【徹底解説】「つまらない、辞めたい…」組織課題と解決策

2018/6/27
組織には規模が拡大するにつれて、さまざまな問題が生じる。
・他部署が何をしているか知らない
・与えられた仕事以外はしない
・モチベーションが下がっている
など、心当たりのある人もいるだろう。

そもそも、こうした事象はなぜ起こるのか。今回は500人規模を超えた組織に生まれる問題とその解決策について「組織は変われるか―経営トップから始まる組織開発」の著者で、大企業を中心にエグゼクティブ・コーチングなど組織開発の実績を多数持つ加藤雅則氏に、組織に問題が生まれるメカニズムとその解決策を聞いた。
加藤 まず、500人規模の組織をイメージしやすくするために、小学校に置き換えて考えてみます。
たとえば、30人×3クラス×6学年の全校生徒は540人。校長先生の立場になって考えたとき、この全校生徒の顔と名前が一致し、さらに個性までわかるかと聞かれたら、自信がありません。
これが、各2クラスで全校生徒が360人だったら、もう少しイメージできるのではないでしょうか。
人間には、個人が認知できる視野は限られていて、イギリスの人類学者ロビン・ダンバーは、人間が安定的な社会関係を維持できるとされる人数の認知的な上限は150人と定義しました。
さらに、自衛隊の仕組みで見てみると、一番小さな分隊はリーダー1人とメンバー10人で構成される11人。小隊になると約45人、中隊は約180人、大隊は約300人と決まっています。
こうした事例からも、そもそも人間が指揮できる人数、コミュニケーションが取れる上限人数はあるということがわかります。
では、ここからは組織が拡大するにつれて起こる問題について解説していきます。
組織に起こるさまざまな課題は、「自分がやっている仕事の意味がわからなくなる」ことから始まります。組織が拡大するにつれ、効率を求めるために役割分担が進みますが、これは悪ではなく必然です。
しかし、ある一定の人数規模までいくと個人では全体像がわからなくなり、毎日一生懸命やっている自分の仕事が、果たしてどのように役立っているのかが見えにくくなるんですね。
役に立っている実感を得られなくなると「自分ごと化」しにくくなるため、仕事は単なる「作業」に変質してしまう。すると、人はその仕事に工夫することをやめますし、「自分の仕事はここまで」と限定してしまい、結果的にモチベーションも下がります。
さらに、それを放置しておくと、組織における自分の意味、働く意味すら見えなくなり、退職につながってしまう。効率を求めて役割分担をしたのに、ある規模まで行くと効率性が落ちていくという、皮肉な結果になってしまうのです。
とはいえ、これは避けられない現実。「そういうものだ」という前提でマネジメントする必要があり、ここに現場とトップ、もしくは現場と部長以上との意識の乖離(かいり)が生まれるのです。
また、現場内でも「組織に最初からいた人」と「500人のときに入った人」で意識の乖離が生じることを理解しないといけません。
最初からいる人は「仕事は自分でつくるものだ! もっとチャンスを取りに行け!」と言うかもしれませんが、500人規模になって入社した人は「自分に“与えられた”仕事はこれ。この仕事をやり切る」と考えるわけです。
自分の仕事を限定する根幹にあるのは、自己防衛本能だと思っています。それは、「失敗したくない」という心理から始まるのですが、昨今のインターネット社会では、ちょっとした失敗でも、自分で処理できないところまで影響範囲が広がる恐れもありますよね。
たとえば、バブルの名残を知っている世代は、失敗しても成功した体験があるから、「言い訳しないでやれ」と言うかもしれません。だけど、就職氷河期で大変な思いをしてきた中堅世代は、余計なことをして失敗するリスクを負いたくない。
もちろん、自分の仕事を限定するのが嫌で、垣根を飛び出るイノベーター人材は一定数います。でも、圧倒的に少ないでしょう。全体の5%くらいでしょうか。
繰り返しになりますが、組織が大きくなるにつれて自分の仕事を限定し始める理由は、全体像が見えないゆえに、失敗しないようにするための自己防衛策。
逆に、組織が小さければ、誰かが何かに失敗したとしても、その背景を含めて何が起こったのか、みんながわかりますから。
目の届く範囲を超えてきたら、指示命令をする縦のラインだけでなく、部署などを横断した横のラインで役職やポジションに関係なく「対話」する機会を持ち、お互いを理解する組織文化を作ることが必要になってくるでしょう。
昨年から、ものすごく増えている相談が、大企業の優秀な若手の退職です。「この会社ではやりたいことができない」「未来が描けない」と辞めていくんですね。経営トップからは「なんで辞めるのかわからない」とよく言われます。
これは私の仮説ですが、原因の一つに「学び方」が50代と20〜30代では違うからだと考えています。
前者は「やっていればそのうちわかる」「背中を見て覚えろ」の世界で学びましたが、後者は、全体像を知った上でやることの意味(目的)を把握してから行動に移す世代。
当然、ほかにもたくさん原因はありますが、こうした学び方の違いを知って受け入れないと、会社の業績は過去最高益を更新していたとしても、若い世代は働く意義や成長実感を得られずに辞めていく。
意識のギャップが大きな企業で組織開発をお手伝いするとき、若い人にインタビューをすると「ここにいても先が見えない」と答える人が多い。
ですから、もしこれを読んでいる人の中に「先が見えないから、辞めようか」と思っている人がいたら、その会社で働く意味を自分で“勝手に”創り出してみてください。それを原動力にして、一度リセットしてみるのです。
そして、それを一人でやるのはしんどいので、信頼できる先輩や同僚、後輩と考えてみるといいでしょう。
仕事の多忙感が疲弊感になるか、やりがいにつながるか。その分岐点になるのは職場での孤立感です。人との接点が少ないと、相互支援や達成感を得られにくいので、どうしても疲弊感が生まれやすいのだと思います。
全体像が見えないことで自分の仕事が役に立っている実感を持てず、やりがいがなくなり、成長実感を得られなくなることで、当然仕事のモチベーションは下がります。
また、個人がどう頑張れば評価されるのかがわからなかったり、既得権を持つ人が得をしている理不尽な現実を見たりすることでも下がっていきます。
ただ、モチベーションやエンゲージメントは、結果的に上がったり下がったりするもので、人工的にコントロールできるものではありません。だから、モチベーション向上を狙って会社の制度を急に変えるのはナンセンスです。
また、「理念を浸透させたらモチベーションが上がる」という説もありますが、私はそれだけでは難しいと思っています。べき論だけで、人は動きません。
推奨したいのは「いまこの組織にはどういう能力が必要なのか」を明確にすること。これが明確になれば、組織に足りない能力を補うために、個人は何をどう頑張ればいいのかが明確になりますし、評価もされるようになる。
もっと言えば、この作業をやることで、市場構造の変化、テクノロジーの進化などさまざまな要因から、「今、自分たちの組織はイケてない」「今までのやり方では通用しない」という不都合な現実を認めることにつながります。
「今までは『A』をやれば良かったけれど、もうそれは通用しない。だから、組織で『B』の能力を身につけよう」と定義して、少しずつ成功体験を積んでいく。すると、結果的にモチベーションが上がったりするのです。

