【落合陽一×富士通】「均質化された自分」から脱皮せよ

2018/6/15
筑波大学の落合陽一氏は、先月開催された富士通主催イベント「富士通フォーラム 2018」に登壇した。大ヒット著書『日本再興戦略』になぞらえて「企業再興戦略」をテーマに、富士通の中山五輪男・常務理事首席エバンジェリストと語り合った。今後の日本企業に必要なこととはーー。約1400人の聴衆を集め、同イベントで開かれた約120セッションの中でダントツNo.1の人気を誇ったセッションの中身を紹介する。
約60分のセッションは3部構成で進行した。1部では、企業再興に必要なことを落合氏が語り、2部では同様のテーマで中山氏が講演。3部では中山氏が落合氏に質問を投げかけるかたちでのクロストークとなった。
日本はマスコミュニケーションと近代教育が最も効果的に作用した国家だと思います。人が自然に増えていくことを前提として国をつくることを考えると、「群衆」を「均質化」するほうが効率的だったわけです。多種多様な国民性だったら統率は取りにくいですからね。
だから、マスコミや近代教育の力で同じ情報、同じ教育を施し、可能な限り人を均質化していったんです。経済が伸びているときには効果的ですから。
しかし、これからは違います。人は減っていく。そうなれば、政策、経済計画、教育、社会インフラと、ありとあらゆることを変えていかなければならない。
均質化から解き放たれなければならない。これはいろいろな側面で出てきます。たとえば地方と都市圏。これまでも人口の差はありましたけど、これからはもっと差が出る。だとしたら、都市圏では通用するビジネスが、地方ではこれまで以上に成り立たない。そして、その逆もあるわけです。
人口が減れば、さまざまな問題が起きてくるんです。首都圏と地方では進めるべき施策がもっと変わってくる。たとえば、昔は数百人の集落のために維持していた社会インフラがおじいちゃん1人になってしまったとする。でも、1人になったからといってそのインフラをなくすことはないですよね。
では、そのインフラを維持するために電気を売るとかこれまでとは違う、しかも首都圏とは違う施策が必要になる。中央集権的な統治から、より一層独立分散的な考え方が重要になってくるんです。
加えて受け止めなければならないのが高齢化。体が不自由な人が、人口減とは反比例するように増えていく。高齢化という大きな課題を、私たちは数十年かけてテクノロジーの力で解決していかなければならないんです。
目が見えない、耳が聞こえない、手足が思うように動かないなど、人によって抱える不自由をテクノロジーが解決できることは今でもあるし、これからももっと増え続けるでしょう。
たとえば、私も協力している、富士通が開発した髪の毛で音を感じるインターフェイス「Ontenna」もその一つだと思います。
<Ontenna紹介映像>
私はこうした社会課題にも貢献するようなテクノロジーを研究開発し、それを社会実装するようなことをやっているんです。大学で約45人の学生を教え共同研究しながら、時には企業とも連携しながら、テクノロジーを社会実装する。それが私の仕事です。
そして、企業が今後の成長戦略を考えるうえでも、こうした人口減少や少子高齢化は念頭に入れなければなりません。
別の観点からも均質化からの脱皮は必要です。テクノロジー的に、過去はテレビや雑誌、新聞から得られる情報しかなかったわけですけど、今はパーソナルデバイスを片手に、さまざまな情報が手に入る。全員で1つの画面を見て同じ情報を得ていた時とは違います。これからはシンプルで「個」に最適化されたプロダクトやサービスがより一層求められるのです。
「ダメなオープンイノベーション」からの脱皮
私からは、「企業再興」をサポートする富士通の取り組みについて説明させていただきます。
今、そしてこれから企業が直面するデジタルトランスフォーメーション(DX)。それを実現するための6つの要素を抽出しました。富士通はこれを「デジタル・マッスル」と呼んでいます。
提供:富士通
この中でも今回は、「エコシステム」「人材」「俊敏性」の3つについて少し話をさせてください。
