「山田孝之バスト測定」の舞台裏。SNS時代の広告モデルとは

2018/6/28
“カメレオン俳優”の異名を持つ山田孝之がジョインし話題を呼んだミーアンドスターズ。影響力を持つ“スター”のプレミアムな時間をライブオークションで販売する、ライブコマースサービスを手がけている。同社の代表取締役CEOであり、トランスコスモス取締役上席常務執行役員兼CMOでもある佐藤俊介氏に、「スター×ネット×マーケティング」の進化系について聞いた。
ライブで売るのは「スターの時間」
──トランスコスモスのイノベーションを指揮する佐藤さんが、なぜミーアンドスターズ(以下、ミースタ)を立ち上げたのか。そのきっかけを教えてください。
佐藤 トランスコスモスの強みは企業のバックサイドとフロンドサイドを一貫してサポートできる点です。なかでもデジタルマーケティング、EC、コンタクトセンターのソリューションをワンストップでtoB向けに提供する「DEC(デック)」は大きな差別化を図れています。
 このDECをtoC向けに展開したら面白いと考えたのがミースタ創業のきっかけです。toC向けに転換するにあたり、動画のライブ配信と買い物が連動するライブコマースに目を付けました。
──ビジネスモデルはどのようにできあがったのでしょうか。
 実は最初のコンセプトは、メタップスの「タイムバンク」のように“時間を売る”だったのですが、誰のどんな時間をどう売るかを考えると、やはり“企画”が必須だな、と。
 あとデジタルマーケティングというとネット中心で考えてしまいますが、toCへの訴求でテレビの影響力はまだまだ強いです。ネット上で作った話題をテレビで取り上げてもらい、その興味関心を再びネットに戻すモデルを想定していましたから、その意味でもテレビで活躍するスターの存在は欠かせませんでした。
 こうして「スターのプレミアムな時間をライブネットオークションで売る」という大枠が固まりました。落札者としてのターゲットは個人だけでなく、企業にも定めることにしました。
 山田孝之のジョインは、知人に紹介してもらったのがきっかけです。「こんなビジネスを考えている」という話をしたら、適任は彼しかいないと。
 それから実際に会って話をするなかで、俳優という枠にとらわれないチャレンジを求めている山田の思想に共鳴し、取締役CIO(Chief Innovation Officer:最高イノベーション責任者)として経営に深く入ってもらうことにしました。
「バスト測定」が2700万円
──そして第1弾の企画が「山田孝之の1日受付」になった。初回のターゲットを企業にしたのはなぜですか。
 初めての事例ですし、ある程度話題になる金額で落札してほしかったんです。そこで「受付」をコンセプトにしましたが、オークション時点では、企画はほぼ白紙状態でした。
 結果的にわずか40分で、2700万円超という高額で落札されたので、何としても落札価格以上の広告効果を生む企画を立てなければと気合が入りましたね。
 スターとして出演した山田孝之本人もそう感じていました。これは大きいことですよね。だってスター本人がやる気になることって最近の広告のスキームでは少ないですから。
 落札者は健康・美容関連の商品を扱う会社でした。人気商品の一つがブラジャーだったので、山田孝之の1日「バスト」受付、つまり山田がお客様のバストを測定し、その方に合ったサイズと色のブラを提案する企画を考えました。
オークションで権利を落札した企業の商品を用いて、山田孝之氏の「バスト測定」企画が実施された
当日は300人のお客様のバストを測って395個のブラを販売し、イベント売り上げは136万9600円を記録しています。これは全額ピンクリボン運動へ寄付されました。
──PR効果が重視されたと思いますが、反響はいかがでしたか。
 実は直接的な売り上げもすごい効果がありました。このイベント開催を告知してからスポンサーの商品の売り上げは1.5倍、そしてイベント直後には2倍に膨れ上がり、1カ月経った今でもイベント前より1.6倍の水準の売り上げで推移していると報告を受けています。すでに落札金額をはるかに上回る利益貢献ができました。
 またPR効果としても企画の予告・発表時点からオークション当日、バスト測定の企画発表時、イベント当日までずっと右肩上がりの反響で、総記事掲載・メディア露出数は400件を超え、総Twitter関連投稿件数は6万6000件以上。
