それを希望と名づけよう──クラシコム 青木耕平

2018/8/1
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「独立して家族を養えるくらいかせげたらいいな」などと、ひくい志で起業した。
 もともと僕は面倒くさがりな上に悲観的で、この世界は基本的に理不尽で、残酷なものであるなどと思っている人間である。
 さらに質が悪いのが、すぐに「どうせ」と先回りして飽きてしまうことだ。
 どれぐらいお金を持とうが、どれぐらい有名になろうが、たぶん女優さんと付き合ったとしても、なんならそっちのほうが大変だし、死ぬほど美味しいと思っていたものを、しょっちゅう食べるようになれば、それにも慣れてしまう(に違いない)。
 そんな風にすべてを先取っては、「結局、すべては大したことない」「ああ、もう大体予想ついたから、嫌になっちゃったな」とうんざりしていた。
 そんな僕でも「ちょっとはましになったりするんじゃないの?」というスタンスに踏みとどまれているのは、不思議なもので、会社のお陰だ。
 クラシコムが創業5年の2011年、年商が1億円を超えた。しかし売上や社員の暮らしのことを考えると気が重く、なんで僕は起業なんてしたんだろうと悩んだ。
 というのも、その時点の収益構造では、このまま年商が10億になっても借金が増えて、途中下車できなくなるだけだと気づいたからだ。それなら今すぐやめてしまいたい、と思ったこともあった。
 そうして、そのときに初めて、大事なのは「今」じゃないということがわかった。
 例えば今、1000万円持っていても、「この先1円も入ってこないかもしれない」と思ったら、絶望的な気持ちになるし、今100円しか持っていなくても、「来年1000万円入ってくるんだよな」と思っていたら明るい気持ちになる。
 つまり、今いくら持っているかとか、今恵まれているとか、今幸せか、っていうのは、1ミリも重要じゃない。大事なのはこれから先に「希望」が持てるかという、この一点だと気づいたのだ。
 でもその明るい見込みを、景気やよそのプラットフォームに依存していたら、いつ揺らぐかわからない。信じ込もうとしたら、希望は歪んでしまう。健全に希望を感じられる状況を、確信するには、希望の裏付けを自家発電しないといけないと、僕は考えた。
 じゃあその希望の源泉って何なんだということをさらに考えていくと、それは明確に「新しい選択肢」のことだった。だって今希望がないと思っているということは、「既存の選択肢」のどれを選んでも駄目だと予感しているからである。
 個人的にも「ああ、そっか」と救われる瞬間を思い浮かべれば、それは「そういう手があったか」「そういう生き方があったか」と気づく瞬間だった。
 例えば身分制度で将来がガチガチに決まっていた時代に、「なんか平民でもここまでは行けるらしい」という社会に変わったとか。今まではがっつりコネ社会だったんだけど、「勉強していい学校に行けば、みんなにチャンスがある」みたいな社会になったことは、すごく希望のあることだったのだ。
 今だって社会はどんどんよくなっている。働き方改革や、LGBTQ 、#metoo運動みたいなことが出てきて、社会のマイノリティや弱い立場にあった人達の自由が尊重されてきている。これって、50年前と比べた時、もう革命的な感じだと思うのだ。
 それでもまだ、絶望はまとわりついている。結局、競争の何位になっても大したことない。上はたかが知れている上に、下はどん底だなという気分が蔓延している。
 今これだけ社会が豊かになって、自由になっているのに、みんなが絶望しているのは、たぶん「新しい選択肢」が増える速度が落ちているからだと思う。
 要するに既存のものを壊しさえすれば生み出せる、みたいな段階が徐々に終わり、一人ひとりの生活や価値観にフィットする選択肢が枯渇しかけている。
 それはゆるやかな絶望だ。
 
 話を戻そう。
 僕は起業して事業が軌道にのり、にわかな成功の陰で、ふたたび絶望に囚われそうになったとき、はたと気づいた。会社というのは、まことによくできている仕組みだなと。
 営利法人は、民主国家において実はあるレベルで独立した「社会」を作りやすい枠組みなのだ。社会全体を変えようというほど、途方も無いことは諦めるより仕方ないが、会社という枠組みの中でなら、希望のある世界を創ることができるのかもしれない。
 お客さんと社員に「新しい選択肢」や「フィットする選択肢」を生み出し続けられれば、そこには希望があるんじゃないか。これはやり甲斐がある。なんならあまりにテーマが壮大で、一生かけても飽きずにいられる挑戦だぞと気づいたのである。
 かくして、僕は事業を通じて成し遂げたいことを、「希望の裏付けを増やすことに貢献したい。」という動機から、「フィットする暮らし、つくろう。」というミッションにすることに決めた。
 そしてそのミッションを達成するためのビジョンとして、「自由」「平和」「希望」を獲得することを会社のビジョンとして掲げたのだ。
 他社に支配されない「自由」を獲得する力。他社との無益な競争に巻き込まれない「平和」を維持する力。そして、今日より明日、今年より来年が良くなって行くだろうと無理なく思える、しっかりとした裏付けある「希望」を生み出す力である。
 今、このコラム的なるものを語るにあたって、改めて問われた。「自由」「平和」「希望」のうち、1個しか選べないとするなら、どれか。
 それはやはり、希望が一番大事だと思う。
 なぜなら、今自由でなくて、今平和じゃないとしても、「この先、絶対よくなる」と希望が抱けるなら、そっちのほうが圧倒的にいいからだ。
 だから、最後に何か一つ残すとしたら、僕は断然、希望だなと思っているのである。
 
青木耕平(あおき・こうへい)
『北欧、暮らしの道具店』(hokuohkurashi.com)運営会社(株)クラシコム代表。
(イラスト:西川真以子 構成:中島洋一)
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