イノベーションを下支えする企業内先駆者「Trailblazer」とは

2018/8/23
デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む企業は多いものの、まだ思考錯誤の段階で成功事例はまだ少ない。とくに、既存ビジネスの仕組みがしっかりと整備されている大企業では至難の技。そんな中、先日開かれたセールスフォース・ドットコム主催イベント「Salesforce Summer 2018」の基調講演に、B2Cビジネスではセブン&アイ・ホールディングス、B2Bでは荏原製作所が登壇し、それぞれのDXを披露した。B2CとB2Bの双方からの最新DX事例を紹介するとともに、DXを成功に導くための考え方を探る。
第4次産業革命、来たる
これまで人類が歩んできた産業革命の歴史、それぞれの原動力となったテクノロジーをキーワードで表せば、「蒸気機関」、「電気」、「コンピューティング」、そして今まさに進行しているのが「インテリジェンス」だ。2016年のダボス会議でも第4次産業革命が議題になったように、私たちの社会や経済に影響を及ぼしている最中だ。
このインテリジェンスは、あらゆる製品やサービス、そして人間の行動がつながることによって得られる。これを企業の立場から見た場合、顧客の姿を正確に捉え、“先回りする”ことができる時代がやってきたのだ。テクノロジーが発達し、超スピードで目まぐるしく変わる世界。それでも、顧客に集中するという姿勢は変わらず重要だというのが、Salesforceの主張である。
第4次産業革命の中、デジタルトランスフォーメーションの重要性を語るセールスフォース・ドットコムの小出伸一会長兼CEO
すべてがつながる世界の共通言語はデジタル。つまり、第4次産業革命の世界で生きて行くには、デジタルトランスフォーメーションがなくてはならない前提となる。
ところが6割近くの企業は、顧客に対して「つながる体験」を提供する準備ができていないという。例えば、データだけを集めていても、それを駆使できていなければ、顧客に対して満足感のあるエクスペリエンスを提供できない。
これは単にサービス向上で後れを取るというレベルのものではない。Salesforceではこうした状況を、顧客と企業の間にある危機と捉え「カスタマークライシス」と呼んでいる。
さまざまなテクノロジーをどう組み合わせ、そこから得られたデータをどう活用して、お客さまとつながっていけばいいのか。Salesforceによく向けられる質問だという。そのヒントとなるのが、セブン&アイ・ホールディングスと荏原製作所の事例だ。
「預かった情報を返す」社会的意義
2018年6月、セブン&アイ・ホールディングス傘下のセブン-イレブン、イトーヨーカドーが、あるスマートフォンアプリをリリースした。今後もグループで個々のアプリをリリース予定だが、共通のロイヤリティプログラム「セブンマイル」によって横断したサービスを提供できる仕組みだ。
グループ全体の店舗で言えば、国内では2万店以上、1日に2200万人が利用する巨大小売・流通グループの同社。当然、これまでもPOSデータによって商品の動きは見えていた。だが、顧客の動きが見えていなかったと振り返る。
今後はアプリを通じて、見えていなかった情報を使って利便性を顧客に還元できるようになる。例えば、時間や季節、購買履歴やアプリでの商品検索を通じて、利用者は意識することなくタイムリーに役立つ情報を受け取ることができるといった具合だ。
イベントでは、展示ブースに設置した特設擬似店舗で、消費者が専用アプリを利用するシーンを実践した。効率的なカスタマーリレーション例を示した。
コンビニエンスストア、スーパーマーケット、子供服専門店、百貨店など幅広い業態で展開し、みずからの存在理由は「暮らしのインフラ」であるという強い意識を持っている。
それだけに、データを活用することで一生涯のさまざまな場面で役に立てると考えている。例えば「ハンドソープの泡」で検索するのは、3〜4歳の子供を持つ親に多いことがわかっており、幼稚園に関連する商品を勧めることもできるのだ。
レコメンデーションなどの予測は1日に10億件を超え、これはSalesforce EinsteinというCRM向けAIによって支えられているという。
ただ、関係は一朝一夕に築けるものではない。技術と人の関係も、信頼の積み重ねだ。日本にある「三方良し」になぞらえ、売り手、買い手、世間の三者をしっかり考えること、それがお客さまから情報を預かる社会的意義だと考える。
セブン&アイ・ホールディングス代表取締役副社長の後藤克弘氏
また、商品の提案にとどまらないオムニチャネルの利便性も提供可能だ。
PC、スマートフォン、タブレットなど、シーンによってマルチデバイスでの利用も珍しくないが、1人として紐づけることが可能。コンタクトセンターでも購買情報を共有しているため、例えば店舗で購入した子供服のサイズが合わなくて電話しても、詳しい情報をもとに柔軟で正確な対応ができる。