  落札者の商品名やコンテンツだけでなく、「山田孝之」の検索もかなりの数に上りました。実際先方のイメージも大きく変わったそうで、採用にも影響しているみたいです。
 また、多くのテレビ番組でも関心を持っていただきました。広告費換算では落札額2700万円をはるかに上回る数値が出て、落札者からは直接・間接効果ともに大変喜んでいただきました。
広告の原点「コンテンツファースト」
──テレビ番組で同じ企画をやろうとしても、ここまでスポットでお金がついて、話題になることはないと思います。ミースタが成功したのはなぜでしょうか。
 「スポンサーファースト」ではなく、「コンテンツファースト」だからだと思っています。
 スターとの企画立案、SNSでの共同告知、スポンサー探し、企画発表、企画実施、企画の動画配信までのミースタならではのストーリーがある。また、オークションというエッセンスによって企画がどう転ぶかわからないリアルタイムな面白さもある。これらが理由だと思います。
 スポンサーファーストは、視聴者からすればやっぱり「やらせ」に見えるんですよね。当然スター本人の希望や嗜好(しこう)より商品優先で宣伝させるわけですから。「売れっ子タレントが紹介するその商品、本当にその人使ってるのかなぁ?」という広告は多いですよね。
 あと競合商品のモザイク処理なども含めて、今のガラス張りなネット文化との違和感は大きいと思います。そこに切り込むビジネスモデルを打ち立てようとしているのがミースタの独自性であり、僕らも挑戦しているところです。
 僕らがやっているのは、いわば「広告の原点」に立ち返ること。もうネット社会でフェイクはタブーです。スターが本来好きなことや挑戦したいこと、そこにスポンサーが付くのがもっとも無理のない広告の形だと思っています。
 ミースタはスターとゼロから企画を考えるから、ある意味スポンサーから見れば自由度が低いかもしれない。でもやっぱりネット社会の広告は、スターと企画ありきで、そこにスポンサーが付く、というテレビCMとはベクトルが逆のほうが良いと感じています。
──なるほど。スターや所属事務所の反応はどうでしたか。
 まず金銭的な面からいえば、1回の企画に対して、テレビ番組への出演料などに比べて、はるかに多くのリターンを分配できています。
 タレント事務所というのは、いわばベンチャーキャピタルみたいなもの。資本を投資してスターというアセットを育ててきた人たちです。
 そのアセットでリターンを得なければビジネスが成り立たない。新しいビジネスモデルが出てくればリターンを得る場が増えますから、ミースタの存在は彼らにとっても必ずメリットになると考えています。
──スター本人のメリットはいかがですか。
 例えば、テレビに比べてラジオは制約が少ないから、タレントはいろいろな「顔」を見せることができる、と言われます。ミースタはスターのためのプラットフォームですから、押し付けるような企画や、スポンサーからのイメージの制約がないので、より本人の「顔」を見せることができます。
 今はYouTuberとかVtuberとか、いろいろな形で有名人が出てくる時代ですから、スターの価値は今後どうしてもダイリューションします。その中で生き残るためには顔がいい、歌がうまいだけではダメで、常に飽きられないようにスターも挑戦し続けなければならない。
 その新しい発信場所の一つにミースタを使ってほしいと思います。ファンにとってはスターのいろいろな顔を見られるから喜ばれるし、スターにとってはイメージコントロールがしやすく、“新境地”の開拓ができる場所になってもらえたらと思っています。
コンテンツを核にビジネスを広げる
──第2弾として、瀬戸内寂聴さんの企画も始まりました。
 寂聴さんの企画に対しては、静岡県浜松市の菓子メーカーがスポンサーとして手を挙げてくれました。これは新たな発見でしたが、全国には儲かっているローカルクライアントがたくさんあり、そうした中に、スターと一緒に大きな企画をやってみたいというチャレンジングな企業が多々あるんです。
 ローカルとスターはこれまで遠い存在でしたが、ミースタならその距離を縮められる。ローカルクライアントはナショナルクライアントより柔軟ですから、自由度の高いミースタの企画もはまりやすいですね。
ミースタ第2弾企画として実施されたオークション「瀬戸内寂聴と8人のインフルエンサー」
──今後の事業展開をどうお考えですか。
