過密日程の高校野球へ3つの提案と、千葉県高野連の「約束」

2018/7/19
全く想像していなかったわけではない。
だが、県の事情を説明する千葉県高校野球連盟の石丸仁之専務理事の話を聞いて、頭を支配したのは絶望感だった。
昨年12月、本連載において、桐蔭横浜大の千葉貴央投手を取り上げた。
甲子園で最も残酷な事件。野球界の大罪と、唯一の救い
千葉投手は木更津総合高校2年生だったとき、甲子園に出場し、2回戦の西脇工業戦で右肩の痛みが限界点に達し全力投球をすることができなかった。
千葉投手がその際に投げた山なりのボールは、高校球児の嘆きを主張するかのようなもので、2013年夏の甲子園を震撼(しんかん)させた一つの事件として記憶されている。
しかし、千葉県高校野球連盟・石丸専務理事にこの一件を尋ねると、「千葉君の投球のことは知っていますが、それを踏まえて『日程を見直そう』とか『検証しよう』というような議論は連盟として行っていない」という素っ気ない回答だったのだ。
高校球児の身に起こった出来事は当事者のモノでしかない――。
そうした高野連の見方に絶望感しか浮かばなかった。

千葉は全国きっての過密日程

そもそも千葉県高校野球連盟を取材しようと思ったのは、いまもケガに苦悩する千葉投手が「県大会の日程について考え直してほしい」と意見をしてくれていたため、甲子園大会ではなく、地方大会について考え直そうとしたためである。
現在は桐蔭横浜大学でプレーする千葉投手(写真:中島大輔)
筆者は昨夏の甲子園に出場したチームの勝ち上がりをもとに、全国各地区の大会がどのように日程を組んでいるのかを調べた。
全国の夏の地方大会を大別すると、決勝戦から逆算して8日間で5試合、8日間で4試合、8日間で3試合を行う地区に分かれていた。さらに、日程に連戦が組み込まれていない地区、準決勝・決勝のみが連戦になる地区、準決勝・決勝を含めて2度の連戦がある地区、という特色も出ていた(※南北の北海道大会はともに6日間で4試合)。
もちろん、雨天順延などによって連戦が回避されたイレギュラーなものは差し引いての分析だが、関東地区で唯一、8日間で5試合を行ったうえ、その中に2度の連戦を組み込んでいるのが千葉県だ。今年は100回記念大会による出場校増の恩恵を受けて東西分かれての開催のため、連戦はないが、例年はほぼ同じ出場校数の兵庫県よりきつい日程を組んでいるのである。
千葉県はなぜ、これほどの過密日程を課しているのか。そして、なぜ改善できないのか。
その理由を明らかにするために、千葉県高校野球連盟を訪れた。

ZOZOマリンが「最適解」

まず、現在の夏の千葉大会の日程について、石丸専務理事はどういう認識でいるのかを尋ねた。
「過密日程であると思います。3回戦の後に調整日を設けたりして、できるだけ(余裕のある)日程を取ってあげたいんですけど、そういうわけにもいかない。過密という認識はありますけど、これ以上は変えられないというのが連盟の考えです」
現状の日程以外、考慮の余地がない――。
言い換えるとそう聞こえたが、石丸専務理事がそのように語る理由は大きく3つある。
・千葉ロッテが本拠地とするZOZOマリンスタジアムを使用するため、開催できる日程が限られる
・各高校の学期末試験との兼ね合いで、開会式を7月11日以前に前倒しできない
・優勝校決定から甲子園大会開幕までに、代表校が練習にあてる日数を確保したいため、日程を延ばせない
下2つはおおよそ見当が付く説明だろう。
問題は1つ目だ。
千葉県は大会を開催する会場として、県内の11球場を使用している。千葉ロッテマリーンズの本拠地であるZOZOマリンスタジアム(以下マリンスタジアム)と千葉県野球場(以下、県野球場)をメイン会場に、ゼットエーボールパーク、柏の葉公園球場などだ。
なかでも様々な条件をクリアし、千葉大会に「最適解」をもたらしているのがマリンスタジアムである。
石丸専務理事はこう説明する。
「マリンスタジアムは選手たちにとって目標となる場所でもあるので、そこで試合をすることを目指して勝ち上がっていこうとなっていると思います。それに加えてマリンスタジアム以外の球場ですと、近隣にご迷惑を掛けたりするんです。例えば、スタンドのキャパや駐車場の問題、また高校野球は応援もしますので、近隣住民への騒音もある。運営サイドとしては、マリンスタジアムであれば余分なところに気をまわさなくて済むので非常にありがたいんです」
千葉県高野連の事務所で取材に応じた石丸専務理事(写真:中島大輔)
2015年夏の千葉大会決勝戦の習志野―専大松戸が行われた際、観客があふれ、入場制限を行う事態が起きたことがある。
それほど昨今の高校野球人気は底が知れず、それにまつわる様々な問題が起こっている。
例えば、試合会場付近に駐車場スペースがないと、高校野球ファンやチームを応援する観客が平然と路上駐車をして近隣住民の迷惑になるのだ。吹奏楽の応援などによる騒音を含め、高校野球はただ開催すればいいというわけにはいかない。
高校球児にとって夢を抱ける舞台であること、観客収容数、駐車場などの設備などを含めて考慮すると、マリンスタジアムに依存したくなるというわけだ。
しかし、マリンスタジアムでの開催には日程上の限界がある。千葉ロッテがプロ野球のペナントレースで使用するからだ。普段の平日はガラガラなスタジアムも、夏休み期間となると、多くの観客を見込める。
石丸専務理事はそこに頭を悩ませるという。
「NPB(日本野球機構)さんと日程の調整のお願いをさせていただくときに、『開会式はこの辺で考えています、準決勝・決勝はこの辺で終わるようにしたい。(他にも)空けてほしい』という話をします。しかし、実際、7月末にはプロ野球のナイターが入ってきます。以前までは7月でも空けてくれていたことはありましたが、(近年マリンスタジアムを使用するのは)前半は開会式だけで、後半が早くて5回戦からとなることが多くなっています」
プロ野球の公式戦は通常3連戦で行われるため、千葉大会の決勝から逆算してマリンスタジアムを使用できるうちに日程を消化しようと考えれば、スケジュールに無理が出てくるのは至極当然だろう。マリンスタジアム開催にこだわるあまり、日程に余裕を持たせることができなくなっている印象である。
もっとも、千葉県高校野球連盟の言い分を全く理解できないわけではない。
ただ、どうしても釈然としないのは、千葉投手の一件を全く意に介さず、これまで進められてきた日程が「すべて」だと決めつけてしまっていることである。