登壇した同社代表取締役副社長の後藤克弘氏は、「今後も利用してもらうためには、リテラーとしてDXにみずからどう取り組めるかを考える必要がある」とし、CRMによってお客さまとの関係、そして絆をより太くできるとの考えを述べた。そして、変化への対応の「ど真ん中」にCRMを位置づけて、能動的に変えていくという。
社内コラボレーションで生産性を効率化
荏原製作所は、業務用ポンプを100年以上にわたって供給し、世界の産業を支えてきた。
しかし、拠点によって統一化されていなかったり、古いやり方が残っていたりといった課題を感じる場面が多くなっていた。事実、長い歴史の中で、拠点も増えビジネスの規模も大きくなったが、その反面で利益率下がってきていた。
まずは営業での生産性をどう上げるか。業務改革の手始めとして実施した現状分析では、営業担当者が1日1時間しか営業活動をしていなかったことが判明。多くの時間を見積に費やしていたのだ。そこで、顧客と対話する本来の営業と、事務処理を専門にする部隊とに分ける体制に変えた。そのコラボレーションを円滑に行うツールがSalesforceだ。
外からでもSalesforceを通して連絡を取り合い、依頼できるようになった。客先で受注すると、すみやかに発注入力。その納期回答までSalesforceでやりとりする。従来は1つのポンプの発注で10回程度の電話連絡を必要としてきたが、これを0にすることを目指している。
また、新たな受注の機会もデジタルによって生み出されている。名刺交換した見込み顧客にメールを送り、Webカタログにアクセスしてもらう。そこで誰がアクセスしたのかを把握し、さらに画面遷移を追うことで、興味を持った製品について適切なフォローを実施。成約の確度を上げていくことが可能になった。
業務改革は、営業だけにとどまらない。カスタマーサポートとの一気通貫した社内コラボレーションも図った。
企画管理技術統括部Executive Directorの籔内寿樹氏は、主力製品であるポンプの特徴として、納入後もメンテナンスも通じて非常に長い付き合いがあると説明した。そこで、引き合いから納入後のメンテナンス、次の提案を経て取替まで、すべてのプロセスを標準したいとの思いからSalesforceを導入したのだった。
荏原製作所 画管理技術統括部Executive Directorの籔内寿樹氏(写真左)
納入後のメンテナンスを担うサービスエンジニアは、協力会社も含めて700名体制。Salesforce Service Cloudにより、スマートフォンをかざすだけで稼動情報が可視化できるようになった。また、現地での作業が終了後、その場でiPadにサインをもらうことで、改めて書類のやりとりをする必要がなくなった。さらにメンテナンスで得た情報は、次の営業にも生かされることになる。
セブン&アイ・ホールディングスと同様に基調講演では、利用シーンを実践。サービスエンジニアがSalesforceのプラットフォームを活用して効率的にメンテナンス作業を行えるメリットを紹介した。
荏原製作所では、変わらなければという意識は全員が持っていたはずだが、どうすればいいかわかっていなかったという。思い切ってSalesforceに合わせて業務の仕方を変え、その結果が出始めている。
この基調講演、「産業革命をおこすのは、いつもトレイルブレイザー」というメッセージから始まっている。
Trailblazer(トレイルブレイザー:先駆者)とは、ユーザー企業内でSalesforceの活用を推進する担当者のことを指す。
「お客さまのイノベーター」、「新しい世界を作る人」などと説明され、実際に社内で果たす役割は大きい。営業や顧客対応の履歴を細かく登録するのは手間だし、新しいやり方に対するアレルギーを持つ者もいる。それでも取り組む効果があることを丁寧に説明し、文化を浸透させることで、企業を最適化してDXに対応した体質を作りあげることができる。まさに先駆者なのだ。
米国本社から来日したCPO(最高製品責任者)のブレット・テイラー氏は、企業を変えるのは人、トレイルブレイザーが企業の中心だとの考えを話した。実際、Salesforceではトレイルブレイザー同士が意見を交わし、学ぶことができるコミュニティ組織の活動も活発だ。その活動に対し、手厚いサポートを提供している。
この日はトレイルブレイザーを代表して、大阪で紙器の型などを製造する大創株式会社経営推進室の衛藤奈々氏が登壇。ブレット氏と意見を交わした。大創では8年前からSalesforceを導入し、今ではなくてはならないプラットフォームに成長したという。
衛藤氏はもともと海外営業で入社し、ユーザーの1人として利用していた。キャリアチェンジの機会を得て、畑違いともいえる管理者となった経歴を持つ。
Salesforceは変革をリードしようとする先駆者、つまり人から入り込んで世界を変えてきた。テクノロジーは、それをとりまく人や組織にまで踏み込んで初めて価値を生む。それを地で行き成功を収めているのがSalesforceであり、トレイルブレイザーたちなのだ。最後に、大創の衛藤氏のコメントを紹介しよう。
(取材・構成:加藤学宏、写真:森カズシゲ、編集:木村剛士)