テクノロジーを駆使して「攻め」る。ストライプのデジタル戦略

2018/7/25
アパレル業界全体が不振にあえぐ中、「斜陽産業にこそ芽がある」と、スマホ上での洋服レンタルサービスや、食やライフスタイル分野への事業拡大と、ストライプインターナショナルはテクノロジーを駆使した「攻め」の姿勢を続けてきた。
なかでも、「STRIPE DEPARTMENT」等、既存のアパレル事業にデジタル面でのテコ入れを行うことでビジネスの可能性を広げるのは、ストライプの「特技」のひとつ。「デジタル」の側面から、ストライプの成長、その裏側に迫る。(全4回連載)
※所属やポジションは掲載当時のものです
アパレルは提案型マーケティングの最前線
ストライプインターナショナルでグローバルファッションEC本部長を務める佐藤満氏は、前職で日本の最大手ECサイトのデジタルマーケティングを担当していた。その佐藤氏にとって、ストライプの魅力とは何だったのか。
「“斜陽産業”と言われながらも、アパレルは必需品で、国内マーケットだけでも9兆円規模。市場がないわけではありません。前職でもECの売り上げの中の大きなカテゴリーでした。
そして、他業種では家電のECならここ、食品のECならここ、と誰もが思い浮かべるような圧倒的勝者はいませんが、アパレルECだけはZOZOTOWNが絶対王者として君臨している。裏を返せば、アパレルECは企業の工夫次第で、ほかの業種以上に成長させられるのではないかと思ったのです」(佐藤氏)
家電のような型番商品であれば、ユーザーの判断基準は価格なので1円でも安い店が選ばれる。
しかしアパレルは、デザインはもちろんのこと、サイズのレコメンド、シーンの提案など、価格以外の要素が大きい。そのぶん、デジタルマーケティングでチャレンジできる余地もあると佐藤氏は考えた。
「転職を考えていた頃、ストライプがアパレルからライフスタイル&テクノロジーに事業ドメインを切り替えていこうとしていることがわかりました。ここなら、ほかのアパレルを選ぶ以上に、面白い体験ができるかもしれない。入社の決定打はそこですね」(佐藤氏)
テクノロジーで「あなた専用の百貨店」を作る
2017年の入社後、佐藤氏はまずSTRIPE DEPARTMENTのCOOに就任した。そもそも、どのようにしてソフトバンクとの合弁会社であるSTRIPE DEPARTMENTの実現にこぎ着けたのか。
「単なるアパレル企業ではなく、テクノロジー企業として、しっかりとしたサービスを作っていくのだという思いに共感してもらえたからでしょうね。『テクノロジー業界中心に投資をしてきたソフトバンクが、アパレルと?』という意外性でも話題になりました。
結果的にSTRIPE DEPARTMENTの実現は、ストライプインターナショナルが『テクノロジーに注力していく』という世間に対する意志表示にもなったと思います」(佐藤氏)
STRIPE DEPARTMENTは今年2月にオープン。初年度取扱高は16億円、3年後には100億円を目指す
デジタルマーケティングの精度を向上させるためには、精度の高いデータが欠かせない。
今年2月にスタートしたECサイト「STRIPE DEPARTMENT」では、ソフトバンクの持つユーザーデータも存分に活用され、これまでアパレルECの対象からこぼれ落ちていた「百貨店品質を求める」「大人の女性」が順調にサイトを訪れている。
「ターゲットには確実に届いているので、さらにサイトを洗練させるため『2週間程度データを集め、次の1週間で分析と改良を行う』というPDCAをすでに6回ほど回しています。
まだまだ改良点は尽きませんが、現時点での大きな収穫として、一般的なファッションECと比べて、ダントツの顧客単価を実現できています」(佐藤氏)
有名モデルやスタイリストによるファッション誌さながらのコンテンツも充実。つい長居してしまうサイト設計になっている
「STRIPE DEPARTMENT」は、試着サービスやパーソナルスタイリングなどIT、AIを駆使したサービスを盛り込みながらも、サイト内ではテクノロジーを前面に押し出していない。これもマーケティングの一環だ。
「サイトに知らない言葉があれば、それだけでECに対して苦手意識がある人に避けられてしまいます。だから、裏で優れた技術が支えているとしても、それを感じさせずに使ってもらうことのほうが重要です。
サービスを通じて、データをためながら、人間が対応しているのと遜色ないレベルを目指す。最終目標は、『STRIPE DEPARTMENT』を訪れた瞬間に、その人専用の(好み、サイズ、価格感の)店になる状態ですね」(佐藤氏)
たった30分で決まったsmarbyとのM&A
最初のうちは低価格帯から始めて、徐々に単価を上げていくという戦略は、ECモールでは非常に困難だ。似たような商品があれば、より安いほうを買おうという心理が働くし、全体に高価格帯の商品が増えれば「ほかのもっと安いサイトに移ろう」と客離れを招いてしまう。
「『STRIPE DEPARTMENT』が、モール型のファッションECでも高い顧客単価を作れると証明しつつあることは、グループ会社としてはた目で見ていても、非常にポジティブな事実です」
