“ビットコイン・ジーザス”が語る「希望としての暗号通貨」 

2018/7/28
※本記事はNewsPicksからスピンオフ創刊する無料のタブロイド誌『HOPE by NewsPicks』の巻頭コンテンツです。7/30の配布開始に先立ち、カバーインタビューを全文お届けします。
 「ビットコイン・ジーザス」と呼ばれる人物がいる。その名はロジャー・バー。世界ではじめてビットコイン関連のスタートアップに多額の投資を行った人物として知られ、暗号通貨の黎明期から世界中で啓蒙活動を行ってきた。現在もBitcoin.comのCEOとして大きなプレゼンスを発揮している。

 そんなロジャー氏が2017年10月にTwitter上で「ビットコインキャッシュこそが真のビットコインである」と発言したことは、世界中で大きな話題を集めた。ビットコインに象徴される暗号通貨は世界にどのような“希望”をもたらす可能性を秘めているのか。ロジャー氏に聞いた。
「暗号通貨が生活の中で当たり前に使われるようになる」
あなたはビットコインの黎明期からいち早く可能性を見出し、その普及のために世界中で啓蒙活動をされています。そこまで情熱を傾けてこられた理由は何なのでしょうか。
ロジャー ビットコインのことを初めて知ったとき、大きな可能性を感じたことを覚えています。私は若い頃から経済について学び、ビジネスもしていましたが、ビットコインが通貨のように使われるようになれば、これまでよりも経済の効率性がはるかに高まると確信したんです。
  経済が効率的になるということは、世界中の人々の生活水準が向上することを意味します。現在、私はビットコインキャッシュ(BCH)が世界を変革する可能性を感じ、「これは希望の武器になる」という思いから活動を続けています。
法定通貨を前提とした既存の経済システムは、どのような問題を抱えているとお考えですか。
 昨今は、世界各国の政府が量的緩和として通貨(円やドルなど)を積極的に供給していますが、これが行き過ぎると極端なインフレを招き、法定通貨の財産価値を下げていく可能性は否定できません。
 こうした状況の中で、お金持ちは投資手段を駆使して利益を獲得することもできますが、そうした手段を持たない人々はますます貧しくなってしまう。政府という、自分ではない他者の意思決定によって、このような状況が作り出されてしまうわけです。
 暗号通貨のなかった時代には、こうした状況を受け入れざるを得ませんでしたが、これからは変わるかもしれません。もしインフレが起きたとしても、法定通貨を暗号通貨に変えて保有しておけば損害を回避することができるからです。
 もっとも、そのためには暗号通貨が法定通貨のように生活の中で当たり前に使われるようになる必要があるでしょうが、いずれユースケースが増えていけば、暗号通貨が法定通貨に代わる役割をもつことも可能になると思っています。
ロジャー・バー(Roger Ver)。1979年生まれ。Bitcoin.com CEO。シリコンバレーのエンジェル投資家として黎明期からビットコインを支援し、地道な普及活動を続けてきたことで有名。リバタリアンであり、暗号通貨を「経済的自由権を促進する手段」としている。現在は、ビットコイン(BTC)の高額すぎる手数料などの問題を解決するために分裂(ハードフォーク)した「ビットコインキャッシュ(BCH)」を支援している。2018年、米FORTUNE誌が選ぶ「The Ledger 40 under 40(40歳以下で影響力のある40人)」に選出。
──暗号通貨は、中心となる管理者が存在しない非中央集権型である点に特徴があります。通貨でありながら、政府や中央銀行の管理を離れる意義について、教えてください。
 自分の財産は自分のもの。そうですよね? ですから、私は個人の財産に政府などの第三者が介入する必要は本来ないと考えています。ところが、現状のシステムはそうはなっていません。たとえば税金という形で、国家に個人の財産の一部が否応無しに徴収されています。
 その結果、国家が強大な“パワー”を持ってしまっている。それも過剰なほどに。もちろん、国家が担うべき役割があることは否定しませんが、必要最低限で十分なのです。
 なぜなら、国家が持つパワーが引き起こしている問題が確実にあるからです。代表的なものは戦争でしょう。もしも個人がそれぞれの財産の使い道をすべて自らの意思で決められるのであれば、兵器が作られ、戦争に人々が駆り出されるといった事態は起きないはずです。
 国家がなくとも経済は存在できます。でも国家は経済なくして存在できない。そう考えると、ある意味で国家は経済に寄生していると考えることもできます。私たちは、自らのパワーを国家に奪われている。この視点は重要です。
 ただ、今は国家と経済が相互に入り組んでおり、問題を複雑にしています。ですから、かつて、「政教分離」が進んだことで政治と宗教が分離されたように、経済も分離されるべきです。そのためには、政府の支配を受けない暗号通貨が普及し、経済が自由に向けて進む必要があるでしょう。
通貨の本質的な役割は、「交換手段」「価値の尺度」そして「価値の保存」の3つであるとされる。こうした役割を持つ法定通貨を中央銀行が発行し、政府がコントロールして今日の経済システムが構築されているが、ロジャー氏はこうした経済システムのあり方に疑問を投げかける。
「社会全体の豊かさを上げることに力を使うべき」
──富裕層の1%とその他99%の人々の経済格差も問題とされています。暗号通貨はこうした状況を壊す鍵になりますか。
