【5分で名著】主流派経済学の未来を憂う『21世紀の貨幣論』

2018/5/30
気鋭の経済学者、安田洋祐・大阪大学大学院准教授が、世界経済の今を読む解くための必読書を紹介する短期連載「資本主義・マネー・世界経済がわかる3冊」。
第1回目では、人類史という視点で経済を俯瞰した『サピエンス全史』を取り上げた
第2回目の今回は、元世界銀行エコノミスト、フェリックス・マーティン氏が書いた『21世紀の貨幣論』を紹介する。
この『21世紀の貨幣論』の主題は、「経済学と資本主義の未来はどうなるか」という壮大なテーマで、マネーをめぐる6000年の歴史をひもといている。

「経済学という学問」に対する疑問

経済学のアカデミズム界における「主流派」と呼ばれる人たちは、資本主義や金融の問題点、そして、その解決方法について何か役立つ提案をしているでしょうか。
『21世紀の貨幣論』の著者であるフェリックス・マーティン氏は、有名なエコノミストたちの近年の発言を引用しながら、主流派経済学者に対して、疑問を投げかけています。
例えば、現代の主流派経済学に疑問を抱く1人が、ローレンス・サマーズ氏。彼は、アメリカ財務長官(1999~2001年)やハーバード大学学長(2001~06年)を務めた経験のある、世界的に著名なエコノミストです。
ローレンス・サマーズ(Lawrence Summers)/1954年生まれ。1991〜1993年、世界銀行でチーフエコノミスト。1999~2001年、アメリカ財務長官。2001~2006年にはハーバード大学学長を務めた。(ロイター/アフロ)
サマーズ氏は最近、「長期停滞論(secular stagflation)」を唱えて、たびたび欧米メディアに出てきます。この論は、現在長く続いている世界経済の低金利や低インフレが、長期的な視点でみると停滞期に突入しているのではないかとする仮説です。
サマーズ氏は、リーマンショック後の2011年4月、米ニュー・ハンプシャー州ブレトン・ウッズで行われた講演で、次のように述べました。
第2次世界大戦以降、正統派経済理論の膨大な体系が構築されてきたが、危機対応においてはまるで役に立たなかった。