UXの極地・上海で描くエクスペリエンスデザインの未来とは?

2018/7/31
 いま中国は、巨大プラットフォームの革新をはじめとした「After Digital」(以下、A.D.)という世界的な変曲点に突入している。
 北京・上海などの都市部では、スマホの普及率が97%に達し、店舗から屋台、タクシーやシェアバイクまで、あらゆるサービスがモバイル決済で完結。「30分配送」のスーパー、無人コンビニ、無人レストランなど、Amazonを凌駕する多様かつ高度なサービスが、続々と生まれ続けている。 
 2015年には、Alipayを提供するアリババが『ジーマクレジットスコア』による個人の社会信用度を可視化するサービスを提供し始めた。
 デジタルとリアルを融和させた消費体験は、「OMO(Online Merges Offline)」という中国発となる新しい単語を生み、デジタルトランスフォーメーション(既存のモノのデジタルへの置換)を遥かに超えた次元の社会変革が起きている。
 その変化を「After Digital」という概念でとらえることができる。
「『After Digital』に突入する本当の意味は、単にリアルで起きている物事を効率化・利便化するということではない。デジタル空間とリアル空間との主従の逆転であり、それに伴う世界のルールの根本的な変化である」
「デジタルサービスの本質とは、徹底した顧客中心主義であり、ひいては人間中心に向かっていかねばならない」
 そんな「After Digital」の到来を唱えるのは、UXの極地・上海で、多数の中国企業を顧客にコンサルティングサービスを提供しているビービットだ。
 2000年に創業し、「長期顧客志向」を軸に国内で大手企業を中心にエクスペリエンスデザインにおけるコンサルティング業務を拡大。2012 年に台北オフィスを開設し、2013 年には上海へ。
 昨年は、台湾国内で傑出した企業やアントレプレナーを表彰する「金峰賞」を台湾オフィスと東アジア統括責任者が受賞。中華圏においてもデジタルマーケティング支援サービスを提供し、数々の実績を上げている。
 海外進出の当初、日本で培った方法論を東アジアに輸出しようとした同社だが、今や中国の巨大プラットフォームの裏側で活躍する希少なコンサルティング会社として、そこで得られた知見を、いわば“置き去り”にされた日本に還元しようとしている。
  A.D.以降の社会とビジネスが今後どう遷り変わっていくのか、ビービット代表取締役CEOの遠藤直紀氏と、COOの中島克彦氏の二人に話を訊いた。
 尚、今ビービットは大きな変革期にあり、日本でもグローバルで関係なく活躍できる多様な人材を求めている。遠藤氏の言によれば、「 地球儀をくるくる回しながら、 道なき道を歩み、あるいは道そのものを作りたい人を求む」とのこと。AfterDigital以降の世界を共に作りたいと志す人は是非、確認されたい。
リアルとデジタルの関係は逆になる
横浜国立大学経営学部卒業後、株式会社富士銀行入行。法人融資などに従事した後、ビービット設立に参加。ビービットの事業全体の統括責任者を経て、 2012年7月より台北オフィス(微拓份股有限公司)の代表に就任。2013年、上海オフィス(倍比拓管理諮詢(上海)有限公司)の代表に就任。東アジアマーケットを開拓。2017年、beBit UCD Ventures, Inc. CEOに就任。現在、日本、台湾、上海、米国の全事業部の統括責任者として指揮を執る。
──ビービットが中国本土に進出した当初、中国はどのような状況でしたか?
