異業種人材続々。今ストライプで生まれる化学反応

2018/6/18
2015年、ファッション業界の変革者・石川康晴社長率いるストライプインターナショナルは、「ライフスタイル企業」へと進化すべく舵を切った。自分たちで服を作り、世界に展開していくSPAのビジネスモデルも推進しながら、「デジタル」と「多角化」をキーに事業にテコ入れを行ったのだ。
その意思は採用にも如実に表れ、アパレルでの経験のない、金融、IT、コンサルティングファームなどの異業種人材を積極的に採用している。異業種の力がストライプでどのような化学反応を起こしているのか。ストライプインターナショナルの1兆円企業への道を探る。(全4回連載)
※所属やポジションは掲載当時のものです

外資系証券会社から未経験のアパレルへ

「服飾の専門学校を卒業した時点で私は32歳。その年齢でアパレル業界未経験というハンデがあったにもかかわらず、大きなチャンスを与えてくれたのがストライプインターナショナルでした」
そう話すのは現在、「earth music&ecology」事業部でマーチャンダイザーを務める高橋恵美さんだ。大学卒業後、外資系証券会社に7年間勤め、3年目からは金融機関向け為替オプション取引に従事した。
「周りの社員は寝ても覚めてもずっと為替のことを考えていて、心から仕事を楽しんでいました。ですが、仕事に慣れるにつれて、私は彼らほどの情熱を持てないと気づいたんです」(高橋氏)
退職し、自分を見つめ直して気づいたのが、子どもの頃からファッションが大好きだったという事実。どういう工程を経て服が作られるかを知るため、服飾専門学校で3年間みっちりと学び、満を持してアパレル業界に挑戦した。
高橋恵美
早稲田大学政治経済学部卒業。BNPパリバ証券会社東京支店に入社。退職後、かねて強い興味を抱いていた服飾の勉強のため伊東衣服研究所に入所。2017年、ストライプインターナショナルに入社。経営企画室などを経て、earth music&ecology事業部へ。MD業務に従事し、企画チームと連携しながら商品計画や発注業務を担当。
店舗の販売員からのスタートも覚悟していたが、ストライプインターナショナルの面接では意外なことを言われた。「まずは経営企画室で働いてもらいたいが、ゆくゆくはいろいろなキャリアパスが考えられます。どんなことをやりたいですか」
「アパレルを学ぶ素地がしっかりしていて、なおかつ新しいことにチャレンジできる可能性を提示してもらえたので入社に迷いはありませんでした」(高橋氏)

証券会社時代と「数字」の見え方が変わった

ストライプインターナショナルでは、他業種からの転職者はまず経営企画室に配属されることが多い。全社の事業部を統合する部署であり、全社的な動き方や利益構造を理解しながら、アパレルの何たるかを短期間で学ぶのに打ってつけだからだ。
高橋さんも約半年間、経営企画室で勤務したことで、スムーズに事業部に移ることができたという。現在は、earth music&ecology商品の計画、商品の発注量・投入数のコントロール、販売方法の検討など、非常に幅広い仕事を受け持つ。
「紙に線を書いて切りながら、デザイナーとスカート丈を一緒に検討するような、商品計画の細かい部分にも携わることができてとても幸せです。それに、今の仕事では、毎日数字に触れてきた前職での経験も生かせています」(高橋氏)
一品番ずつ定性分析と定量分析をかけて、去年の売れ筋や、トレンドの傾向など様々な要素から売れ行きを予想するのも高橋さんの仕事だ。ただし、扱っているものが同じ「数字」でも、証券会社時代と今とでは、高橋さんの認識に大きな違いがある。
「証券会社で大きな額は見慣れていました。でも、実際に商品を購入されるお客様を見て、捉え方が変わりました。いろんな人が努力して、工夫して、お客様に納得されたものだけが数字になる。今まで自分が見てきた『数字』がどのように作られているのかを、そこで初めて理解したんです」(高橋氏)
顧客の求めるものに合わせて変化し続けなければ、ファッションブランドは長続きしない。
日々変化があるのは前職と同じだが、「考えられる係数をひとつひとつ潰していけば大きな損はしない」という論理だけの世界ではない。アパレルでは人の気持ちやトレンドといった、簡単に数値化できないエモーショナルなものとも付き合う必要がある。
それらを理解するためにはじめたことで、最近、高橋さんが面白いと感じているのは、店頭での観察だ。人がどう動き、何を手に取るのか、実際に購入するものは何なのか。ストライプインターナショナルの店舗だけでなく、競合の店舗にもお忍びで足を運ぶ。
「AIが進歩してくれれば楽になるのですが、ただそれを待つわけにもいきません(笑)。今後の課題は定性的な領域をいかに定量的な領域に落とし込めるか。発注数の精度や販売方法の適切なコントロールにつなげていきたいと思っています」(高橋氏)