まず、エコシステム。富士通は一般的には大企業で、多くの社員がいますし事業領域も広い。ですが、落合さんの言う通り、社会全体が大きく変化し、お客様のご要望も多様化している中、1社単独でこのさき生き残っていけるとは思っていません。
複数の企業とのエコシステムを形成し、「共創」する重要性を十分に感じています。とくに斬新なアイデアをスピーディにビジネス化するベンチャー企業とのコラボを重視しています。
ベンチャーとのコラボは、20年くらい前からやっているんですね。でも、全然ダメだった。「目的が不明確」「上から目線」「意思決定の遅さ」「首都圏中心」といった大企業のオープンイノベーションにありがちなダメなパターンに陥っていました。
これを改善すべく、本気でベンチャーとのコラボに動き出したのが2015年。スピードを速め、エコシステム形成に対するコミットメントレベルを上げたことで徐々に成果が出て、この3年間でベンチャーとの協業を検討した数は77件、そのうちコラボレーションビジネスは40件ほど出ています。
意外かもしれませんが、本年3月に日経電子版に掲載された「スタートアップ連携に本気な大企業ランキング」で、富士通はKDDI、トヨタ、ソフトバンクに次ぐ4位。少しずつかもしれませんが、富士通は変わろうとしています。
「デジタルイノベーター」という新職種
2つ目は人材。富士通は最近、デジタルイノベーターという新職種を作ったんです。
富士通自身もカテゴライズされる「システムインテグレータ(SIer)」のビジネスは、お客様の要望を聞いて仕様をまとめ、それに合わせてシステムを開発し運用するモデルでした。ある意味、受け身だったんです。
でも、これからは、これまでの受託型ではなく提案型でなければならない。お客様と共創関係を築かなければならないんです。当たり前のように思えるかもしれませんが、そう簡単には変われないんです。
だから、富士通はこうした動きを専門的に担う新職種を作ったんです。それがデジタルイノベーターで、「デザイナー」「プロデューサー」「デベロッパー」の3つに細分化しています。このデジタルイノベーターを2020年の春までに1200人育成しようとしています。こうした人材が先陣を切って、お客様の課題解決に挑もうとしています。
俊敏性=デザイン思考
最後は俊敏性。言葉からイメージしにくいかもしれませんが、「デザイン思考」のことを指しています。
企業再興を考えた時、新しい試みは必須になります。しかし、アイデアが浮かばない、具現化できないという壁があるでしょう。普段の業務とは違う思考もしますので、脳の使い方も変えないといけません。
富士通は、デザイン思考のお手伝いをしていて、以下の5つのポイントをお客様に話しています。
具体的にはお客様に2日間ほどのお時間をご用意していただき、缶詰め状態とでもいえるかもしれませんが(笑)、徹底的にディスカッションしていただきます。私たちは、そのためのワークショップ専門の施設を持っていて、そこで私たちのプログラムに沿ってワークショップを進めていただく。お客様からは良いプログラムと施設によって普段とは違うアイデアが浮かんだというご意見をいただいており、高い評価を得ています。
デジタルトランスフォーメーションセンターでは、ワークショップ専門の設備、ツールとデザイン思考を用いて普段とは異なる思考をサポートしている。
中山:さて、ここからは落合さんに3つの質問を投げかけたいと思います。落合さん、じゃあ、どれからいきましょうか。
落合:じゃあ、まずはテーマ1。これは協業する両側にちゃんと意思決定できるキーパーソンがいないと厳しいですね。企業でも学校でも自治体でも、通常業務の意思決定プロセスに乗るとどうしてもスピードが遅い。だから、プロジェクトを自らの意思だけで判断し進められる人が両側にいるかどうかがとても重要です。
中山:両側がポイントですね。
落合:そう。どちらかがスピーディに進めていても、相手側が遅ければ意味がありませんから。
中山:落合さんの研究室は多くの企業とコラボしていますが、何件くらいやってきたんですか?
