グローバル時代の「必須スキル」。今こそ会計を学べ

2018/6/18
ARM、WeWorkに、UBER、NVIDIA(エヌビディア)──。
近年、毎月のように世界中の有望企業への買収や投資を爆速で進め、世界のテクノロジー界を震撼させるソフトバンクグループ。
その社内では、幹部からある言葉がまことしやかに囁かれているという。
世界が恐れる投資家として、テクノロジー界を席巻するソフトバンクの孫正義氏(写真:Alessandro Di Ciommo/NurPhoto via Getty Images)
「テクノロジーと会計を知ってるやつしか出世できない」
きっかけとなったのが、グループが6月1日に発表した副社長3人の顔ぶれだ。実は、彼らは、創業者である孫正義会長兼社長(60)の「後継候補」とも囁かれている。
3人とは、10兆円ファンドとして知られる「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を率いる元ドイツ銀行幹部のラジーブ・ミスラ氏(56)。スプリントの立て直しで活躍したマルセロ・クラウレCOO(47)。
さらに、話題をさらったのが、佐護勝紀氏(50)だ。ゴールドマン・サックス証券で活躍した後、ゆうちょ銀行の副社長に転身。そして今回、同銀行から電撃移籍となった人物だ。
「ファイナンスの知識や経験など非常に専門的な部分を持っており、僕を補佐する形でぜひいろいろがんばってほしい」
孫氏は、佐護氏の登用の理由について、具体的に「ファイナンス」のスキルを示してこう語ったという。
後継候補の2人が、財務・会計のバックグラウンドを持つ人物から抜擢されたのである。
もちろん、背景には、ソフトバンクグループが、通信会社から投資会社への移行を進めているという事情はあるにせよ、企業の新陳代謝が急速に進むテクノロジー業界で、財務・会計のスキルはますます重要になっている。

英語よりグローバルな“言語”

ただ、その会計・財務の重要性は、投資会社にだけ必要なものではないだろう。いつだって、会計はビジネスパーソンの必須スキルだ。
「末端の社員全員が会計知識のすべてを理解する必要はない。しかし、基礎知識として、ポイント・ポイントは理解していないといけない」
ある三菱グループ系ものづくり企業のCFO(最高財務責任者)はこう言う。
「例えば、『損益計算書(PL)』と『貸借対照表(BS=バランスシート)』がどうつながっているかなどは、せめて分かってほしい。なぜなら、利益が黒字でも、BSが悪ければ『黒字倒産』もありえるし、KPI(重要業績評価指標)もこれらのデータを基にしているからだ」
会計の基礎知識とは、突き詰めると、3つの「決算書」にしぼることができるだろう。
売り上げや利益を書く「損益計算書(PL)」。会社が持つ資産や借金を書く「貸借対照表(BS=バランスシート)」。そして、その企業内で実際にお金がどう出入りしたかを示す「キャッシュフロー計算書(CF)」の3つである。
財務3表は、野球に例えられることもある。BSは生涯打率だ(写真:Lindsey Wasson/Getty Images)
この3つは、野球に例えられることもある。
PLやCFは、企業の1年間の成績を表すため「年間打率」に、BSは企業が通算でどうお金を運用してきたかを表すため「生涯打率(通算記録)」にも比喩される。
こうした会計は、「複式簿記」とも呼ばれる。その歴史は古く、13世紀頃イタリアの都市国家で発祥したとされる。700年以上も人類が積み上げてきた英知なのである。
つまり、会計の基礎知識があれば、海外企業の決算書の要点もつかめるようになる。
「会計は、ある意味で英語よりもグローバルな言語だ」
こう表現するのは、デザインや企業コンサルティングなどを手がける「そろそろ」(東京都文京区)を立ち上げた近藤哲朗社長である。
ウェブ制作会社・面白法人カヤック(神奈川県鎌倉市)出身の近藤氏は、「私自身、ビジネスや会計に苦手意識が強かったが、PL・BS・CFがわかれば、企業の経営状況やビジネスモデルなどが分かるようになることを知り、学んでみるとどんどん楽しくなっていった」と語る。

ソフトバンク、ソニー、RIZAPが登場

とはいえ、今は、テクノロジーがあらゆる業種を自動化し、日常業務からビジネスパーソンを解放する時代だ。
ただ、漫然と「会計」を学ぶだけでは、意味がない。
先述のソフトバンクの事例はまさに象徴なのだが、重要なのは、経理・会計業務をこまめに学ぶことではなく、より大きな「戦略」を数字で捉えていくことだろう。
今回の特集「会計2.0」では、ただの会計知識のおさらいではなく、新時代のビジネスパーソンに必要なスキルをお届けすることに主眼を置いた。
例えば、特集第2回では、なぜ今スタートアップ企業で、「CFO2.0」が求められているのかを詳しく解説した。日本では従来から「経理部長型」「管理部長型」のCFOが多かったが、ベンチャー隆盛の今は「資本市場との対話をうまくでき、経営トップと二人三脚で経営戦略を練り、実行する新たな人材が必要になっている」と説いている。
一方、第3回では、そんな中でも重要な、会計知識の「基本」を徹底的にわかりやすく図解で説明する。
「損益計算書(PL)」「貸借対照表(BS)」「キャッシュフロー計算書(CF)」のチェックポイントを9つのポイントにしぼって、インフォグラフィックでお届けする。
ここで示される会計知識さえ頭に入れておけば、経済ニュースがさらに面白くなるだろうし、ビジネス感覚をより磨けるだろう。
第4回は、アップル、グーグル、フェイスブック、アマゾンという世界を席巻する巨大IT企業の決算書を、英語も交えながら分析していく。
分析は、米国公認会計士の資格を持ち、オーストラリアで監査法人に勤務する現役の会計士・西方篤敬氏に行ってもらった。
第5回は、AI(人工知能)時代に必要とされる「会計知識」についてひもといていく。
クラウド型の会計ソフトを手がけるベンチャー企業「freee(フリー)」の佐々木大輔社長はかつて、ベンチャー企業のCFOも務めた経験から、「新時代の会計論」について、新たな像を提示している。
今回の特集では、その他にも、ソニーの村上敦子執行役員(財務部)、RIZAPグループの瀬戸健社長のインタビューを通じて、会計知識も学んでいく。
さらに、近年話題の仮想通貨について、企業会計にどう反映するかという新たな問題についても掘り下げる。
今回の特集では、会計の基礎知識だけでなく、現代に必要な新たな会計・財務のあり方まで、さまざまな論点について取り上げていく。
(執筆:谷口 健、編集:森川 潤、デザイン:すなだ ゆか)