働き方改革、手段が目的になっていませんか?

2018/6/14
今やその言葉を聞かない日はないように感じられる「働き方改革」。果たして進んでいるのか、進んでいないのか…。そもそも何のための「働き方改革」なのか。「経営から求められる真の働き方改革とは? 働き方を変えて業務のあり方を見直し、付加価値を創造せよ」と題した、日本IBMのグローバル・ビジネス・サービス事業本部、コグニティブ・プロセス・トランスフォーメーション 組織人財変革コンサルティング・サービス パートナー 石田秀樹氏の講演から、その答えを導き出す。

ドイツは小学生の夏休み分、日本より休んでいる

まずはこれを見てください。
OECD(経済協力開発機構)が公表している2016年の国別労働時間です。労働生産性が高いと言われるドイツと比べると大きな差があるのが読み取れます。
ドイツの年間労働時間は日本に比べて、約350時間少ない。1日の労働時間を8時間に設定して日で表すと43.8日。小学生の夏休みの期間とほぼ同じですね。ドイツは、小学生と同じように夏休みをとっているのに、日本よりも年間の労働生産力が高い……。
日本IBM 石田秀樹
グローバル・ビジネス・サービス事業本部、コグニティブ・プロセス・トランスフォーメーション 組織人財変革コンサルティング・サービス・パートナー
グローバル・ビジネス・サービス事業部で、組織変革および人財マネジメント領域のコンサルティングサービス部門の責任者を務める。複数の外資系コンサルティングファームを経て、日本アイ・ビー・エムに入社、以後一貫して「組織」と「人」の側面から企業変革に携わり、大規模企業を中心に、18年以上のコンサルティング経験を基にした実践的な変革支援に従事している。近年では、人財マネジメント領域でのさまざまな課題に対して、コグニティブ・コンピューティングを用いた“働き方改革”の活動を通じて、企業の持続的成長を包括的に支援している。
ドイツは政府が長時間労働を厳しく取り締まっている政策の力が大きいと思いますが、企業では、
① 「短い時間で最大の成果を上げる社員を評価する」
② 「成果が出ないのに残業する社員を評価しない」
③ 「売り上げだけでなく収益力を意識している」
の3点をとても大切にしているそうです。その結果、高い生産性を身につけ、ワーク・ライフ・バランスを適正に保っている。
では、日本はどうか。
私は「CxO」の方々とお話しさせていただく機会が多いのですが、多くの企業が中期的に取り組むべき重要項目に「働き方改革」を位置付けています。実際に、企業にアンケート調査した結果もそれを裏付けています。
「働き方改革、何かやっていますか?」とお聞きすると、「すでに始めている」「準備を始めている」という回答が、全体の80%ほどに達します。
では、「何をしていますか?」とお聞きすると、「残業を禁止している」や「在宅、リモートワークを許可・奨励している」「評価制度を変えている」「異動のプロセスを変えた」などという回答が多いです。
ただ、これだけで本当に働き方改革が実行できているのでしょうか。ここからは私が感じているいくつかの「ここが変、働き方改革」についてお話しさせていただければと思います。
Strange 1 「改善」止まり
働き方改革は、労働生産性の数式、これを頭にイメージしながら見ていく必要があると思います。
労働生産性の式は、分母が働いた時間、分子が生み出した価値で表せます。労働生産性を高めようとすると、まずは分母である労働時間というものを改善していこうとします。先ほど示した企業が取り組む「働き方改革」の中身はほとんど、この分母を小さくする取り組みですよね。
ただ、この労働時間だけで、労働生産性は飛躍的に高まるでしょうか。いまやっていることの無駄をなくし、時間を捻出しようとする動きは間違っていないと思います。分子を高めるためのリソース確保の意味でも非常に大事。でも、そこでとどまってしまっていては、労働生産性を高めるという目標達成には弱いと感じます。
順番として、分母を先に手がけることは大事ですが、その後の付加価値創造についても策を練ることを念頭に置かなければなりません。
Strange 2 組織体制
2つ目のポイントは、働き方改革を推進している組織についてです。働き方改革を推進する部門、担当者は企業によってさまざまですが、私の経験からすると、専門部署をつくって、この4つのパターンに配置することが多いと思います。