 たしかに、たとえば発展途上国に暮らす人々の保有資産をビル・ゲイツ氏と比較すると、まったく違うでしょう。しかし、私は同時代に生きる人の間で起きている経済格差については、実はそれほど重要視していません。
 なぜなら、現代において貧困とされる人々でも、たとえば100年前のお金持ちと比べても豊かな生活を送っている場合が多いからです。当然のようにスマートフォンやテレビ、パソコンを使っており、歴史を遡ればどんなお金持ちでも触れることのできなかったテクノロジーを利用していますよね。
 私は、格差に注目するより、むしろ社会全体の豊かさを上げることに力を使うべきだと考えています。経済市場はゼロサムゲームではありませんからね。そのためには、自由な交易によるフェアな経済成長が必要です。
──世界レベルで経済の自由化を目指すには、暗号通貨が世界通貨となる必要があると考えられますが、それは実現できるのでしょうか。
 現状では、BCHで支払いをして取引先が円建で受け取れる仕組みはすでにありますし、世界中で10万を超えるウェブサイトでBCH決済が可能となっています。数ある暗号通貨の中でも通貨として利用される可能性がもっとも高いのは、やはりBCHだと考えています。
 とはいえ、世界的に見ても暗号通貨を使う人はいまだ10パーセントに満たない状況であり、BCHの交換だけで生活できるようになるのはまだ先でしょう。
 ただ、すでに暗号通貨だけで生活をしている人も出てきており、たとえばカナダの実業家のカルヴィン・エアー氏は、ビジネスだけでなく普段の買い物もすべて暗号通貨で決済しています。徐々にこうした事例は増えていくでしょう。
「暗号通貨を利用したビジネスにはチャンスがある
──ただ、暗号通貨が利用される機会が増えているとはいえ、「詐欺」や「投機商品」といったネガティブなイメージを持っている人は多くいます。
 まあ、悪いニュースほど売れますからね。私の会社では社員の給料の支払いから、すべての商取引まであらゆる決済をBCHで行なっていますが、そういうことは残念ながらニュースになりません。
 でも、たしかに信じられないような高額の手数料を取っているケースはありますし、おっしゃる通り詐欺や投機目当てで暗号通貨が利用されている事実もあります。
 ですから、「なんだか面白そう」とか「有名人が推薦している」といった表面的な情報で判断するのではなく、実用性や将来性を考慮して暗号通貨を選択すべきだと思います。とにかくおかしな暗号通貨には手を出さないことです。
──話は変わりますが、昨今の日本では、「若者はお金を持っていない」と言われており、社会の活力が失われている原因とも考えられていますが、暗号通貨はこうした問題を解決する力にもなってくれるのでしょうか。
 そうですね、若い人が暗号通貨によって豊かになれる可能性はあると思います。これは、暗号通貨による投機で利益を儲けるということではなく、あくまでも通貨としての役割からです。
 たとえば若い人が暗号通貨を利用できるビジネスを生み出し、事業が成長することで豊かになれるといったことは起こるでしょう。
ロジャー氏をはじめとした有志によって運営されている「bitcoin.jp」(htps://www.bitcoin.jp/)
 また、暗号通貨はビジネスの資金調達の機会も広げてくれます。私は、企業などが暗号通貨を発行して資金調達をする「ICO」に大きな可能性を感じていますが、このように暗号通貨を利用したビジネスにはチャンスがあると思いますね。
「大切なのは、自らの意思で選んでいるかどうか」
──現状の経済システムでは人々のパワーが国家に奪われているとお話されていましたが、暗号通貨が普及し人々が力を取り戻すと、どういった変化が起きるのでしょうか。
 「自分のことを自分で決める」ということが、今よりも当たり前になると思います。文化や国籍なども関係なく、ビジネスなどをコラボする相手や、自分が属するグループも自由に決められる世界。国家など、他者によって決められた枠組みに合わせる必要はありません。
 これは、「自分さえ良ければいい」というネガティブな意味での個人主義ではなく、「やりたければやる、やりたくなければやらない」というシンプルなものです。社会貢献をしたければすればいいですし、他に興味のあることがあれば、そこにお金を使えばいい。本来こうしたことは人に決めてもらうことはではなく、個々人で意思決定すべきものですから。
 ただ、誤解しないでいただきたいのは、私は集団を否定しているわけではないということです。たとえば現在Bitcoin.comでは多くの人が働いていますが、彼らは自分が会社のメンバーであることに誇りをもっています。そういう集団への帰属意識はなくならないと思いますね。とにかく大切なのは、自らの意思で選んでいるかどうかなんです。
 そういう意味では、私がBCHの普及によって目指しているのは「任意行動主義の世界」と言ったほうが正しいかもしれません。自らの意思に基づいて行動すればいいですし、そうした世界にBCHは相応しいと思います。
 暗号通貨を使うかどうかも、もちろん個人で判断すればいいことです。ただ、そこに社会をアップデートする希望を感じるのであれば、私は「ようこそ!」と言いたいですね。
(聞き手:呉琢磨 構成:小林義崇 撮影:飯本貴子 デザイン:九喜洋介)

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