「マーケットを見るか、上司を見るか」で人生が変わる

2018/8/25
長寿化の流れとともに、「教育→仕事→引退」と人生が3ステージだった時代は終わりを告げ、仕事がずっと続く「生涯現役時代」に突入。企業寿命も短命化し、「日本型雇用」という概念が崩壊。
そうした変化のなかで、個人はどのような働き方をし、どのようなキャリアを形成していけばいいのか──。
NewsPicks副編集長の佐藤留美が、これら一連の問いについて論じたNewsPicks Book『仕事2.0 人生100年時代の変身力』が、8月上旬に刊行された。
その刊行を記念して、産業医の大室正志氏、『転職の思考法』著者であり、ワンキャリア執行役員の北野唯我氏を招いたアカデミアイベントの様子を全3回でお届けする。
働き方改革の本質
大室 仕事2.0 人生100年時代の変身力』を書こうと思った理由は、働き方改革の影響が大きかったのでしょうか。
佐藤 働き方改革を推進している役人を取材する過程で、その本質に気づいたことがすごく大きかったですね。
それまで、世間では働き方改革は、長時間労働がなくなる、あるいはテレワークといった自由な働き方が広がるといった、ポジティブなイメージが先行していました。ところが、取材を進めるなか、働き方改革の本質は国が国民に「自立してください」と言っているのに等しいことに気づきました。
『仕事2.0』より編集部にて再作成
大室 働き方改革という聞き心地のいい言葉ではあるけれども、決して国民にとってプラスばかりではない、と。
大室正志 /医療法人社団同友会 産業医室 産業医
産業医科大学医学部医学科卒業。専門は産業医学実務。ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社統括産業医を経て現職。メンタルヘルス対策、インフルエンザ対策、放射線管理など企業における健康リスク低減に従事。現在日系大手企業、約30社の産業医業務に従事 。社会医学系専門医・指導医 著書「産業医が見る過労自殺企業の内側」(集英社新書)
佐藤 それを読者に伝えられたら、というのが執筆のきっかけでした。
大室 戦後からスタートした新卒一括採用、年功序列、終身雇用に代表される日本型雇用もすでに終わりがはじまり、会社という拠り所も揺らいできています。
そんな不安定さを引き受けていかなければならないのは、まさに現代人の病でもあると言えそうですね。
僕の友人でもある、元ミクシィ社長の朝倉祐介さんは福沢諭吉を引用しつつ「会社のそもそもの成り立ちは『この貿易にみんなでお金を出し合おう』という“プロジェクト型”だった」とよく口にします。
しかし、現代にいたるまでに、会社員は、元来“プロジェクト型”であった会社を、いつの間にか永遠に存続するものだと勘違いしてしまったと。
もっとも、現在では日本の大企業も“メンバーシップ型”から、“ジョブ型”という雇用の形に移っているのでしょうか?
ジョブ型とメンバーシップ型
佐藤 粒度の細かい職種別採用で有名なソニーや、仕事の難度や希少性に沿った給料体系を導入した日立製作所のようなグローバル企業など、 “ジョブ型”に変えている会社も見受けられますが、日本の大企業の多くはまだまだ“メンバーシップ型”が多いのではないでしょうか。
メンバーシップですから、 ゴルフの会員権を得るように、新卒一括採用で一度入会(入社)してしまえば、会社そのものが沈まぬ限り、たとえ成果を出せなくても、会社に居続けられることが可能です。
『仕事2.0』より編集部にて再作成
ただ、手厚い保障の代わりに、「仕事が選べない」「労働時間が選べない」「勤務地が選べない」という、“三無”と呼ばれる不自由も抱えることになります。
極端な話ですが、「明日から鹿児島ね」と言われたら、鹿児島に赴任するのがルールです。そして、一人ひとりの職務の規定もはっきりしていません。
佐藤留美/NewsPicks編集部副編集長
青山学院大学文学部卒業後、出版社、人材関連会社勤務を経て、2005年編集企画会社ブックシェルフ設立。「週刊東洋経済」「PRESIDENT (プレジデント)」「日経WOMAN」「プレジデントウーマン」などに人事、人材、労働、キャリア関連の記事を多数執筆。『凄母』(東洋経済新報社)、『資格を取ると貧乏になります』(新潮新書)など著書多数。2014年7月からNewsPicks編集部に参画、2015年1月副編集長に就任。
大室 確かに、一人ひとりが行う職務の内容が不明確なために、その内容は、会社都合でコロコロ変わります。世界的に見ても、こうした日本型雇用の特性は非常に珍しい形です。
佐藤 外国人からしたら、転職を考えたり副業したりすると、まるで裏切り者のように扱われたり、残業しないで早く帰ると戦力として認めてもらえなかったりする日本の組織の風潮は信じられないようですね。
自分の仕事である“ジョブ”が明確だから、基本的にその仕事内容しかやらない。逆にそれ以外の仕事をすることは、人の領域を侵すと考えていると、聞きます。
大室 日本型雇用においては、同僚は良く言えば「仲間」だけれど、悪く言えば、みんなで同じ我慢をする「村人同士」でもある。
佐藤 同僚は、長時間労働や上司の理不尽な要求を我慢し合う村人同士だ、と(笑)。