そう話すのは、2016年10月にストライプインターナショナルのグループ会社となったsmarbyの遠藤崇史社長だ。
smarbyの資金調達のため、外部のVCやシナジーを生みそうな事業会社を探していたとき出会ったのがストライプだった。遠藤氏にとって、あくまで候補の一つだったストライプだが、初対面で石川社長と意気投合した。
「事業計画やもっと遠い将来に向けた話をしていると、私と石川さんの考え方がとても近いことがわかったんです。それで、30分ほどで『一緒にやろう』ということになりました。
事業を拡大させていくために、いつも様々な可能性を考えていましたが、自分自身でもこんなスピードで決めることがあるとは想像もしていませんでした。同席した人もみんなびっくりしていましたね(笑)」(遠藤氏)
ストライプのグループに入ったことで、これまでsmarby単体では取引できなかったような大手ブランドともつながりができたという。取り扱いブランドはこの1年半で200ほど増え、売り上げは倍以上に伸びた。
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そんなわかりやすいシナジーに加え、石川社長と話す機会が増えたことも大きな資産だと遠藤氏は語る。
「石川さんからは学ぶことがたくさんあります。経営者としてどうあるべきか、どう考えるべきか。数字への強いこだわり。あるいは、従業員とどう接するべきか。石川さんは、1対1でも、1対多でも、どう伝えるのが最適なのかを考えてからメッセージを発している。その点は特に見習いたいですね」
ゼロから事業を立ち上げる場合を除けば、従業員の自主性を重んじるのも石川社長の特徴だが、それはグループ会社となって以降のsmarbyも同様だ。
「ストライプから『既存のこういうシステムを使って』と言われるのではなく、自前で開発させてもらえる。さらに、人を任せてもらえて、自前のエンジニアチームを作れて、人材が育つような環境が整えられている。これはありがたいですね。
信じて任せてもらえるから、今でもスタートアップらしい開発ができています」(遠藤氏)
人的な交流も面白い作用を生み出す可能性がある。smarbyでスタートアップのプロダクトの作り方やマーケティングを経験し、STRIPE DEPARTMENTで、より大きなことに挑戦する。あるいは、STRIPE DEPARTMENTで得たデジタルマーケティングの知識を、傘下の企業にも展開する。
会社のフェーズやその人の適性に合わせて必要な人材や手法が行き来すれば、様々なイノベーションが起こる土壌が育つだろう。
「smarby自身はまだまだ小さい組織であり、だからこそ試しやすいこともたくさんある。新しい事業をどんどん生み出しながら、ストライプインターナショナルのグループ全体に刺激を与えられるような存在でありたいと思っています」(遠藤氏)
デジタルの力で世界で一番楽しい買い物体験を
一方で、ストライプインターナショナル本体とsmarbyの「データ」と「コンテンツ」の連携はどんどん進んでいる。
「傘下に入ったことで、絶対に知ることがなかったようなデータを見られるのは刺激的ですね。アパレル企業でありながら、モールECのデータを細かく知っている企業は、日本にほとんど存在しません。
全年代の新品、中古、シェアリング、アパレルを網羅するデータが集まり、それがシステムでつながったとき、今までにない新しいものが生まれるだろうし、その価値は計り知れないでしょう」(遠藤氏)
子どもと大人の中古・レンタルのデータが十分に集まれば、全世代のアパレルをストライプがカバーできるようになる
たとえば現在、年齢の変化とともに「そろそろこういう服はどうですか」と適したショップやブランドに送客するような仕組みづくりが検討されている。
それが完全に仕組み化されれば、服の嗜好が変わったとしても、ストライプ以外に“浮気”されることがない。さらに、購入している服から子どもがいるとわかれば、smarbyでキッズの服をあわせて買ってもらうことも可能になる。
「すでに自社内でもデータ活用が進んでいますが、それが『STRIPE DEPARTMENT』内のブランドなど外部の人もマーケティングに活用できるとなれば、大きな衝撃です。もちろん、慎重に扱う必要がありますが」(遠藤氏)
「ストライプのデジタルマーケティングへの取り組みは、ファッションの楽しさを再認識させる」と佐藤氏は話す。
「ファッションは必需品であると同時に『楽しむ』という側面もありますから、自分に合ったものをどんどん薦めてもらえるサービスができあがれば、必ず喜ばれるはずです。
現場に責任と権限があるストライプでは、デジタル系の技術者も驚くほどPDCAのサイクルが早い。私たちが目指すサービスも、そう遠くない未来に開発されるはずです。
デジタル領域に関しては、ストライプはまだベンチャーなので、人材は常に必要な状態です。自分で事業を作り上げるぐらいのマインドがある人なら、かなり刺激的な仕事ができるはず。そんな人たちと、世界で一番楽しい買い物体験を作りたいですね」(佐藤氏)
(執筆:唐仁原俊博 編集:大高志帆 撮影:露木聡子 デザイン:九喜洋介)