シリコンバレーが、日本人に「素顔」を見せない理由

2018/5/28
焼けた家屋が「1億円」
2018年4月、米国のシリコンバレーの住人たちの間では、ある住宅につけられた「価格」が大きな話題になっていた。
現場は、サンフランシスコ市内から車を飛ばして1時間くらいの距離にあるエリアだ。2年前に火災で焼けただれたまま、放置されていた一軒家に、なんと93万8000ドル(約1億220万円)という価格がついたのだ。
不動産会社によると、その家が売却されると決まった途端、合計9人からキャッシュで払いましょうという申し出があったのだという。
「売り出された価格は当初80万ドルでしたが、そこから吊り上がるなんて、さすがにバカげていますよ!」(地元住民)
火災によって朽ちたこの家屋が、1億円以上の価格で売却された(写真;洪由姫)
もちろんボロボロの家屋を取り壊して、新たに建築するコストは含まれていない。それが「億円」するというのだから、地元でも大きなニュースになった。
ちなみに値上がりした背景には、グーグルが2025年に巨大オフィスをこのサンノゼ市に建設する計画があるからだ。約65万〜74万平方メートルの空間に、新たに1万5000人以上の社員が働くことになるという。
ちょうど20年前、小さなガレージから始まったグーグルは膨張を続けており、古き良きシリコンバレーの匂いを残していたこのサンノゼ市を、飲み込もうとしている。
ちなみに時を同じくして、フェイスブックが本社を構えているメンロパーク市でも、新しい街をまるごと作るための構想が進んでいる。
1500戸の真新しい住宅に加えて、ショッピングモールやホテルといった施設が並ぶ。2019年にも建設が始まるこのプロジェクトは、CEOのマーク・ザッカバーグの名前に、ちょっとした皮肉をこめて「ザックタウン」と呼ばれている。
「何もない静かな場所だったのに、交通量はどんどん増えて、街は変わった」。ザックタウンの隣人たちは、テクノロジー企業によって激変する風景に、ただただ圧倒されている。
1500戸の住宅を建設するが、新たに雇用する従業員はその数をはるかに上回る予定で住宅不足は深刻。
京都よりも「閉鎖的」
そもそも「シリコンバレー」とはどこか、ご存知だろうか。
この地域は長くはアーモンドや杏、ブドウなどの生産地として有名で、「喜びの谷間 (the Valley of Heart’s Delight)」と言われていた。
それが1960年代から始まる半導体産業の急成長によって、原材料のシリコンから「シリコンの谷間」と名付けられるようになった。それが名前の由来だ。
いまや面積にして東京都の約2倍のエリアに、アップルやグーグル、フェイスブックといった、時価総額にして数十兆円というテクノロジー企業の“城下町”がひしめいている。
新しいアップルの新本社の社屋(写真:Getty Imges)
あなたが観光客であるならば、シリコンバレーを見て回るのはとても簡単だ。
スティーブ・ジョブズが暮らしていた自宅前でセルフィーを撮影し、配車サービスのUberを使って、名門スタンフォード大学の土産物店でTシャツを買えばいい。
運が良ければ、グーグルの自動運転車を路上で見つけることができるかもしれない。
しかし、約10年ごとに拡大と脱皮を繰り返し、新たな産業を生しているシリコンバレーの「仕組み」については、何一つ分からずに帰宅することになるだろう。
ここは「一見さんお断り」の、閉鎖的なインナーサークルでものごとが動いているからだ。
NewsPicks編集部はこのシリコンバレーに新しく支局を開設。現地ネットワークを広げながら、このハイテク都市を縄張りにしている、知られざるヒトとヒトのつながりを追いかけてゆく。
その第一弾となる特集が「シリコンバレー 秘密の人脈」だ。
【完全解説】やっと理解できた、シリコンバレーのヒト・モノ・カネ「全歴史」
まず特集では、誰もが知っているアップルの「誕生前」に、このシリコンバレーの土台を築き上げてきたカリスマたちの物語を描き出す。
膨大なリサーチで浮かび上がるのは、シリコンバレーという土地が抱えている歴史の奥深さだ。これが分からなければ、おそらくシリコンバレーへの理解は、ずっと「憧れ」のまま終わるだろう。
この記事を読み終えたときに、多くの人が初めて「そうだったのか」と膝を打つに違いない。
 【禁断レポ】アップルの城下町で働く、日本人社員たちの「眠れない日々」
シリコンバレーの超一流企業の社員は、そのブランドに頼って優雅に暮らしているのではない。時には生き残りをかけて、必死で働いている。
NewsPicksは今回、アップルの城下町であるクパチーノに潜入。シリコンバレーでもっとも熾烈に働くといわれるアップル社員らと、毎日顔を突き合わせながら、奔走する日本人たちの姿を紹介する。
内側からみたアップルの城下町の光景に、あなたは唖然とするだろう。
【伊佐山元】孫正義ファンドに、なぜシリコンバレー投資家は怒るのか
リスクをとって投資をするベンチャーキャピタル(VC)も、このシリコンバレーの革新を支える重要なプレイヤーだ。
そんなVCらのオフィスが連なるサンドヒルロードは、いわばVCの「銀座」のような場所だ。そこでは1000を超える投資家集団が、お互いのポジションを巡って、優良案件に目を光らせている。
そこに2017年に突如現れたのが、10兆円以上の運用資金をほこる、ソフトバンクグループの孫正義社長が率いる「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」だ。
「あいつらは必要以上の大金を注いで、問題ばかり巻き起こしている」(老舗VCパートナー)。
現地では賛否両論を巻き起こすこのビジョンファンドは、VC業界の格付けバトルをどう変えるのか。レポートをする。
【独占公開】年収1000万円は低所得。シリコンバレー住人の「家計簿」
最後に、サンフランシスコ市内に支局を開いたNewsPicksにしかなし得ない、ユニークな企画もお届けする。
今回は世界でもっとも物価が高いと言われる、シリコンバレーで暮らしている人々の「秘密の家計簿」の中身を紹介する。
「年収1000万円でも貧困層」と言われるこの都市の生活が、どれだけ苦労の多いものか分かるはずだ。世界で最も住みづらい場所で日本人の家族はどう生き抜いているのか、3世帯の家族が収支を公開しサバイバル術を伝授する。
この特集を読み終えた時、あなたはこのシリコンバレーの内側に、最初の一歩を踏み込んでいることだろう。
(執筆:洪由姫、編集:後藤直義、デザイン:九喜洋介)