組織開発は、トップから変わるのが第一歩

組織の問題には「技術的な問題」と「適応課題」の2つが存在します。
技術的な問題とは、専門的な知識やノウハウで解決できる問題です。一方適応課題は、当事者自身が変わらないと解けない課題。そして、多くの組織は適応課題にぶつかっているのですが、技術的な解決策を模索しがちなんですね。
当事者とは、トップを筆頭にした組織を構成する全員です。誰もが組織におけるさまざまな問題に加担していることを認識し、みんなで一緒に変わる。そのために、トップは人が動きたくなる環境をつくる必要があります。
人が動きやすい環境とは、心理的に「安全だ」と思えるような、安心してトライ・アンド・エラーができる「場」のことです。
「場」をつくるために、リーダーは方向性を示し、感情を受け止め、良い悪いの価値判断をして、認知するための対話をする。感情のマネジメントですね。
そうして、組織の中で15%くらいの人が、自分の範囲を越境して動き始めると、組織は自発的に良い方向に進んでいくでしょう。
もちろん、変化に抵抗する人は必ずいますが、そこを変えるのは最後でいい。それよりも、可能性がある人を見つけ出して、その人たちをつなげて「うねり」を起こすことが、結果として、モチベーションを上げていくのです。
ちなみに、日本の会社はミドル(30〜40代前半)がトップを動かす「ミドルアップアンドダウン」が、基本的な勝ちパターンです。
トップは実際の現場で起こっていることがわかっていないケースが多いので、ぜひトップとミドルが直接対話をする機会を探ってみてください。その対話の中から、最初の一歩が生まれることが多いのです。
もちろん中抜きするラインの上司たちに敬意を払うことは当然ですけど。

日本はもっと褒める、称賛する文化があっていい

最後に、「称賛する文化」について触れておきたいと思います。これは、教育の現場にも言えることなのですが、日本はもっと褒める機会が多くてもいい。
半期に一度など、大々的な表彰式を開催する企業は多いですが、むしろ、日頃から「その仕事はたくさんの人に注目されないかもしれないけど、私は見ていますよ。ありがとう」という小さな感謝を積み重ねることで、会社への信頼感につながります。
「自分はこの会社にいていいんだ」「見てくれている人がいるんだ」と思えることは、いわば“共同幻想”である組織において、とても大切なこと。
成果を上げている人だけでなく、成果を上げる人を支える人も評価する文化、もっと言えば役割や職種、部署を超えて個人的に感謝する文化がつくれたら、共感・納得・信頼を得られるバランスの良い組織になると思います。
組織は単なる機能体だけではなく、共同体でもあるのですから。
(取材・文:田村朋美、写真:北山宏一、デザイン:九喜洋介)
共に働く仲間同士で、感謝の言葉と少額のボーナスを贈り合う新しい成果給「ピアボーナス」。Uniposは、ピアボーナスをWebやアプリで簡単に実現し、評価制度だけでは見えない社員の貢献に光を当てます。

仕事の成果を日々オープンな場で称賛されれば、少しずつ成功体験を積むことができ、一人ひとりが仕事に自信を持てるように。

他部署のメンバーの活躍も可視化され、組織の全体像への理解も深まり、チームの垣根を越えたコミュニケーションが生まれることも。うれしさの伴った新しい給与体験が、従業員同士のつながりを生み、チームワークを強化します。