【入山章栄×林千晶】経営がデザインを求めだした理由

2018/7/14
経営に「デザイン」の思想・思考法を取り込もうとする動きに注目が集まっている。デザインとは製品・サービスだけを扱うものだとする従来の考えから、大きく飛躍するものだ。これを「デザイン経営」と呼ぶ人もいる。「デザイン経営」は、デザイン視点を経営の意思決定の最上流に組み込むことが必須と説く。

経営とデザイン、経営者とデザイナー。この掛け合わせが、なぜ未来の扉を開く鍵となるのか? 経営学者・入山章栄氏と株式会社ロフトワーク代表・林千晶氏に話を聞いた。
──なぜ、デザインが経営に必要なのか?
林 今、ビジネスとソリューションの流れが根本的に変化しているからだと思います。
たとえば、「移動」というニーズのソリューションを考えたとき、これまでは航空機業界、自動車業界、自転車業界といった住み分けがあり、各業界がそれぞれの範囲内でのインベンション(発明)やイノベーションに邁進してきたわけです。
入山 よくわかります。従来はあくまで業界の枠内に収まった、漸進的なイノベーションだった、ということですね。
 はい。だから、企業が新しいものを生み出すときも、まずはR&D(研究開発)が重視されて、デザインは下流にあり、ある種のプロモーションとして捉えられていた。
けれど、IT技術の進化により世界中がネットワーク化されることで、米国にUberが、東南アジアにバイクシェアリングのGo-Jekが、中国には巨大な自転車シェアリングのプラットフォームMobikeが出てきて、様々な業界の垣根を越えて、移動手段が急速に拡張している。
こうなると、「移動」に対するソリューションが「では、まず車を買いましょう」という解に留まらなくなります。
消費者の側から見ると、「様々な手段が混在する中で、どの組み合わせで移動すればいいの?」という疑問が浮かび上がるわけで、そこに対するソリューションを考えるには、市場の視点から離れて「人が移動するときに、何に喜び、何に不満を感じているのか?」と、本質を問う視点が不可欠になる。
つまり、企業が意思決定をする際に、まず市場や業界ありきではなく、「“人”に根ざしたフレキシブルな思考」が必要になる。それがデザインであり、常に人が使った瞬間のインパクトを考えているのがデザイナーだと、私は思うんです。この意味で、デザインは根本的なイノベーションにも寄与するファクターになったのだと考えています。