そして、子育て中の女性や外国人社員など、長時間労働が出来ない社員に対して、村人たちはとても厳しい。
大室 僕はジョンソン・エンド・ジョンソンの産業医時代、障害者でも健常者でも同じように働いてもらうというコンセプトの人事部の中の“ノーマライゼーションチーム”に参加していたことがあります。
その過程で、ある障害者の方から言われ、印象的だったのは
「しっかり5時に帰れることを基点とし、それをノーマルとするのが、海外のノーマライゼーションだ。日本のように残業をめちゃくちゃすることをノーマルと捉えられると我々は体力的に難しい」
という言葉でした。
佐藤 日本では、給料設計も、残業前提をノーマルにしている会社も未だに多いですからね。それに、残業するのが前提では、ライフイベントがある女性や、外国人、障害者やがん就労など病気を抱える方などと協働できません。
これからの人手不足時代、こうした人たちの力をいかに活かすかが企業の大きな人事課題になっていくことは必至です。
そこへいくと、一律で長時間労働を求める傾向は、ダイバーシティを受容する意味でも問題があります。
だいたい、子育て中の女性の多くは「短時間勤務制度」通称「時短」を取得し、その分、給料をカットされていますが、あれもおかしい。
彼女たちは時短といいながらも、だいたい仕事が押せ押せになって17時過ぎまで働いている場合が多い。つまり定時まで働いている。
なのに、なぜ、給料がカットされなくてはいけないのか。もっというと、なぜ、今どき、時間で給料が上がり下がりするのか、理解できません。
大室 ノーマルの基準を、家事は人任せにし仕事だけに専念できるような人材に合わせてしまっていると、やはり歪みが生じてしまいます。
そもそも、昔の工業のように筋力を必要とする仕事ではなく、知的産業が大半を占めてくるようになると、仕事も家事も男女をわける必要もありませんし。
マーケットを見るか、上司を見るか
大室 今日は、そんな佐藤さんと通じる問題意識をもつスペシャルゲストをお迎えしています。『転職の思考法』の著者である北野唯我さんです。
北野 北野と申します。よろしくお願いします。
大室 北野さんも『転職の思考法』で「もはや日本は終身雇用が完全に崩壊している」と書かれていて、「仕事の寿命が切れる前に、伸びる市場に身を晒せ」と主張していますね。
北野 現代の変化における本質は、人の寿命と会社の寿命とのねじれが起きたことにあると思います。なので、構造的にどこかのタイミングで転職しなければならないと。
北野唯我/ワンキャリア執行役員
神戸大学経営学部卒。『転職の思考法』(ダイヤモンド社)著者。就職氷河期に博報堂へ入社し、その後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年ハイクラス層を対象にした人材ポータルサイトを運営するワンキャリアに参画、サイトの編集長としてコラム執筆や対談、企業現場の取材を行う。TV番組のほか、日本経済新聞、プレジデントなどのビジネス誌で「職業人生の設計」の専門家としてコメントを寄せる。
大室 なるほど。ほかにも、「マーケットを見るか、上司を見るか」で人生が変わるという部分も、日本の会社員のあるべき変化を端的に表していると思います。
佐藤 そこは『仕事2.0』の世界観とも似ています。上司の顔色をうかがいながら仕事する考え方は「仕事1.0」に当たります。
そして、「仕事2.0」の現在は、転職をはじめ、自分のキャリアを自分で決めるという考え方です。それはまさに、「マーケットを見る」ということに重なります。
『転職の思考法』より編集部にて再作成
大室 僕もその考えは大枠では賛成です。ただ、日本型だけでなく、外資系企業でも、ボスである上司の顔色を気にすることは多々ありますよね?
基本的に、外資系に勤める人材は「マーケットを見る」という考え方をする人が多いですが、それは自分の履歴書がどう見栄えするか常に意識しているとも言えます。当然、「半年で辞めると、カッコがつかないな」と思えば、「まずはこの上司にゴマすっておこう」と行動することもあったりします。
一方で、日本企業の会社員の場合、「クビにはならないだろう」という意識があるせいか、上司に対してものすごく反抗的な、子どものような態度を取る社員がいたりもします。
「マーケットを見るか、上司を見るか」という言葉は非常にわかりやすくもありますが、外資はマーケット志向、日本企業は上司を見るとキレイに分けられるようなものではなく、むしろマーケット志向だからこそ時に上司にすごくゴマをするというような複雑な状況もあったりしますよね。
北野 まさしく、その通りです。実は、この本を書くきっかけも、僕が前にいた外資系戦略コンサルタント時代に、「外資コンサルも結局、日本の大組織と一緒だな」と思ったことでした。
佐藤 外資系のように見えて、実のところは日系もびっくりのメンバーシップ型、つまりは村人型企業もたくさんありますよね。
北野 なので、著書でも「転職をしろ」とは主張しておらず、いつでも転職できるというカードを持つことが一番重要だとしています。そして、それこそが人生を幸せにすると。
※続きは明日掲載します。
(構成:小谷紘友、撮影:遠藤素子、デザイン:九喜洋介)