1つ目は、CEO直下。2つ目はCIO(IT部門)に配置するタイプ。3つ目はCSO(Chief Strategy Officer)をトップにした経営企画部門に属するかたちで、最後が人事部門の下です。
これらにはそれぞれ課題があります。1つ目は、CEO直下ですので推進力はありますが、現場の人間にとってはどこか他人事というか、「いろいろ上から言われるけど、おれたちには関係ない、現場がわかってない」となって、浸透力が弱い。
2つ目は、私たちITベンダーが言うのも問題かもしれませんが、CIO直下に置くと、もうITツールの山積み。働き方改革につながるようなITツールをどんどん入れることに終始してしまい、結果的に無駄な投資をしているケースが多い。
3つ目はもっともらしいですよね。経営企画はプランニングのプロですから、戦略と実行計画を立てるのが得意。そこまでは良いんですが、それを運用する時には、経営企画部門の手から離れていますから、運用されていないという結末を迎えます。
4つ目は、残業を減らそう、時短勤務を推進しよう、と手段が目的になりがちな結果が……。
では、どういう組織が一番適しているのか。私が考える組織はこうです。
1番目のようにCEOの直下に置いて、トップダウンで全社プロジェクトということを意識してプランニング。そのうえで、各部門にエージェントのようなスタッフを配置して運用する。これによってPDCAが円滑に回ると思っています。
Strange 3 手段の目的化
最後にもう1つ、改めて強調しておきたいのが、日本企業が言う「働き方改革」は「施策」を指していることが多いということです。
「働き方改革」は「改革」という名前が付いているくらいですから、施策ではなく、テーマでありビジョンなんです。それなのに、みなさん、残業をなくそうとかリモートワークを推進しようとか、手段を最初に考えてしまっている。
それゆえに、働き方改革がスムーズに進まない。私は働き方改革を進めるに当たって企業が直面する課題は大きく4つあると思っています。それが下記の内容です。
改革してどんな組織にしたいかを想像し、あるべき姿を定め、それに向けての施策をつくるといったプロセスが大事です。働き方改革とはあくまで表面上の話で、真の目的は「企業が持続的に成長するための競争力の創出」にあります。
ところが、いろんな施策に目が行ってしまい、手段をあれこれ考えてしまうから、真の目的が見えなくなっている。
いま一度、自社にとっての競争力とは何か、それを創造するために何が必要か、その中で働き方はどうあるべきかといった思考のプロセスを踏んで働き方改革に臨んでほしいと思っています。  
大阪オフィスエントランス
フロアの廊下には、オフィス内のマップとともに会議室や座席の空き状況や予約状況が把握できるようになっている。スマホの専用アプリからも同様のことが行え、オフィスの稼働状況を見える化している。
鏡に話しかければWatsonがさまざまな案内をしてくれる。パナソニックとの米国での共同開発製品で、店舗やオフィスなどさまざまな場面で応用できるという。
オフィス内の打ち合わせスペース。オープンながらも会話は外に漏れにくい設計になっており、専用のタブレットで機材を自在にコントロールできる。
通称「スタジアム」。省スペースながら大人数が集まることができるようにスタジアムのようになっている。ラフな雰囲気でプレゼンできることも狙いで、ディスカッションしやすいように配慮している。
オフィス内にはこうした丸型テーブルがいくつか設けられている。少人数でのプレゼンを、円卓を囲んで行う。
ミーティングメモを気軽にとれるようにモバイル型のホワイトボードを複数縦置きしてある。
ほぼすべての壁はホワイトボードとして活用が可能。どこでもミーティングしてメモがとれるように設計されている。
フォーンブース。座席に座って電話をすると自然と声がこもり、大きな声を出しにくいように設計されている。
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記事に登場した石田秀樹氏と日本IBMの藤森慶太・IBMサービス GBS事業本部 インタラクティブ・エクスペリエンス事業部 事業部長 パートナーが「働き方改革」についてディスカッションした記事も公開しています。こちらからご覧いただけますので、併せてお読みください。
新オフィスのデザインコンセプトや目的などをオフィスの写真を交えながらご紹介しています。記事はこちらからご覧いただけます。
(取材・構成:編集:木村剛士、撮影:北山宏一)