「アパレルのことは入ってから勉強すればいい」

「日本に大きなインパクトを残せるモノやサービスを世の中に提供したい」
外資系コンサルティングファーム、ベンチャーキャピタルを経て、2014年には(松下幸之助に憧れて)ITベンチャーを起業した阿部紘樹さん。十分な売り上げはあったものの、このまま事業を続けて本当にそれが達成できるのか、疑問を抱えていたという。
大学時代の友人に相談したところ、「うちの社長に会ってみたら」と勧められた。それが石川社長だった。
「国内外でearth music&ecologyは300店舗を超え、グループ売り上げも1000億円を超えた。今はまだアパレルの会社だけど、売り上げ1兆円を目指すため、ライフスタイル事業を全部やりたい。海外にも出たい。上場もしなければいけない。それを一緒にやるメンバーを集めている。
そんなことをダーッと話されて、僕はほとんど話を聞いていただけです(笑)。でも、この会社ならきっと日本にインパクトを残せると感じて入社を決意しました」(阿部氏)
阿部紘樹
筑波大学卒業後、外資系コンサルティングファームに入社し、物流業や官公庁を中心に人事・財務計画策定、業務効率化支援等に従事。2011年、シンガポール系ベンチャーキャピタルに入社し、新規事業立ち上げおよび投資先企業のハンズオンを担当。その後、ITベンチャーを起業。2016年、ストライプインターナショナルに入社。社長室、経営企画等を経て、ブランドのマーチャンダイジングを担当。
しかし、阿部さん本人は業界未経験なだけでなく、効率重視でまったく同じスーツを5着購入するほどファッションに無頓着だった。石川社長に「弱みはなに?」と聞かれて「アパレルのことはまったくわかりません」と答えたほどだ。
しかし、石川社長は「それは入ってから勉強すればいい」と言ったという。
「『アパレル×IT』『アパレル×ライフスタイル』というように、ほかの業種と掛け合わせて付加価値を提供しなければ、今後アパレル企業は生き残れません。だから、ストライプインターナショナルはこれまで以上に多様な人材を求めている。
そして、僕に求められていたのは、コンサル時代に培ったフレームワーク力やロジカルシンキング、また、多様な人材を組み合わせるマネジメント力でした」(阿部氏)
阿部さんもまずは経営企画室に配属された。
そこで最初に携わった大きなプロジェクトが、F2層向けのECサービス「STRIPE DEPARTMENT」の立ち上げだ。「高品質の商品を求めるF2層×ECがアツい」という阿部さんのアイデアをもとに、石川社長と構想を詰め、チームが組まれた。
STRIPE DEPARTMENTは今年2月にオープン。初年度取扱高は16億円、3年後には100億円を目指す
「STRIPE DEPARTMENT」の計画を軌道に乗せ、阿部さんは「koe」ブランドに異動。ストライプインターナショナルにとって、koeはこれから大きく育てていきたいブランドである。その旗艦店として、2018年2月に渋谷にオープンしたのが「hotel koe tokyo」だ。
「hotel koe tokyo」は、ライフスタイルブランド「koe」のブランドコンセプトである「new basic for new culture」を体現する場としてデザインされた。詳細は画像をタップ。(撮影:長谷川健太)

koe、MBA、育児休暇。「人間力」を鍛えるハードな日々

アパレルだけでなく、ホテルと飲食も提供する「hotel koe tokyo」は、ライフスタイル企業への進化を遂げるストライプインターナショナルを象徴するような空間だ。
「hotel koe tokyo」の2階部分では、アパレルだけでなくおしゃれな「東京土産」も扱う。
「入社以降、アパレルに関する知識はある程度吸収できました。しかし、飲食やホテルになると、また何もわからないレベルです。自分がわからないものをマネジメントするには、わかる方の力を引き出して、うまく回せるような仕組みを作る必要があります」(阿部氏)
そういった意味で、コンサル時代と仕事の内容自体は変わらない。しかし、逆に大きな違いもあるという。
「ビジネスモデルと収益モデルを作って、あとはクライアント次第というのがコンサルです。しかし、事業会社では、どんなに優れたビジネスモデルを考えたとしても、周りの人を巻き込んで形にしなければ意味がありません。
つまり、完璧な計画をうまく浸透させるところまでが私の仕事。『人間力』とも呼べる部分で、今、非常に鍛えられています」(阿部氏)
日々、多種多様な課題と向き合う阿部さんだが、この4月からはMBA取得のため、一橋大学に通っている。石川社長自身がMBAを取得した際、大きな学びがあったということで、希望者は選考の上で受講できる制度ができた。阿部さんはその2期生だ。
授業は平日18時20分から22時まで。ハードな毎日だが、周りの理解と協力によって受講を続けられている。さらには最近子どもが生まれ、育休取得の準備中だという。
「『イクメンかつバリバリ仕事をする人になりたいので、育休を取りたい』と、内心ドキドキしながら石川に相談したら、『いいじゃん、人事本部長に言っとくよ』とすんなり。
男性社員が少なく、まだ育休制度を利用した例も少ないので、モデルケースになるよう、必要以上に背中を押してもらいました(笑)。そんな部分も含めて、入社前に想像していたアパレル企業のイメージを覆され続ける毎日ですね」(阿部氏)
(編集:大高志帆 執筆:唐仁原俊博 撮影:露木聡子 デザイン:九喜洋介)