飲酒で逮捕。フィリピンの「暴君」が膨張させる警察国家

2018/8/8

容赦なき麻薬戦争の果てに

ホルスターに入った銃を握りしめて、曲がりくねった路地を突進してくる私服警官6人──。フィリピンの首都マニラにあるスラム街、トンド地区に住むエドウィン・パニス(45)はその姿を目にしたとき、まさか自分が逮捕されるとは思いもしなかった。
パニスはそのとき、マニラ湾を見下ろす土手に立つ自分の小屋のそばで、友人3人とビールを飲んでいた。
港湾労働者で地区の警備員を務めるパニスは、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領の就任以来、警察が標的にしてきた麻薬常習者やドラッグディーラーとは程遠い存在だ。パニス自身、多くのフィリピン国民と同じく、ドゥテルテが始めた血みどろの「麻薬撲滅戦争」を支持していた。
ところが、パニスと友人らは後ろ手に手錠を掛けられ、逮捕された。なぜか。公共の場でビールを飲むという「違反」を犯したからだ。
「麻薬との戦いが、酔っ払いとの戦いと化している」。釈放されてから数日後、パニスは苦々しげにそう話した。