ランニング愛好者やサイクリング愛好者に人気のアプリ「ストラバ(Strava)」が、さまざまな工夫を凝らして有料会員を増やそうと試みている。
売り上げのカギはプレミアム機能への課金
良いものに、無料のものはない。
テクノロジー業界では、ほとんどのSNSが広告モデルを採用しているが、このモデルはユーザーのためにならないというコンセンサスができつつある。ユーザーは、サービス利用と引き換えに、自分の時間、注目、プライバシーを差し出すが、その結果、腹が立ったり、あぜんとしたり、悲しくなったりするだけだからだ。
しばらく前に、フェイスブックのコンテンツを受動的に消費すると幸福感が低下すると示唆する研究結果が発表された。
フェイスブックは、広告とデータ収集をオプトアウトしたいユーザーのため、サブスクリプションモデルを導入するよう圧力を受けている。米連邦議会の公聴会でも、マーク・ザッカーバーグCEOはビジネスモデルに関する質問を受けていた。
「ストラバ(Strava)」は、ユーザーの健康に良いと主張できる珍しいSNSだ。3200万人の会員がアプリを使って、サイクリング、ランニング、水泳などのトレーニングを記録し、友人たちの動向を追っている。
しかも、これはおそらく偶然ではないのだが、サービス開始当初から売り上げの大部分をプレミアム機能への課金によって得てきた。目標を設定・追跡したり、心拍計のデータを分析したりといったプレミアム機能のことだ。
ジェームズ・クォールズCEOによれば、こうしたプレミアム機能がユーザーの幸福につながっているのはほぼ間違いないが、月額7.99ドルのプレミアムサービスはやはりハードルが高いという。
そこでストラバは、プレミアムサービスを3つのパッケージに分け、それぞれ月額2.99ドルで購入できるように変更しようとしている。
「変更の大きな目的は、サービスをシンプルにすることとアクセスしやすくすることだ」とクォールズCEOは説明する。
機能別のパッケージで購入のハードルを下げる
クォールズCEOは、インスタグラムで事業担当バイスプレジデントを務めていた人物で、15カ月前にストラバのCEOに就任したあと、もっと多くのユーザーにプレミアムサービスを利用してもらうにはどうすればよいかをじっくり考えてきた。
「アクティブなユーザーがいれば、彼らの利用状況を見て、プレミアム会員になるべきですよと宣伝する。では、そうしない理由は何だろう」
顧客調査から導き出した答えは、プレミアムとはいったい何であり、誰のためのものかという混乱だった。ストラバは、プレミアム機能を3つのパッケージに分けることで、何を提供しているかを明確化でき、同時に購入のハードルを下げることができると期待している。
3つのパッケージは、安全性、分析、トレーニングから構成される。安全性は、現在地を追跡できるリンクを送り、受け取った人が居場所を追跡できる機能。分析は、自分のパフォーマンスを細かく分析し、ほかの人と比較する機能。トレーニングは、目標を設定し、達成度をチェックする機能だ。
3つのパッケージすべてを利用する場合は月額7.99ドルで、既存のプレミアム会員は自動的にこのサービスを受けることになる。
ストラバは現在のプレミアム会員数を明らかにしていないが(プレミアムサービスは今後、「サミット」という名称に変更される)、2015年に行われたユーザー基盤の分析は、80万人がプレミアム会員である可能性を示唆している。
プレミアム会員が増えるのは素晴らしいことだが、過去2年間でユーザー基盤が2倍になるという急成長を遂げた理由として、クォールズCEOはフリーミアムモデルを挙げている。
「これほど大きなコミュニティーを構築する方法として、フリーミアムモデルに勝るものはない」
さらにクォールズCEOは、25のジムやフィットネスクラブ、アプリと新たに提携し、その恩恵を享受しようとしている。たとえば、会員が「Peloton」のフィットネス・バイク・クラスや「YogaGlo」のヨガクラスを受講したら、ストラバに自動アップロードされる。
インスタとFB出身のCEOが狙うもの
結果は上々だ。クォールズCEOがストラバに参加した当時は、45日ごとに新規ユーザーが100万人増えるというペースだったが、現在は30日ごとに100万人増えている。
クォールズCEOがストラバの一員になってから加えられたそのほかの変更は、インスタグラムとフェイスブックで合わせて6年過ごしたCEOらしいものだ。
具体的には、メインフィードに投稿する際、複数の写真を表示できる機能やトレーニングと無関係な投稿も行える機能などだ。さらに、エンゲージメントを高めるため、フィードの表示は新着順からアルゴリズムが判断した順番に変更された。
エンゲージメントが高まれば、第2の収入源であるスポンサー収入が増える可能性も高まる。現在ストラバに表示されている広告は比較的目立たないものだが、ユーザー体験を妨害しないように広告を増やすのは難しいことではない。
サイクリング愛好者は自転車、ランナーはランニングシューズ、すべてのトレーニング愛好者はエナジージェル(補給食)やプロテインバーを必要としている。
このように新たな収入源が生まれる可能性を秘めていることが、2017年、シリーズEの資金調達ラウンドでベンチャーキャピタルが1370万ドルを出資した理由だろう。
ただしクォールズCEOは製品の売り込みより、ユーザーがストラバを開いたときに健康を維持しようと思うことのほうが重要だと述べている。
「われわれが下す決断は、どうすればコミュニティーにもっと付加価値を与えられるかという思考に基づいている」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jeff Bercovici/San Francisco bureau chief, Inc.、翻訳:米井香織/ガリレオ、写真:GibsonPictures/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.