 我々が上海に進出した当時は、Xiaomi(シャオミ)のスマホが爆発的に普及する最中です。中国市場がいきなりスマホ時代に突入したタイミングで、日本で培った「エクスペリエンスデザイン」、つまりUXを中心にしたコンサルティング業務を行っていました。
──中国の変化はそんなに激しかったのでしょうか。
 スマホの普及であらゆるものが変わりました。何もなかったからこそ、すんなりとスマホが持つポテンシャルを引き出せたんだと思います。今や中国では、デジタルサービスがあらゆる生活の基本になって、リアルはデジタルを補ったりお膳立てしたりするという主従が逆転した関係です。
──逆転した関係ですか。
 そうです。彼らにとってデジタルがリアルの延長線上にあるのでなく、その逆、スマホを介したデジタルの延長線上にリアルがあるんです。そうなると見える世界がまるで違ってきます。あらゆる組織の標語やサービスの主語が変わってくるんです。
 これは何も中国だけの話ではありません。エストニアや北欧、アメリカの一部を端緒に世界規模で起きつつあります。もはやこの流れは不可避であり、「After Digital」というべき、人類史に残る大きな転換点だと我々は捉えています。
今や医療インフラになったおばけアプリ
──中国の苛烈なA.D.化の中枢で、コンサルティング業務をされてきたわけですが、どういった業種の顧客が多いのでしょう。
 もともと金融分野に強かったので、銀行や保険、そして自動車、さらにベネッセ様の中国版「こどもチャレンジ」のコンサルティングなどを行っていました。手前味噌ですが、我々は変化が著しい中国市場で生き残れた、数少ない日系コンサルティングファームの一つなんですよ。
──顧客である日本の企業には、どのようにA.D.の変化を説明するのですか。
 日本のクライアントの経営陣に一番“ウケる”お話をしましょう。中国平安(ピンアン)保険グループの組織改革が大成功した事例です。
──ピンアンは、今や時価総額が17.9 兆円で、世界ランキングで50位圏内にも入る金融コングロマリットですね。
 もともと普通の保険会社だった中国平安保険ですが、当時から大手戦略コンサルティングファームの最重要クライアントの一つでした。
 ちなみにいま、中国の大企業の幹部やスタートアップの人達って、スタンフォードのMBA取ってたりとか、アメリカのGoogleでバイスプレジデントやってました、みたいな人がゴロゴロいるんです。
 彼らのような人が、故郷の中国のほうがマーケットが大きいということで戻ってきて、ピンアンにUX専門の40名ほどのチームができました。そこからさらに、ベンチャー企業のCXOやシリコンバレーのUXデザイナー経験者を雇って、瞬く間に200名ほどのチームになった。
──それでUXが発達した。
 違うんです。なかなかうまくいかなかった。それでこれは構造的な問題だと気づいて組織改革をしました。
 もともと「保険」「銀行」「投資」の各事業部の他にフィンテック部門があって、さらに横断してテクノロジー部門があって、その中にUXのチームがあったんです。
 それが“「After Digital」では、とにかく顧客体験が一番重要である”ことに気づいて、UXデザイナーを各事業部門のトップかサブトップに据えました。
 そしてもうひとつ重要なポイントは、ボードメンバーで半年に一度やっていた「ブランド会議」を廃止。“ピンアンブランドはこうあるべきだ”というのをやめて、“これからのブランドとはすなわちCX(カスタマーエクスペリエンス)である”としたんです。つまり、組織の一番上にくるCEOを含む取締役会がCX委員会になった。
──組織が具体的にどう変わるべきかが見てとれますね。A.D.においてブランドという概念はなくなるのでしょうか。
 これまでの時代に多かったブランドポリシーは、会社が主語で『我が社は、高品質の商品主義を貫き通します』といったものでした。
 しかしCX概念は、『お客様が、高品質の商品を通じて、このような体験をする』という、主語が顧客目線のコンセプトを打ち出すものになるんですよ。
──結果、ピンアンはどうなったのですか。
 具体的な話からしましょう。たとえば「平安好医生(ピンアンハオイーシャン)」という医療アプリ。現在、2億ユーザもいるんですよ。中国全土で約1万3千人の医師がこのアプリのプラットフォームに載っています。彼らの研究内容や卒業大学や受賞歴も掲載されていて、ユーザからも評価されるので、一定以上の「評価」があるお医者さんなら信頼できるというわけです。
 しかも、無料のチャット形式でお医者さんに直接質問ができる。ユーザが「こういう症状なんですけど……」と聞いたら、「それはこうしたらいいよ」と年中無休でお医者さんが返事してくれるんです。
中国平安保険の医療アプリ「平安好医生(ピンアンハオイーシャン)」
 ──それはとても便利ですね。
 それ以上に便利なのが、待ち時間がなくなったということです。中国で病気になったら、変な注射を打たれるかもしれないから怖くて適当な病院に行けないんですよ。その結果、みんな総合病院や大学病院のような大型の病院に集中するんですね。「整理券7日待ち」なんてことさえ起こっていたんです。
──そんな状況がこのアプリで一変した?
