チームと心を通わせるためには

「すべての従業員の可能性を引き出すために、組織を民主化してフラットなチームを作りたい」
多くのリーダーがそう望むが、簡単にできることではない。とくに会社の創業者やCEOの場合、完全に権力を手放すことはなかなかできない。社内で「自分が一番スマートな人間でないといけない」という強迫観念を捨てることも難しいだろう。
だがリーダーの大事な役割とは、チームのみんなが「これは自分たちの仕事である。自分たちが中心である」という実感をもてる環境を作ることだ。
「すべてはリーダーが中心に回っている」とチームに思わせてはいけないと、広告企業オグルヴィ・アンド・メイザー ワールドワイドのジョン・サイファートCEOは語る。
「チームに対して自分が一番なんだという振る舞いをしていたら、彼らと心を通わせることはできないだろう。どんなリーダーにも、仲間の立場になってみるという重大な責務がある」
サイファートはこの教訓を身をもって学んだ。そして彼の経験は、より良きリーダーになりたいと思っているすべての起業家の役に立つだろう。

1980年代、タイ、100枚のスライド

サイファートが初めて「気づき」を得たのは、1980年代半ば、オグルヴィのタイ支社を仕切っていたときだ。ちょうどタイ経済が急成長していた時期に重なる。
サイファートは最初、「タイ人に対し、自分がどれだけ頭が切れて、すべてを知っているかを見せる必要がある」と考えていた。
だが、プレゼンは大失敗に終わった。タイ人たちから丁重に「誰もあなたの100枚のスライドに興味はありません」と言われたのだ。サイファートにとって「目からウロコ」の瞬間だった。
「成功と良いリーダーシップへの道は、部下に自分のスマートさを見せることではなく、彼らが最高の仕事をできるように自分に何ができるかを模索することなのだ」
この経験によって「自分の貢献の仕方に関する視点が完全に変わった」と、サイファートは振り返る。彼はこの開眼のおかげで、オグルヴィで昇進の階段を上っていくことができたという。
これは起業家にとっても学ぶところのあるエピソードだろう。
自分で会社を興すと、企業文化の管理からサイバーセキュリティの監督まで、すべてを自分でやる必要があると考えがちだ。一歩引いて、部下たちに任せることがなかなかできない。しかし、それこそが、上に立つ者がやるべきことなのである。

全社員からフィードバックを得る

サイファートはオグルヴィの9代目会長でCEOである。そんな彼は「創業者デビッド・オグルヴィを含む8人の先代たちの背中から学ぶ立場」として、社の歴史に深い思い入れがあり、その未来について責任を感じてもいる。
同時にサイファートは、社員の声に積極的に耳を傾けようとしている。オグルヴィ社は現在、カリフォルニアのスタートアップ「HundredX」が開発したシステムを使い、従業員が社内のことについてリアルタイムでフィードバックできる環境づくりに励んでいる。
「つまり、みんなの知恵を借りることだ」と、サイファートは言う。「何がうまくいっていないのかがわかり、その問題を特定して直すことができるようになる。素晴らしい成果をあげている人物を認識して評価することが、体系的にできるようにもなる」
「Wisdom of Crowds」=「みんなの知恵」または「集合知」というフレーズは金融市場でよく聞かれる言葉だ。
だが多くの頭脳が集まれば、数少ない頭脳に勝るという考え方は、ビジネスにも当てはまる。ただそれには、トップの人間が下で働く人たちの声に耳を傾けなくてはならない。
サイファートはこの「聞く行為」がオグルヴィを中から改革し、顧客にもより良いサービスが提供できるようになると考える。
想像してみてほしい。オグルヴィのような大企業で、肩書きに関係なく全社員からリアルタイムで意見を得ることにより、業績が上がったとする。これと同じことを小さな企業でやったら、どれほど大きな影響がもたらされるだろう。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Aaron Task/Editor-in-Chief, Experian、翻訳:中村エマ、写真:SaoriDesign/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with Cartier.