選手は二の次、運営ファースト

高校生を過密日程から少しでも守るため、我々は3つの提案をしてみた。
(1)東、西東京大会のように、プロ野球開催日に併用開催
(2)マリンスタジアム以外を使用する
(3)連投を課す監督への指導
具体的な提案を投げかけると、石丸専務理事は千葉県高野連の事情をこう説明した。
「ロッテさんからプロと併用開催を提案いただくんですけど、なかなか難しい。併用開催の場合、その日1日だけの開催なら良いのですが、何日も重なるとつらい部分がある。というのも、ナイターをやるために、一度準備したすべてを元の状態に戻さないといけない」
「そして翌日、朝早く来て、また最初からセットしないといけなくなります。今年からタイブレークが導入されましたから、試合時間が読める部分はありますが、(具体的に)どれだけ時間が必要なのかも分からない。それらを考えて、併用開催は極力避けたいんです」
提案の2つ目は、上記に挙げたスタンドのキャパや設備の問題をクリアできる会場として、収容人数2万7000人の県野球場で代替できる。だが、ここでも石丸専務理事は首を縦に振らない。
「県野球場は高校野球だけを開催するわけではなく、中学校の県大会などが7月の終わりに入ってきます。県野球場以外では決勝戦をやれるだけのスタンドのキャパ、駐車場の確保が難しいです。そう考えるとマリンスタジアムを使っていかないといけない」
では3つ目はどうか。
この提案を行った際、千葉投手の故障について「木更津総合への注意はしたのか」も併せて聞いた。「教育上は許されないプレー、つまり悪質なタックルやサイン伝達などを注意するのと同じように、健康を害する起用の是非を問わないのか」と質問したが、答えはNOだった。
(写真:中島大輔)
はっきり書かせてもらうが、いまの高校野球の指導者すべてに、連投を回避する投手起用を望むのはほとんど不可能だ。実際、木更津総合の五島卓道監督は、千葉投手ののちも地方大会でエース依存の起用をしている。
2016年夏の甲子園出場時は、2度の連戦(5回戦と準々決勝、準決勝と決勝)でエースの早川隆久を先発完投させ、昨年もエースの山下輝が2度の連戦(コールド勝ち含む)で先発完投して甲子園に導いているのだ。
こうした事例を鑑みれば、千葉県高校野球連盟には運営サイドの観点ばかりで、選手の健康面を気遣っているようには全く感じることができない。
甲子園で千葉投手のあの投球を起こした県であり、「日程が過密である」と認識しているにもかかわらず、当事者意識がないのは残念でならない。

高校野球は誰のものか

だが、それでも千葉県高校野球連盟に期待したいのは、今回の取材を受け入れてくれたこととともに、石丸専務理事が取材の最後に変革の約束をしてくれたからだ。
「ご指摘いただいて、お恥ずかしい話、連盟としては『千葉県の日程はこれでやるしかないんだ』と頭が固まっていたのかもしれません。連盟全体に投げかけて、連戦がなくなっていく形でやる努力をしていかないといけないと思いました。子どもたちが好きな野球を続けていけるように、将来の芽を我々がつんでしまわないように、考えていかなければいけない」
千葉県のような激戦区が一つ変われば、全国へのメッセージになるだろう。
ただ、今回のことで千葉県高校野球連盟が明らかにしたのは、野球界における当事者意識の欠如に他ならない。
だから、最後にいいたい。
高校野球に関わる連盟や指導者はもちろん、NPBなどのプロ野球の球団、プロ野球選手会、野球関係に関わる方々、高校野球を報じるメディア、そして、高校野球を愛するファンの方々へ――。
高校球児の身に起こった出来事は当事者のモノでしかないのでしょうか。
高校球児の健康面についてもっとみんなが真剣に考えませんか。
(バナー写真:岡沢克郎/アフロ)