感動が“可視化”された世界ではなにが起こるのか

2018/6/13
仮想通貨による資金調達「ICO」が注目されている。日本でQ&Aサイトを展開するオウケイウェイヴ(OKWAVE)が後押しするシンガポール発のICOプラットフォーム「Wowoo(ワォー)」は、この5月「感動の可視化」という理念を掲げて仮想通貨取引所「Bit-Z」に上場、300億円相当もの資金調達に成功した。ICOが普及すると、どんな未来が訪れるのか?

Wowoo CEOのフジマル・ニコルス氏、OKfincの松田元代表取締役、 ビットコインに初期から投資し“ビットコイン・ジーザス”とも称されるBitcoin.com CEOロジャー・バー氏が集い、今後の展望を語った。

※本記事は、情報提供のみを目的とするものであり、仮想通貨の購入や証券投資その他の特定の取引等を勧誘し又はこれらに関する助言を行うものではありません。「Bit-Z」は香港やシンガポールに拠点を置く海外取引所であり、日本の資金決済法上の仮想通貨交換業の登録事業者ではないため、日本居住者はご利用いただけません。

ブロックチェーンで社会を前進させる

──ICOによる資金調達には、どのようなメリットがあるのでしょうか?
ニコルス ICOには数多くの可能性がありますが、その基盤となるブロックチェーン技術を通して人々がつながることができる点が、これから大きな強みになると思っています。
 僕は以前、環境保護に取り組んでいたのですが、社会のために必要な活動のはずなのに、まったく日の目を浴びないことをとても残念に感じていました。活動のための資金を集めることすら難しく、疲れ果てていた……。そんな時に出会ったのが、ブロックチェーンでした。
 ブロックチェーンはあらゆることを記録し、追跡できる技術です。この技術を活用すれば、これまでの資本主義の中ではお金にならないという理由で見過ごされてきた感動や善を“可視化”し、評価することができる。ここからWowooのアイデアが生まれました。

「感動」を伝えるICOソリューション

──「感動を可視化」するとは具体的にどんなことですか?
ニコルス たとえば、「応援したい」と思えるものに出会った時、「がんばってください」とメールで伝えるだけでなく、少額でも活動資金を送ることができたらお互いにもっとうれしいはず。
 ただ現在は、数百円程度のお金を海外に送ろうとすると、それ以上の送金コストがかかってしまうという問題あります。ここにブロックチェーン技術を使えばタダ同然で送金することができます。一人ひとりの寄付はわずかな額でも、こうした行動が集まれば大きな資金になる。
 もし人の心を動かすことができれば、国境を超えた大きな資金調達も可能で、そこから社会を変えることも夢ではなくなるのです。
Wowooプラットフォームでは、参加者が感動や親切を提供した人に対してWowooトークンの支払いだけでなく、投票権の行使などを通じて感謝の気持ちを表明できる
 この流れをブロックチェーンに記録することで、ユーザーがトークンを送るだけでなく、投票権の行使などを通じて応援や感謝の気持ちを表明できるようになるのがWowooの世界観です。
 今、ブロックチェーンに関わりたいと思っている企業や個人が増えていますが、技術面などで障壁を感じていることも多い。そこで我々は必要なスマートコントラクトの提供やトークンセール、それから上場までを一括してコンサルティングできるICOプラットフォームのリリースを目指しています。

日本の上場企業が出資する理由

──Wowooには、上場企業であるオウケイウェイヴの子会社OKfincが19%出資しています。
松田 実はオウケイウェイヴは、早くから仮想通貨に注目してきた会社です。日本の仮想通貨取引所「Zaif」運営元のテックビューロ社への出資や、ICO評議会の取り組みなど投資を積極的に行っています。
 今、世界中にICOプラットフォームの取り組みはたくさんありますが、ニコルスさん率いるWowooに出資を決めたのは、やはり「感動を可視化する」という理念に共感したから。
 Q&Aサイト『OKWAVE』もWowooと同様に助け合いのプラットフォームで、良質な回答者に感謝の気持ちをビットコインで贈る機能をすでに実装しています。我々は初期からマネーゲームの道具としてではなく、ユースケースありきで仮想通貨に取り組んできた。
 現在は、サイト内限定トークンを起点として、感謝を価値化する新しい経済圏「感謝経済プラットフォーム」の開発を進めており、共通点が多いと感じています。

“ビットコイン・ジーザス”も支援

──2011年2月から仮想通貨の世界に身を投じ、黎明期の市場に積極的に投資したことで“ビットコイン・ジーザス”と称されるロジャー・バーさんがWowoo評議員に加わったことも話題を呼びました。
ロジャー 4年ほど前からオウケイウェイヴの兼元社長とは面識があり、松田さんやニコルスからWowooの構想を聞きました。
 OKWAVEが助け合いの場を提供し、人々をつなげてきたように、今後は仮想通貨とICOがこれまでにない方法で世界中の人々をつなぎ、新しい価値を生み出していく。その理念に感激し、仮想通貨の可能性を早くから信じていた彼らのチームなら達成できると思いました。
 法定通貨か仮想通貨であるかを問わず、本来、通貨は人を幸せにするためにあるものです。しかし従来の方法では、すばらしいアイデアを現実するための資金集めが難しいことがあります。
 ICOを活用すれば世界中から注目を浴びたり、資金調達したりすることも可能になるし、投資したい人も世界中の起業家にアクセスできます。将来的にはICOから、次世代のAppleやGoogleのような社会を変革する存在が生まれる可能性も十分にあるでしょう。なかでもWowooのICOソリューションは、世界を大きく変えていく力を秘めていると感じています。

