【新】異常事態の西野ジャパン。「ロシアの奇跡」は起きるのか

2018/6/11
6月14日に開幕するワールドカップ・ロシア大会が刻々と近づくにつれ、サッカー日本代表への期待は右肩下がりになるばかりだ(日程はすべて現地時間)。
1998年フランス大会から6大会連続出場となる今回、2カ月前の監督交代という決断を下した日本代表を包むのは、過去5度とは異なる「異常事態」である。
あくまでテストマッチとはいえ、西野朗新監督のチームは開幕直前の2試合でふがいない姿をさらした。壮行試合として5月30日に行われたガーナ戦を0対2で落とすと、6月8日のスイス戦も0対2で敗れている。結果が問われる試合ではないものの、内容的にも見るところが薄かった。
「うーん、いや、厳しいなというのがまずひと言。これではW杯で勝てないと思うし」(長友佑都、「日刊スポーツ」電子版より)
「(直前の国際試合で4連敗した2010年南アフリカ大会と)状況が似ていると思われるかもしれないが、それは自分のなかでは何の保険にもならない」(長谷部誠、「スポーツニッポン」電子版より)
スイス戦後、選手たちは危機感を口にした。
残るテストマッチは12日のパラグアイ戦のみだが、果たして19日に迎えるグループリーグ初戦のコロンビア戦、続くセネガル戦、ポーランド戦で、日本代表が勝ち上がるシナリオはあるのだろうか。

奇跡とは、空想の世界の表現

惨敗に終わった2014年ブラジル大会後、チームとして思うような進化を果たせなかった4年間を経て臨む今大会。
日本代表の現状を考えると、もしベスト16に進出することができれば、「ロシアの奇跡」と言われるほどの快挙だろう。
「奇跡とは、よくファンタジーの世界で使われる表現だ」
2015年ラグビーW杯で優勝候補の南アフリカを破り、「スポーツ史上屈指の番狂わせ」「ラグビーW杯史上最大の衝撃」と形容される金星に導いたエディー・ジョーンズ前監督(現イングランド代表監督)は、そう語った。4年間をかけて周到な準備をしてきたからこそ、狙い通りに強敵を倒すことができたというのだ。
では、ハビエル・アギーレ監督の就任7カ月後の契約解除、ヴァヒド・ハリルホジッチ監督のW杯2カ月前の解任、技術委員長だった西野監督の就任と、強化方針が一貫されてこなかった日本代表は、ロシアの地で「奇跡」を起こすことができるのか。本特集では識者とともに掘り下げていく。
1回目に登場するのは、日本代表として過去4大会に出場しているGK川口能活氏。選手としてW杯を最も知る男が自身の経験を振り返りながら、「勝つためのチームづくり」「グループリーグ突破の成否を分けるポイント」について語る。
2回目は、スポーツライターでプロピッカーでもある木崎伸也氏の寄稿をお届けする。ハリルホジッチ前監督を解任すべきだと早くから指摘していた木崎氏が、この4年間の歩みを改めて振り返る。
3回目は、元日本代表で2010年W杯メンバーの岩政大樹氏のインタビューを掲載する。「常勝」を義務付けられた鹿島アントラーズで長らくプレーし、現在は東京ユナイテッドFCで選手、コーチを兼任する岩政氏が、両者の視点から日本代表のチームづくりを分析する。
開幕戦のロシア対サウジアラビアが行われる14日には、2本を掲載。4回目はバルセロナ在住のサッカーライター・豊福晋氏が、世界の視点から今大会の見どころをレポート。
5回目は14日夕方に、ベルリン在住の写真家・龍フェルケル氏がブラジル大会で撮影したフォトストーリーをお届けする。
ポルトガル対スペインが行われる15日の6回目は、「人生の目標はW杯優勝」と掲げる元プロサッカー選手でスポーツジャーナリストの中西哲生氏と、バルセロナ在住で育成年代の指導者を務める坪井健太郎氏の対談。最先端の知識と卓越した分析力を誇る2人が、強豪国のテクノロジーを活用した進化を明かしながら、日本に決定的に足りないものを指摘する。
優勝候補のフランス、アルゼンチンが初戦を迎える16日の7回目は、イギリス人ジャーナリストのサイモン・クーパー氏への取材を通じ、進化する世界を尻目に日本サッカーが停滞している理由を掘り下げる。
前回大会決勝で激突したドイツ、ブラジルがそれぞれ初戦を戦う17日の8回目は、今大会がロシアで開催される背景について、ノンフィクションライターで『億万長者サッカークラブ』の訳者でもある田邊雅之氏がレポート。ウラジミール・プーチン大統領や、サッカービジネスに巨額をつぎ込むオルガルヒ(新興資本家)の思惑を解き明かすと、今大会の“特殊性”が見えてくる。
日本代表が初戦のコロンビア戦を前日に控える18日には、2本を掲載。9回目は、1996年アトランタ五輪でブラジルを破った日本代表の中心選手、前園真聖氏が「マイアミの奇跡」の背景を語る。
10回目は、2011年W杯で優勝した「なでしこジャパン」の永里優季氏が、世界で勝つために必要なことを執筆する。ガーナ戦を見て「蚊が止まるようなビルドアップ」と一刀両断した永里氏が挙げるカギは何か。
いよいよ日本代表がグループリーグ初戦に臨む19日には、今大会の代表候補だったDF鈴木大輔氏が日の丸への思いを綴る。日本代表、そしてW杯とはどういった価値があるものなのか、選手自身による貴重なレポートだ。
果たして、ロシアに乗り込む日本代表は「奇跡」を起こすことができるのか。あるいはジョーンズ氏が言うように、奇跡はあくまでファンタジーの世界のものなのか。
本番の行方は神のみぞ知るところだが、どんな結果が出ても、日本サッカーの歴史は大会後も続いていく。本特集を通じてロシア大会をより楽しむ視点を紹介しながら、同時に、未来につながる道を模索していきたい。
(写真:スエイシナオヨシ、デザイン:九喜洋介)