 現状のビジネスモデルを僕らは「スポンサーモデル」と呼んでいますが、これはまだまだ伸びしろがあります。今後はスターを軸にした企画ばかりでなく、スターの卵を育てる企画が生まれる可能性もあるでしょうね。
 また、山田のバスト測定企画はドキュメンタリーで「プレミアム体験動画」として現在ミースタのアプリで絶賛配信中です。今後もスターとの企画を動画コンテンツとして制作・配信していきます。これはある意味Netflixのようなオリジナルコンテンツビジネスです。
 僕らはコンテンツも作るし、一部メディアの役割も持っている。その独自コンテンツを他のメディアに売ることもできる。自分たちのコンテンツをいかに持てるか、それを使ってどんなビジネスモデルを作れるか、それが今後の成長のポイントになります。
 時代が変われば今までのやり方は通用しなくなります。ビジネスモデルは絶えず磨かなければなりません。
──第1弾の企画が成功したことで、トランスコスモスに影響はありましたか。
 第1弾を落札した会社とは、トランスコスモスの既存のバックオフィスサービスを導入する話が出ています。
 また、ミースタに「バズる企画を作り出すグロースハッカー集団」というイメージがつけば、他の仕事も頼んでみたくなるでしょうし、内容によってはトランスコスモスに話が振られることも普通にあり得る。すでに既存のお客様から多くのお問い合わせも頂いていますよ。
 ミースタ単体の事業を追求するだけでなく、トランスコスモスとのシナジーが生まれるビジネスモデルを構築することも意識しています。
エンタメ業界に切り込める「賢者」求む
──現状のミースタの体制はどうなっていますか。
 TGC(東京ガールズコレクション)を立ち上げたゼイヴェルの創業メンバーである小寺達也が、プロのインフルエンサーで芸能担当という立ち位置の取締役で入っています。
 そしてスターの開拓やチェックをする取締役CIOの山田孝之。さらに、以前から彼と組んで仕事をしてきた放送作家の竹村武司がミースタの企画を統括しています。
 今年5月には、オリンピック金メダリストでプロスイマーの北島康介が執行役員CSO(Chief Sports Officer:最高スポーツ責任者)としてジョインしました。国内外のアスリートを巻き込んで面白い企画を実現したいと張り切ってくれています。
ミースタの創業メンバー。左から小寺達也氏、佐藤俊介氏、山田孝之氏、竹村武司氏
 ビジネスモデルの核はできてきましたし、このプロジェクトを各界に広げてくれるスター、インフルエンサー、企画のプロはそろった。いまのミースタに足りないのは「賢者」みたいな人です。
──「賢者」ですか。詳しく教えてください。
 攻めれて守れて賢い人というか。なかなかいないですけど(笑)、ビジネスモデルをブラッシュアップして1から10にしていけるような人です。
 私は「スターのプレミアムな時間をライブコマースで売る」というゼロイチを立ち上げましたが、ネットビジネスはとにかく生もので劣化も早いですから、常に時代にマッチしたビジネスモデルを磨き続ける必要があります。
 事業を回しながらそのモデルの可能性を見極め、効果を検証し、結果を基により強靭なものにしていく。私と一緒にビジネスを推進していける人、クリエイターも統率して組織を整備し、営業まで見られる経営者が欲しいです。
 ミースタが目指しているのは、エンタメ業界と広告業界にイノベーションを起こすことです。
 たとえば、テレビ業界では地上波放送からネット放送局へのシフトが始まっていますが、メディアという「物流」のプレーヤーが代わっただけで、中身であるソフト(コンテンツ)はそのままです。僕らはそのソフトに切り込もうとしています。
 エンターテインメントの主流だったスターとデジタルメディアはこれまで遠い存在でしたが、ミースタならアナログとデジタルを融合できる。既存のメディアとは全く異なるところからスターにアクセスし、配信ルートまで作りたい。
 そのためには、この革新的なエンターテインメントを成り立たせるビジネスモデルと、それを回していく“イケてるCOO”のような攻めも守りも備えた賢者が不可欠であり、一緒に成長できる人材を求めています。
 ミースタの世界観に共感できる人、イノベーションを起こそうというモチベーションのある若い人と、ぜひ一緒に仕事をしていきたいですね。
(編集:呉琢磨 構成:横山瑠美 撮影:岡村大輔 デザイン:砂田優花)