 予約の時間が来たら、特に整理券も持たずにお医者さんに行って携帯を見せるだけです。お会計もWeChatPayで支払われるし、薬の処方箋もデジタルで届くので、一切並ぶ必要がなくなった。もはやアプリというか医療インフラになっているんです。自分が困ったまさにその瞬間に助けてくれるので、中国の人たちは「私はピンアンが好きなんです」なんて言う。
 たとえば病気の相談をすると、コールセンターから電話がきます。
「アプリで相談がありましたが、大丈夫ですか?」
「昨日から頭痛がするのですが風邪でもひいたのかなと思って……。明日病院に行こうと思うんです」
「そうですよね、予約入っていますよね。ご家族3人いて、まだ下の子ちっちゃくなかったですか? 診察の間、だいじょうぶですか?」
「いや、そうなのよ。でも今回はしょうがないから、学校から1人で帰らせるしかないかな……」
「わかりました、よければうちの営業マンを行かせましょうか。アテンドさせますよ」
「えっ、たすかる」
というようなやりとりで、子どもの送り迎えを手伝ってくれたりするんですよ。
──それはすごいですね。
 これはピンアンの事業サイド、たとえば営業側では、アプリを通じて顧客の情報や行動を追えているので、よいタイミングで適したメッセージや提案を伝えられるようになった、ということです。
 非常にA.D.的で、デジタルを主軸にしたモデルですよね。日本ではどうしても、営業マンの属人的な感覚に頼っているのが現状なので。
 今お話したのは医療アプリの具体例ですが、ピンアンはCX委員会やUX部門を組織として再編する中で、A.D.以降の顧客体験が中心となる時代では、保険というサービスでは顧客との接点がほとんど作れないので勝ち残れない、ということを見抜いたんです。
 そこで、彼らは保険だけでなく、医療、移動、住居といった生活圏のデジタルサービスを作ることで、顧客接点を増やした生活インフラを提供しました。
 結果『私の生活を安心で健康なものにしてくれる会社』というCX概念を実現しているわけですね。
 そうなると利用者は、「もう全部ピンアンにしよう!」となって、保険だけじゃなく他の金融商品なども全部ピンアンになっていく。そうしたほうが“ピンアンポイント”も貯まっていきますしね。
 こうしてピンアンは、初の金融コングロマリット化の成功事例と言われるまでになったというわけです。
現実世界がソーシャルゲームのようになる?
──A.D.化する世界で、UXの改善を徹底していくと、サービスやビジネスモデルそのものが変わっていくんですね。
「バリューチェーン型」から「バリュージャーニー型」へのビジネスモデルの転換と我々は言っています。
 これまでのビジネスモデルは、「とにかくモノを作って売る」という、プロダクト駆動で製品を販売マーケティングのプロセスに落とし込む「バリューチェーン型」でした。これでは単発での顧客体験で終わってしまう。
 これがスマホでのタッチポイントが無数にあるA.D.では、顧客体験がいいからその「体験のついでにプロダクトを買う」というモデルに変わります。
──A.D.化し、バリュージャーニー志向に向かう中国において、ビービットは具体的にどのようなコンサルティングやサービスを行ってきたのですか。
 ビービットは2000年の創業以来、様々なレイヤーでのエクスペリエンスデザインを18年間やってきました。そして、この業務を支援する「ユーザグラム」というSaaSも開発しています。
「ユーザグラム」はいわば“UX業務プラットフォーム”です。スマホやPCなどのデジタルデバイスはもちろん、コールセンターやリアル店舗などのリアルチャネルでの顧客行動を、横断的かつ詳細に見ることができるツールです。
 たとえばAさんは先月たくさん買ってくれたけど、どのタイミングで来て、どう買ってくれたのか、一人一人のつながった行動を観察できるわけです。
──点で見ていたものを線で見るようなイメージ。
 そうです。我々の強みはこれを用いて、まずはターゲットの仮説を立て、プロトタイプを作り、それをユーザにぶつけて反応を観察し、そして仮説を作り変えるというやり方にあります。こうしてチューニングしていくと、すごく良いものができるんですよ。
 日本だとアプリのソーシャルゲームのチューニングに近いと思います。ソーシャルゲームは、まずゲームの世界にオンボードしたら、そこでユーザにゲームを楽しんでもらって、要所要所で「こんな便利な道具あるけどどう?」とアイテム課金していきますよね。それら課金アイテムが、ピンアンのアプリでは保険商品になっている。
 ただここからが違います。そこで得られたデータを、「課金量をいかに上げるか」に使うのではなく、「より良い体験の改善」に使うんです。
 そうすると顧客が離れず、またデータが溜まっていきます。そうしてタッチポイントの吸着度が上がれば上がるほどキャッシュポイントが設計されているので、勝手に儲かっていくというモデルなんです。
──どんどんデータが溜まっていった先は、一体どうなっていくのでしょうか?
