【最新】世界の小売りを牽引する中国のリアル

2018/6/24
NewsPicksアカデミアで行われた、「新しい小売りのかたち」を学ぶイベントシリーズ「新・小売概論」。今回は新たな商流「ニューリテール」がにぎわいをみせる中国の最新動向を、中国におけるデジタル会員システムを支援する游仁堂代表の金田修氏、メルペイのマーケティングを担当し中国市場の調査活動も行う家田昇悟氏が語った。

中国小売業躍進の背景

──まずは、それぞれ自己紹介をお願いします。
金田 中国で、ローソンさんや良品計画さんと会員を作っていく仕事をしています。日本で例えるなら、CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)に近いビジネスモデルです。
ビジネスを立ち上げた背景として、中国人の15%〜20%は「日本が好き」という調査結果が出ていることが挙げられます。つまり、単純計算で3億人弱が日本を好きな計算です。日本の人口よりも多い人数なので、おそらく世界中で日本のことを好きな人が一番多い国は中国だと思っています。
なので、「本当に良いものがあるが、どうやって中国市場に届ければいいのか分からない」と考えている日本の方たちの、“ゲートウェイ”になれるのではないかと考えました。
金田修(かねだ・おさむ)/東京大学経済学部、ロチェスター大学MBA(αβγ表彰)、北京大学EMBA卒。財務省、マッキンゼーを経てアジア太平洋地域の流通オペレーションプラクティスの代表を務める。2011年に「游仁堂」を設立。
家田 家田と申します。メルペイというメルカリが昨年11月に設立したグループ会社のマーケティンググループに所属しています。大学時代に留学とインターンで2年間上海に住んでいたことがあり、当時から中国のインターネット事情やスタートアップ情報をブログやTwitterで発信していました。
インターン時代は金田さんのもとで半年ほどリサーチの仕事をしていたこともあります。メルカリに入社してからも、新規事業のネタを探しに中国に半年間行き、今年の3月に帰国しました。
家田昇悟(いえだ・しょうご)/メルペイ マーケティンググループ 中国インターネット研究所所長。大学在学中から、中国のインターネットの動向を追い続け、FBグループやブログで最新情報を発信。大学卒業後メルカリに入社。ID連携や振込機能改善のプロジェクトに従事後、中国での調査活動を経て、メルペイのマーケティングを担当。
──中国で、特に市場が拡大している地域はありますか?
金田 地域的には、長江の上流ですね。成都や武漢、重慶などに足を運ぶと、毎月新しい建物を目にします。いわゆる、“アツい”エリアです。
新しいものが生まれる、もしくはお金が一番集まる北京や、もともと工場の街として栄えた深センも面白いエリアです。ハード系の発達に興味があるなら、深センをおすすめしています。消費の観点でみれば、上海は既に成熟しきっているのです。
──中国でビジネスを起こすという視点では、どのエリアがおすすめでしょうか?
家田 ビジネス視点で見ると、北京がもっともお金を集めやすいエリアです。国内トップクラスの大学がたくさんあるので、優秀な学生やエンジニアがたくさんいますし、まだ物価的に安い地域もあります。
──昨今の潮流をみていると、中国では小売市場が拡大していると思います。急激な伸びが発生しているのはなぜでしょうか?
金田 アリババの創業者であるジャック・マーが「ニューリテールが誕生する」という言葉を残していますが、この概念が提唱されたのは2016年の終わり。ベンチャーのマーケットに小売りのお金が回り始めたのはそれ以降の出来事で、直近18カ月くらいです。
一方、オンラインのマーケットは2010年から右肩上がりです。なので、オンラインに限らずオフラインでも市場が大きくなっていることで、僕らにも見えるようになったのではないでしょうか。
写真:AP/アフロ
──アリババは最近、世界の時価総額トップ10にランクインしました。彼らが躍進した理由についてどのように見ていますか?
家田 人口14億人という世界最大の市場で、購買活動に紐付く事業を展開しているからです。世界で一番大きい企業になっていくことは、自然な流れなのかなと思います。
また、BtoC市場を押さえているだけではないのもポイントです。BtoBから事業を始め、そのあとCtoCの「タオバオ(淘宝)」をリリースし、続いてBtoBtoCの「T-Mall」が誕生しています。Amazonや楽天は、おそらくBtoCから参入し、そこをメインにビジネスを展開しています。こうした市場のつかみ方に、大きな差異が生まれています。

中国のEC化率は世界トップに

──ジャック・マーが「ニューリテール」を提唱し始めたのはどんな背景があるのでしょうか。
金田 2015年くらいまでは、新しい利用者が増えることで、マーケットが拡大していました。しかし2016年以降は、新しい利用者が増える時代ではなくなり、いかにして1人あたりの購入単価を増やすかが重要視されるようになったのです。
──顧客の新規開拓が、ある程度一巡したのですね。
金田 もし自分がジャック・マーの立場であれば、「ヤバイ」と思うはずです。継続的に新しい顧客が獲得できないと、小売業界は死んでしまいます。きっと彼も、外に出ていくしかないと考えたのでしょう。
中国の過去数年の消費活動をみると、EC市場は年に30%〜40%程度の成長率があります。しかし中国は、2016年に世界の先進地域の中でもっとも高いEC比率になってしまったのです。つまり、既に天井が見えてしまっている。
ここから先は、人類未踏の地にいかなければ、小売業界は大きくなっていかないのです。そこで「ニューリテール」という概念が生まれたのだと思います。

中国で実店舗が増えている理由

──逆に、オフライン市場では今まで大きな成長はなかったのでしょうか?
金田 オフライン市場も成長しています。