「食べるサプリ」の赤身肉。医師が実践する正しい食べ方とは

2018/6/29
糖質制限を行いながら良質なタンパク質をしっかり摂取する「ケトジェニックダイエット(肉食ダイエット)」で知られる、日本の機能性医学の第一人者であるドクター斎藤。近年は亜鉛などのミネラルや不飽和脂肪酸(オメガ3系脂肪酸)を豊富に含む牧草牛の普及にも尽力しているドクター斎藤に、ビジネスパーソンのための「赤身肉健康法」を伺った。

人間は本来、肉食だった

私は今年、45歳を迎えますが、最適なパフォーマンスを発揮するために普段から心がけていることがいくつかあります。
まず一番重要なのは、食事です。健康を保つには「栄養バランス」が大切。中でも、食事から取れる栄養素で最も大切なのがタンパク質です。
人間のカラダは大部分がタンパク質でできています。タンパク質は最大20種類の必須アミノ酸から構成され、このうちひとつでも欠けるといけません。
(写真:Rimma_Bondarenko/iStock)
しかし、この中には、人間のカラダで合成も貯蔵もできないアミノも9種類あります。これらは、食べ物から摂取するしかないのです。
タンパク質は、主に肉、魚介類、大豆、乳製品から取ることができます。もともと人間は約250万年前から肉食で生きてきました。
農耕を始めたのが約1万年前。主食として穀物を食べるようになったのは数百年前に過ぎないのです。
我々には肉食のDNAがそなわっています。本来肉食の人間にとって、肉はカラダのシステムにマッチした良質なタンパク源といえるでしょう。

ドーパミン生成にも「赤身肉」

肉の中でも、もっともおすすめしたいのが「赤身肉」です。
赤身肉とは牛の筋肉のこと。我々が筋肉を動かしたり、新陳代謝をするのに必要な栄養素がセットになっています。タンパク質、鉄、亜鉛がバランスよく含まれていることから、「食べるサプリ」とも呼ばれています。
タンパク質はもちろんのこと、血液の成分となる鉄を吸収するのにも赤身肉が最適なのです。やる気や喜怒哀楽をつかさどるドーパミンの生成にも、鉄は欠かせません。
女性に多い貧血ですが、実は男性にも貧血はあります。強いストレスを感じると、アドレナリンなどの神経伝達物質を大量に消費して鉄不足に。
激しいワークアウトの後も鉄が足りなくなり、貧血状態となります。
しかし、足りなくなった鉄分を単体で補おうとしても、鉄過剰の状態となり活性酸素を発生させることになってしまうのです。
体内で適切に鉄を利用するには、タンパク質、亜鉛と一緒に摂取することが大切。赤身肉にはその3つの成分がそろっているので、自然と体内に一緒に取り入れることができるのです。
安全かつおいしい牧草牛を斎藤氏が医師の観点から提供する日本初の牧草牛専門精肉店「Saito Farm 麻布十番」(写真:SAITO FARM)

理想的な脂肪酸バランスの牧草肉

赤身肉の中でも、私がおすすめするのが「牧草肉」です。
最強のバターコーヒーに使われる「グラスフェッドバター」が有名ですが、牛には、牧草を食べて育つ「牧草牛(グラスフェッドビーフ)」と、多くの和牛のように穀物を食べて育つ「穀物飼育牛(グレインフェッドビーフ)」があります。
この2種類の肉は、脂肪酸のバランスが大きく違います。牧草牛には、穀物牛には含まれない牧草由来の「オメガ3脂肪酸」が豊富。
オメガ3脂肪酸は血液サラサラ効果のほか、抗炎症作用に注目が集まる栄養素。
オメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸が1:1と、理想的なバランスなのです。このため、牧草牛を食べ続けたとしても、人間の体内の脂肪酸のバランスが崩れることはありません。
北海道八雲町の北里大学獣医学部附属フィールドサイエンスセンター「八雲牧場」で斎藤氏がやっと巡り合えた国産牧草牛。輸入穀物飼料を一切使わずに地元の牧草100%で飼育した、日本短角種(日本在来種)および日本短角種とサレール種(フランス原産)の交雑種だ。(写真:SAITO FARM)
よく「青魚はカラダによい」といわれますが、それは青魚のエサが海中の植物性プランクトンだから。
植物性プランクトンには、動物には合成できないオメガ3脂肪酸が豊富なのです。同様に、牧草にもオメガ3脂肪酸が含まれており、それを食べる牧草牛は「陸(おか)のお魚」といえます。
赤身肉のおいしい食べ方としては、肉が硬くなりすぎないレアで焼くのがおすすめです。
食べる量は、1日300グラムが目安。これだけ食べると、厚生労働省が推奨する1日60グラムのタンパク質が摂取できます。
ただし、タンパク質が吸収されやすいのは、1食あたり20グラム(肉換算で100グラム)まで。300グラムの肉を1回100グラムずつ、1日3回に分けて食べるのがベストです。

糖質ダイエット中なら肉の量を3割増しで

炭水化物を制限する糖質制限ダイエットをしている人も、多いかもしれません。注意しなくてはいけないのが、「糖質制限だけ」ダイエットにならないようにすることです。
糖質を取りすぎていた人が、糖質を制限すると面白いようにやせられます。しかし、糖質をカットするだけというのは、間違ったダイエットです。
カラダは、足りなくなった糖質を筋肉などのタンパク質から作ろうとして、タンパク質不足になってしまうからです。
糖質を制限することは決して悪いことではなく、カラダへのメリットのほうが多いもの。糖質制限だけして、タンパク質不足になるのが危険なのです。
糖質制限をしながら上手にやせるには、タンパク質をしっかり取ることが重要です。
目安として、通常より3割増しの1日400グラムの肉を食べることを心がけましょう。こうすることで筋肉を落とすことなく、ダイエットのリバウンド予防にもなります。
ただし、赤身肉には食物繊維は含まれていないので、食物繊維が豊富な野菜、海藻、ふすまなどを食べることが必要です。
食物繊維をエサとする腸内菌のバランスを整えて、腸内フローラをケアすること。それが健康なビジネスコンディションを保つ秘訣となります。

栄養バランスを整えるサプリは必須

食事から取る栄養素として赤身肉を挙げましたが、食事からは十分取れない栄養素もあります。それらを補うには、サプリを利用することがベストです。
例えば、ビタミンB6と亜鉛。どちらもタンパク質を体の中で利用するのに必須の栄養素です。
ビタミンB6は肝臓の解毒、脳の神経伝達物質生成などの役割があり、お酒を飲むビジネスパーソンは積極的に取りたい栄養素。
1日60ミリグラムが至適量ですが、食事から十分摂取するのは現実的に不可能です。亜鉛も同様で、1日に必要な至適量は30ミリグラム。生ガキでいうと200グラム(10個前後)にも相当します。
これまで食事法や栄養バランスについてお話ししてきましたが、健康なカラダをキープするにはやはり適度な運動も重要です。
とはいえ、ふだん運動不足な人が、疲れている時に無理して運動するのは逆効果。
多少無理をしてでもカラダを動かしたほうがいいと考えている人も少なくありませんが、運動によって気分はリフレッシュできても、カラダには負担がかかっているのです。
特に「睡眠時間を削ってまで運動する」なんていうのは、もってのほか。私はカラダの調子がいいときしか、運動をしないようにしています。
(構成:工藤千秋 編集:奈良岡崇子 バナーデザイン:九喜洋介)