 ただのデータトラッキング、UX改善というレベルではなく、バリュージャーニーを構築していった先には、小さくても自然と社会システムのようなエコシステムが構築されます。さらにその先には理念のようなものが問われる。
 まだまだいくらでも事例やA.D.の醍醐味は語れますが、これだけ変化が進むと、どんな社会が来るのかすこし不安になりませんか?
 ここから来たるべき理念、未来の話は、CEOの遠藤にバトンタッチしましょう。
「After Digital」のインパクトは産業革命にも等しい
1974年生まれ。横浜国立大学経営学部卒業。 アメリカへの留学を通じてインターネットに興味を持つようになり、ソフトウェア開発会社に入社。その後アンダーセン コンサルティング(現・アクセンチュア)を経て、2000年3月ビービットを設立。 著書に『売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門』『ユーザ中心ウェブサイト戦略』などがある。
──A.D.における、徹底した顧客中心主義は、スマホによって顧客の行動を徹底してトラッキングできるからこそ実現できるわけですが、それと同時に、たとえば監視やコントロール、暴走すれば悪用もできるということですよね?
 おっしゃる通りです。私は「After Digital」のインパクトは、大げさかもしれませんが、産業革命と同じレベルのもの、それぐらいに捉えたほうがいいと考えています。
 産業革命がプラスにもマイナスにも社会に影響を与えたように、プラットフォームやビッグデータも使い方一つでどっちにでも転んでしまいます。それをカラフルで豊かな世の中の実現に使えるかどうかは我々次第。だからこそ、このテクノロジーでどういう社会を描いていきたいのかを今から強く意識していかないと、と思っています。
──ビービットの「ユーザ中心主義、長期顧客志向、他者への貢献」というビジョンは近年のA.D.化に伴ってのお考えですか。
 いえ、これは創業当初から変わらない考えです。といっても実は我々はもともとネットバブルの頃、インターネットで、なんかいいサービスできるはずだよね、といった軽い気持ちからスタートしました。今から18年以上前、つまりビービットを始める前夜ですね。
 10人以上の仲間を集めて会社を立ち上げたもののうまくいかずに、仲間は散り散りになりました。僕を含め残った4人のうち3人がコンサルティング出身で、中島だけ銀行出身だったんですけど。
 その時に行き詰まって、いろんな企業の創業記を読み漁りました。すると、あることに気づきました。ユニリーバもフォードもダイエーも、ほとんどの会社は“社会的課題を解くために”経営していると書いてあったんですね。
 ユニリーバは子どもの衛生問題、フォード自動車は誰にでも買える車、そしてダイエーは、創業者の中内功さんが第二次大戦のフィリピン戦線で飢餓に陥った経験から、「日本中どこに行っても、安心して食料が手に入る時代を作る」ことを使命にしていると書いてあり、その多くが貧困問題の解決だったんです。
──なるほど、大きな企業はソレに見合った大きな社会課題と向き合っていた。
 世の中にモノがないから、とにかく作って供給するということが必要とされていたんですね。今、それら社会的課題はだいぶ解決されたのですが、モノを作って売るという形だけが残り続けています。
 もはやモノさえあればいい時代ではない。一方で、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に勤めていた時に、一つだけ強烈に違和感をおぼえたことがありました。「コンピュータ使えない奴、馬鹿だよね」みたいな考えです。
──なるほど。
 当時、何もなかったところから、システムが幅を利かせ始めた時代で、道具と人間の立場が主従逆転し始めたと思ったんですよね。本来、道具は人の役に立つために作られたのに、変だぞと。
 そこで、ビービットは、認知心理学などをベースにユーザ体験を研究してコンサルティングサービスを始めました。その頃から、どんどんIT化していくこれからの100年は、もう一回ベーシックに戻って、「人間中心主義」を考える時代なんだと思ったんですね。
ビービットの創業の理念

人間の心理や行動特性を探求することで、真に役に立つ高品質な製品やサービスを創出し、豊かな社会の実現に貢献する

──先見の明があったわけですね。
 ありがとうございます。でも、我々は18年間ベンチャーをやってきて、未だスタートアップだと思っています。まだまだ成長して世界を変えられる。
 これを言ったら怒られるのかもしれないんですが……、以前、孫正義さんの後継者を育成する「ソフトバンクアカデミア」に入学した際に、「豆腐屋ビジネス」という言葉を聞きまして……。
──豆腐屋ビジネス?
