
この理屈なら最初こそ大きな財政負担になりますが、一世代過ぎればある程度その原資が確保される事になるわけです。
一見して理想的な仕組みに見えますが、現実的には個人に一括で大きなお金を渡すことは資本として機能せず、ベーシックインカムの一括払いになりかねない、という危惧が言われています。
よく宝くじを当てて、生活が乱れ、ついに破綻するという人がいますが、あれと同じ原理です。
又この考え方は、原資を相続税によっているため、長期的に相続税をあげるバイアスがかかり、私有財産の否定に繋がりかねないのではという指摘もあります。
ただ、こうした問題は用途や返済方法を明確にすることで、ある程度カバーされることがあり、現実の政策の一部として実行され、相応の成果をあげた例は珍しくありません。
ナチスの結婚資金貸付法や、ロシアのマテリンスキーカピタル(母親資本)もこのベーシックキャピタルの亜種であると考えられます。
ただ結婚とか出産、あるいは奨学金のようにある種の拡大再生産が見込める場合はともかく、格差是正の方法としてベーシックキャピタルが有効かどうかは、又別の議論が必要でしょうね。これも思いをもった人がやってみたらいい。いきなり国全体でやると、毎年1兆円で、義務教育級の予算になるので、1000人ぐらいの単位で、どのような成果が出るのかを見る。
近いものは、例えば「地域おこし協力隊」。1人400万円(個人に支給されるのは200万程度)で、10年で5千人規模の事業となっている。もちろん、この事業にも改善点はあるが、人生100年時代に、生き方や働き方を進化させる「変身資産(by リンダ・グラットン)」と考えると、いろいろ見えてくるものがある。
また「先進国で留学を全額補助とはいかがなものか」という声が当初あったトビタテは、きちんとエビデンスをとって成果を見ている。
再配分はどの国でも課題になっており、人生100年時代には、より難しくなるのだから、机上の議論より実行、ただしEBPM(エビデンスに基づいた政策立案)をしっかりやる、ということが大切だと思う。さまざまな公的制度を利用できるのは、先人たちが試行錯誤して「社会権」という概念に辿り着いたからなんだ、と気付かされます。
自分もそうした公的制度に世話になりながら、強者が弱者に「自己責任論」を唱える姿は情けない。
児童養護施設などで育つ子どもが18歳を超えた途端、自立を強要される問題は深刻です。
例えば、新卒の社会人がブラック企業や変な上司に出会ってしまったとき、いざという時に会社を辞めて実家などに戻れるか戻れないかだけでも、心の持ちようが変わる気がします。
そうした問題の一解決策として、養子縁組が挙げられますが、実親の「施設は良いけれど、里親は嫌だ」という感情的な主張により、なかなか進まないのが現状だそうです。子どもの意思や利益より、実親の意思が優先される制度設計になっている。「家族を選ぶ自由」という権利があっても良いのに、と思います。