落合:数えたことはないですが、40プロジェクトくらいだと思います。
中山:その中でうまくいったプロジェクトは全体の何%くらいですか。
落合:ほぼうまくいってますよ。
中山:ほぼ? そんなにうまくいってるんですか。
落合:ですね。
中山:それは、どんなプロジェクトも落合さんがうまく仕切っているから?
落合:いや、僕は相手側にキーパーソンがいないところとは組まないからだと思います。
中山:なるほど。キーパーソンに必要な要素は何ですか?
落合:いくつかあります。まず社内に顔が利くというか自社の仕組みをよく知っている人。それと同じような専門性があるというか共通言語で話せることですね。それとビジョンが共有できて、人の意見を聞き入れる柔軟な脳みそも必要ですね。あ、あと若すぎないことですね。
中山:何歳くらいがちょうどいいんですか。
落合:30歳後半から40歳半ばぐらい。
中山:結構、年輩な層ですね、意外でした。
落合:日本企業って、それくらいの層じゃないと全然動かないんですよね。若い人は、すごく優秀で元気があっても、うまくいった例が全くなくて。かといって、40代後半以上だと、偉すぎてみんなが萎縮しちゃう。だからコラボプロジェクトのキーパーソンは、意思決定もできて、かつメンバーものびのびと動けるこの層くらいがちょうどいいんです。
中山:なるほど。では、テーマ2にいきます。少しディテールの話になりますが、データの有効活用が今後さらに競争力の源になる時代、私はデータをどこの国よりも自由に効果的に使える国にしていきたいと思っていますが、どのようにしたらいいと思いますか。
落合:データ活用だけの話ではないですけど、日本政府は縦割りの全然違う官僚組織があるので、このさきもうまくいかないと思います。僕は内閣府のプロジェクトの委員なども務めているんですけど、やっぱり、過去のエコシステムをデザインしたがるんですよね、官僚組織って。
中山:過去のエコシステム?
落合:過去がそうだったから、同じ方法でやりたがるんですよ。正しいんです。彼らの習性として正しいんだけど、ただ、冒頭、僕の講演で話したように、過去とは全く違う政策を進める必要がある。だから、政府も大きく変わらないといけないと思うんです。
中山:なるほど。では最後、3番目のテーマにいきましょうか。「働き方改革」ブームですが、どう思いますか?
落合:労働時間を短くしろってやつですか。
中山:いや、そうではないと思うんですけど、今はなんとなくそうなってしまっていますよね。労働時間の削減が焦点になってしまっているような……。どこか違和感があるんです。
落合:「若いやつほど、働け」と言うじゃないですか。あれは間違いで。若いやつは、半分働いて、半分遊んでいるようなものでいいわけなんです。
イノベーティブなアイデアは何も働いている時にだけ出てくるわけではない。むしろ遊んでいる時にビジネスの新たなアイデアが生まれたりする。組織に多様性が大事だって言いますけど、個人にとっても多様性は重要。
だから、さまざまな経験、多様な時間を過ごしていたほうがいいんです。だからある意味、働き方改革で時間を確保するのはいいことなんだけど、削減した時間の使い方がみんなわかってない。そこが問題です。
中山:同感。働き方を変え、効率化した後、新しい価値を生むために何をするのか。そんな本質的な検討がまだできてない。企業再興のカギはここにもありますね。
落合氏と中山氏のセッション中、その内容をビジュアルでまとめるグラフィックレコーディングを富士通デザインのタムラカイ氏が実施した。2人の講演をリアルタイムで記録。講演後に、グラフィックレコードを見ながら振り返る場面も。「講演を聞いた直後、すぐに内容をおさらいし理解を深めてもらえる。記憶に残すための一助になれれば」とタムラ氏。講演直後、グラフィックレコードを多くの来場者が撮影する場面が見られた。聴衆からは「刺激的だった」という声も多く聞かれ、日本や企業の今後についての「気づき」を与えるセッションとなった。
(取材・構成・編集:木村剛士、撮影:北山宏一)