 はい。“丁”と“兆”をかけて、1兆円、2兆円レベルでビジネスを考える、というマインドを表現しているのですが、お金だけで物事を考えていいのかなと……。
──おお。
 それよりも我々は「人間中心主義」に基づいて、1兆個の笑顔を生み出すために頑張るほうがいい。
 もちろん、最初からそう思えたわけじゃないんですが、頑張ってビジネスを続けていくうちに、やはりそこに戻ってくるんです。
 いろんなお客さんがいましたから、「解約率を下げるために、解約ステップを複雑化して分かりにくくしよう」とか「コールセンターの負荷を下げるために、電話番号をWebサイト上の見つけづらい場所に配置したい」といったようなことを要求されたこともありました。
──人間理解の悪用!
 そんなことは、ビービットもやりたくないですし、実は、お客様と話してもやりたくてやっているわけじゃないんですよね。本心から騙したいと思っている人なんて全然いらっしゃらなくて。やりたくないけど、仕事だからしょうがないからやってる。
 だとすれば、その仕事の形って間違っていますよね。仕事が人間中心じゃない。お客さんも働いている人もハッピーではないし、経営者だって短期的には収奪できたとしても、長期的にはお客さんは逃げていくのでハッピーにはなりません。
 それぞれが利益を出すために収奪し合うような社会よりも、やっぱりきちんとお互いが支え合えるハッピーな社会にしたいなと。
──それが理想ですね。
 理想ですよね。でも、やり方がわからないなっていう中で、いろいろなアプローチを試してきて気づいたのは、A.D.化の流れに乗って解くのが、一番解きやすそうだっていうことなんですね。
──なるほど。社会課題がビジネスで解ける。つながりますね。
 そうです。たとえば世界の時価総額ランキングトップ10って見ると、投資家のウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイ以外、Apple、マイクロソフト、Facebook、Amazon、Google、テンセント、アリババなど、ほとんどIT企業。じゃあ2位のAmazonがどんなミッションで経営されているかっていうと、「すべての業界の顧客志向の水準を高める」というのが彼らのミッションです。
 サブスクリプション型のサービスは、中島の話したバリュージャーニー型と同じ考え方で、生活の中で常に使い続けることを前提にします。するとどうしたって顧客中心主義、体験中心主義にならざるを得ない。さらにA.D.によって顧客体験のオンラインデータ化が加速し、あらゆるサービスが顧客の接点になっていきます。
 A.D.化に先駆けて日本企業をバリュージャーニー型にアップデートする、これがビービットの直近の使命だと思っています。
──最後に、いま日本企業のアップデートに足りないものとは何だとお考えですか?
 いや、日本企業に足りないものなんて、実はないんだと思いますよ。人材もお金も十分にあるし、有望な市場も近隣諸国にたくさんあります。
 視点転換ができていないだけなんです。従来のモノベースから、体験ベースになった世界に適応さえできれば、日本企業には、中国や北米の企業がやっていることのほとんどを実現するポテンシャルはあると思っています。その転換のサポートが我々の使命なんです。
──実は日本にはチャンスが溢れているんですね。
 はい、やれることがたくさんあります。そして自社さえ良ければいいという収奪のサイクルを、何かを与えるという方向へ転換させなければなりません。
 非常に困難な課題ですが、「After Digital」という新しい視点に興味を持ってくださる方は、ぜひ我々と一緒に挑戦してほしいですね。
(編集:中島洋一 執筆:木下拓海 撮影:吉澤健太 ヘアメイク:宮坂和典 デザイン:九喜洋介)