社会的意義があるプロジェクトを推進

──実際に今どんなプロジェクトが始動していますか?
ニコルス Wowooでは、ICOを参加者が感謝の気持ちや感動を表明し合える場にしていきたい。扱うプロジェクトも、社会的意義があり、参加者が感動を分かち合えるものに厳選しています。
 「LIFEX」は、医療系のマッチングプラットフォームです。たとえば、世界のどこかで難病に苦しむ人がいて、別の場所ではその病気を治せる技術を研究している人がいるとします。患者は「新薬が開発されたら1日でも早く試したい」、研究者は「早く治験をしたい」と思っていますが、現状では両者をマッチングするには多額の費用がかかる。海外で治療を受けるための費用を街頭募金で募るケースもよく見られます。
 研究機関、医療機関、患者、一般ユーザーをブロックチェーンでつなぎ、AIや医療ビッグデータを活用すれば、業界に革新を起こすことができる。再生医療分野で世界特許を持つ東証1部上場企業アイロムグループと共に開発を進めています。
「感動の可視化」を軸に多様な分野でのICOプロジェクトが進行中
 また、「ZEN」は寄付プラットフォームプロジェクト。現在の寄付にはワナがあり、実際にお金が正しく使われたかどうかがわからない。でもブロックチェーン技術を使えば、金額の多寡に関わらず自分の寄付が何に使われたかを正確に追跡することができます。市場が透明化し、ちゃんと役立っていることがわかると、寄付する人は増えて社会貢献の文化がもっと発展すると我々は考えています。
 今はICOの価値を多くの人に理解してもらい、普及を進める段階なので、わかりやすく規模も大きいプロジェクトを中心に進めていますが、今後、ICOは企業による大規模な資金調達よりも、個人や小規模プロジェクトのような比較的小さな枠組みで発展していく可能性が大きいと感じています。

「戦争を終わらせる」可能性も

松田 平和な日本にいるとピンとこないかもしれませんが、今も世界のどこかで戦争や内戦が起こっています。たとえば、空爆で両親を失った少女が悲しみに暮れる姿を写真で配信すれば戦争の悲惨さが伝わり、「少女の力になりたい」「戦争を終わらせたい」と考える人が大勢出てくるでしょう。
 ブロックチェーン技術を使えば、スマホをタップするだけでその気持ちを仮想通貨に託して届けられます。一人ひとりの寄付は少額でも、世界中から集まれば1兆円になってもおかしくないし、このぐらいのお金があれば本当に戦争を終わらせることができるかもしれない。
 ブロックチェーンで世界中の人々がつながることで、さまざまな問題が解決し、人類が進化していく。WowooがICOを通して目指しているのは、こういう未来です。
──現在の仮想通貨はギャンブルのような投機対象となっている側面も強いです。こうした状況で、社会に貢献できるICOプラットフォームが可能なのでしょうか。
松田 投機的な需要が先行するのはFXなど新しい金融商品の黎明期によく見られることで、仮想通貨に限ったことではありません。それ自体は悪いものではなく、市場に流動性をもたらしてくれるもの。価値あるものが上昇し、価値のないものがふるい落とされ、適正価格に収斂(しゅうれん)することで市場が健全化に向かう。今はその過程であり、市場が成熟するために必要なプロセスだと考えています。
 そして、その先に「こんなトークンを作ると、もっと良くなる」「このトークンよりもっといいものを作れる」と、実需ベースで新しい通貨が生まれてくるのではないでしょうか。
──そんな世界は、いつごろ訪れますか?
松田 1年ぐらいじゃないですか。すぐに本物の価値が評価されるようになると思っています。

日本は世界を牽引する立場になれる

──法律や規制など日本国内でのICO普及のためには、大きな壁があるように感じます。
松田 仮想通貨そのものに対して厳しい規制をかける国々もあるなかで、日本は世界に先駆けて仮想通貨を決済手段と認める法改正を行うなど、寛容で先進的な面も持ち合わせています。世界のマーケットをうまく取り込んで第一人者になれる可能性はまだまだある。
 オウケイウェイヴは現在、仮想通貨交換業の登録を申請している立場ですが、今、僕たちにできることは、ICOを通して実現したい社会のあり方について発信し、そのための行動を続けること。地道に信頼と賛同を積み重ねていきたいです。
ニコルス これまでのICOの問題として、大々的に資金調達を行ったにもかかわらず、結局プロダクトがまったく出てこなかったという例もあります。
 その点、我々は資金調達からプロダクトまですばやくリリースを行う予定なので、そこを発端にさまざまなプロジェクトと連携を図りながら業界に貢献していきたい。「こんなに便利なのか」というわかりやすいユースケースを示していくことで、国内でも健全なかたちでICOができるようになればうれしいです。
(執筆:森田悦子 編集:樫本倫子 撮影:加藤康 デザイン:砂田優花)