マレーシア首相「一帯一路の主要事業中止」
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中国は、「一帯一路」イニシアティブを用いて、発展途上国に対して巨額の経済支援や投資を行い、中国がデザインしようとする新たな国際秩序に対する支持を得ようとしています。
しかし、中国の支援や投資は、必ずしも全て順調に進められている訳ではありません。例えば、スリランカのハンバントータ港の開発は、中国の銀行が投資して、中国の港湾建設の国営企業が、港湾、内陸部の空港およびこれらを結ぶ高速道路全てを建設しました。
中国が出したお金は、グルっと回って、中国国営企業の懐に入っていたのです。さらに、中国国内で生産過剰になっている建設用資材等を消費することができたのです。
中国の投資を受け入れたのは、地元の開発に中国のお金を使おうとした前大統領ですが、中国の融資を受け入れた結果、ハンバントータ港の運営権は、99年間中国に渡されることになったのです。
こうした状況に危機感を持った次の大統領は、空港の運営権は、同じく危機感を強めていたインドに譲ってしまいました。中国の思惑は外れてしまったのです。
こうした、現場の国営企業のやり方は、党中央の考えとは違うかも知れません。現場が党中央の意に従わず、自らの利益を上げることばかり考えて、地元にお金を落とさなかったことが、受け入れ国の不満を招いたとも言えるのです。
マレーシアにも、ナジブ前首相が積極的に受け入れた中国の融資等に対する不満もあると考えられます。マハティール首相は、必ずしも反中ではありません。東南アジア諸国は、有益であると考えれば、中国からの支援や投資も受け入れます。
中国の失敗は対岸の火事ではありません。現実的な思考をもった東南アジアへの対応は、単純に、親米と親中に分けて考えるのではなく、何が相手にとって有益になるのかを理解することから始めなければならないと思います。中止になったとされているのは、3つの事業です。
1.マレー半島の東海岸部の鉄道(ECRL)
2.ボルネオ島のガスパイプライン
3.マレー半島のマラッカからクダーまでのガスパイプライン
とりわけ、金額が大きいのは東海岸鉄道です。しかも、すでに建設工事が施行されているので、当然契約面や工事の面でも後処理が困難です。東海岸鉄道は、タイ南部ともつながり、さらにはシンガポールにまで至ります。中国から東南アジア、パキスタン、中央アジア、さらにヨーロッパまで鉄道を張り巡らす構想を持つ中国にとっては、望ましくない判断です。
マレーシアにとっては、中国からの債務が膨らんでいくという面のある事業でもあります。中国にとっては、余剰な在庫や資本を輸出したいと面もあります。より長期的に見れば、結局中国から人と資本が流れ込んでくるようになれば、日本企業が工場を建てたりするのよりもはるかに根深く中国の影響が及ぶので、マハティール首相としてはそれを避けたい、という話でもあります。NYTimesはこれを、チャイナの"債務の罠"と呼んでます。
世銀もアジ銀も貸せないプロジェクトに資金全体の80%をチャイナが貸す。返済はその国の財政力を遥かに超えているので当然行き詰まる。チャイナは相手から金利は貰い、港湾などの施設を99年間の長期賃貸契約に振り替える。
よく計算された仕組みです。