無名の個人が起こす、「スポーツ×地方創生」の新しい波

2018/8/25
NewsPicksでも特集記事に数多く登場されている楽天大学学長の仲山進也さんに私の新たな勤務先である福岡市は九州産業大学にてセミナーを開いてもらったのは先月のこと。
県内はもちろん、九州各地をはじめ、広島、大阪、愛知、東京などから多くの方々にお越しいただいた。その後の打ち上げも含め、大いに盛り上がったのだが、一連の時間を通じて「個人同士が信頼の力で緩やかにつながることの強さ」を感じられる機会だった。
九州産業大学での仲山進也さん講演会(2018年7月12日、撮影:秋山大輔)
仲山さんは新著「組織にいながら、自由に働く。」の冒頭で、ハーバード・ビジネス・レビューに掲載された論文の一節を紹介している。
新しい経済の基本的単位は、会社でなく、個人になる。仕事は、固定化した管理組織によって与えられ、コントロールされるのではなく、既存の組織外で個人事業主の集団によって遂行される。電子で結びついたフリーランサー、すなわちEランサーが、流動的な臨時のチームをつくり、製品を生産・販売したり、サービスを創造・提供したりする。仕事が終わればチームを解散して再び個人事業主にもどり、次の仕事を求めてさすらう。

T.マローン、R.ローバッカー(1998)「Eランス経済の夜明け」
この論文が発表されたのはなんと20年前。現在では働き方の変容とSNSの発達も手伝い、この記述がみずみずしく感じられる方も多いのではないだろうか。私もそんな人間の一人である。
なぜなら、これを地で行くスポーツビジネスセミナーの企画・運営が進んでおり、私も運営チームに加わりながらその勢いを強く感じている最中であるからだ。

欧州CLから、かめはめ波まで

登壇者はNewsPicksでもおなじみ、欧州チャンピオンズリーグの放映権ビジネスを手がける岡部恭英さん(TEAMマーケティング)とPanasonic改革のタクトを振る馬場渉さん。
他にも仮想現実空間でのかめはめ波対決を実現したHADOの福田浩士さん(株式会社meleap)、アルゼンチンでサッカーを“非”科学的視点から思考する『芸術としてのサッカー論』を展開する河内一馬さん、Microsoft、GoogleなどのIT企業を経てJクラブのマーケティング戦略部長に就任した江藤美帆さん(栃木SC、急きょ決定)など非常に豪華な面々だ。
それにもかかわらず、このセミナーを主宰するのは新潟県在住の一人のサラリーマン・遠藤涼介さん。しかも、会場は人口約3万人の小都市・新潟県は加茂市。なぜ市井の一個人が人口減少にあえぐ新潟の小都市に日本を代表する一線級を集めることができるのだろうか。
ことの発端はTwitter上でひょんなことから遠藤さんが岡部さんにコンタクトを取ったことに始まる。その理由は「岡部さんのネームバリューにそぐわないフォロワーの少なさが気になったこと」というものだった。
驚くような理由をよそに、岡部さんのオープンな人間性も手伝って遠藤さんとのコミュニケーションが継続され2人の信頼関係が構築。その過程で遠藤さんから今回のイベントに関する提案がされた。
このオファーが岡部さんより了承されたのは今年2月末。そこから5名の運営チームが結成され、諸々の準備が開始されたのだが、その全てが個人、そしてウェブベースのものであった。

想いと行動が社会を面白くする

約半年の下準備期間を経て、個人のつながりを基に講師陣も充実。9月23日の開催実施に向け、今月から3つのクラウドファンディングを通じた資金調達も開始された。
当該イベントをサポートするフェイスブックグループには、設立5日で100名を超えるメンバーが集い、イベント成功に向けた作戦会議が活発に行われている。
主宰者の遠藤さんは、こう語る。
「割とすごいことをやってのける人はとんでもない超人だけなんだっていう認識を取っ払ってみたいです。もっと軽く『楽しい』って言っていいんだとか、勝手に抑圧されてる雰囲気を地方でも変えられることを証明したいと思っています」
「何よりこのイベントの企画を通じて、これまでつながりを持てなかった人とも顔を合わせずとも、なんとなく僕のことわかってくれて、助けてくれるのがすごくうれしいんです」
遠藤涼介(33) 新潟県燕市生まれ。新潟市在住。ジャパンサッカーカレッジ卒業後、個人事業主、トレーナー、専門学校講師等を経て、現在新潟市内の歯科医グループ内で情報システムを担当するサラリーマン。3児の父でもある(写真は本人撮影)
メイン登壇者の岡部恭英さんも、「人類史上でも類を見ないレベルの少子高齢化と人口減という困難チャレンジに直面している日本。いろいろとやるべきことはあるのですが、日本を盛り上げるためには『地方創生』が欠かせません」
「日本中が盛り上がった先のロシア・ワールドカップを見てもわかりますが、『スポーツ』は大きな力を持っており、『地方創生』の強力なサポーターであると言えます。『スポーツ』が持つ大いなるパワーを生かして、日本の『地方』を元気にしていきたい! そんな想いを持つ仲間が集まり、『スポーツ×地方創生』イベントを行うことになりました。栄えある第1回は『新潟』です! 日本を、地方を、新潟を、熱~く盛り上げていきましょう!」
と語るように、このイベントはスポーツビジネスを通じてこれまでの価値観を変え、地方の閉塞感を取っ払う可能性を秘めている。
岡部恭英(46) 欧州サッカー協会専属マーケティング代理店「TEAMマーケティング」のテレビ放映権/スポンサーシップ営業 アジア・パシフィック&中東・北アフリカ地域統括責任者 。NewsPicksプロピッカー(写真は本人撮影)
あとはこうした想いがどれだけ社会の共感を得られるかにかかっているが、すでに現在、新潟での企画が契機となり、福岡でも同様のイベントの準備が進められている。このように、地方でも個人の想いと行動でこうした場を作ろうとする試みや、それを支援する活動が広がれば地域社会はもっと面白くなるのではないだろうか。
そんな地域活性化にもつながる本イベントを、皆さんにぜひさまざまな形で応援いただき、可能であればこのムーブメントの一員としてご参加いただきたいと願っている。きっとそれが、各地域でのスポーツビジネスの発展と、地域の元気につながると信じて。
(バナー写真:中島大輔)